1. 事業種類別の問題・課題と対応方向

(6) 物流業務の合理化事業

1 具体的事業の内容
物流業務の合理化に関して、酒類卸売業者が実施する具体的事業内容としては、以下の4つがある。
1) 計画的受注を推進するために、受注〆切時刻を設定する。
2) 物流システムを活用することで物流業務を合理化し、入荷・保管・ピッキング・出荷システムを検討・導入する。例えばピッキング作業の合理化に関しては、配送車1輌当りのピッキング時間を測定し、その短縮化を図る。
3) 適正在庫総額を設定する。そのための適正在庫算出方法を研究する。そして酒類別の在庫回転日数を短縮化する(特にデッドストック、スリーピングストックを削減する)。アドレス管理も徹底し、デジタルピッキングの導入を検討・実施する。
4) 配送車の回転数向上や、配送業者、同業他社等との共同契約・共同配送等の実施により、配送を効率化する。
2 事業の効果
物流業務の合理化事業の効果としては、以下の7つが確認できた。
1) 受注〆切時刻内の受注比率が高まった
  • 受注締切り時間を守る取引先の割合が高まった。
2) 発注の精度が向上した
  • 自動発注の実施により、発注精度が向上した。
3) 在庫及び欠品が減少した
  • 発注リードタイムが短縮したことで、平均在庫が減少し、デッドストックを削減できた。
  • 欠品が減少した。
4) 在庫管理の精度向上
  • 当日稼動商品の全品棚卸の定着で、帳簿在庫と実在庫の違算は最小限に抑えられるようになった。
5) 配送の効率性向上
  • 配送業務の改善に取り組んだ結果、配送車両の回転数と積載率が改善した。
  • 配送ルートの見直しや積載率の向上に向けた各種施策の実施により、必要トラック台数そのものが削減できた。
6) ピッキング時間の短縮
  • ロケーション管理の実施により、ピッキング時間が大幅に短縮できた。
7) 物流業務のアウトソーシングの推進
  • 物流業務を分社化したことで、従業員数や経費削減等が実現した。
3 実施上の問題点/実施しない理由
物流業務の合理化を行う際の問題点、及び実施しなかった理由として、主として以下の5つが確認できた。
1) 顧客へのサービスレベルが維持できないこと
  • 顧客へのサービスレベル維持の視点から考えると、合理化のための施策が打ち出し難い(合理化施策を実施すると、顧客に対するサービスレベルが落ちてしまう)。例えば配送頻度を下げることは配送の効率化推進の観点から見るとメリットがあるが、取引先からはクレームが来た。また受注締め時間の設定は、計画的受発注推進の観点から見るとメリットがあるが、顧客の立場を考えると徹底できないのが現状。
  • 物流業務をアウトシーシングしているため、顧客の要望に十分に対応できていない。
2) 取決め事項の履行に関する強制力が欠如していること
  • 受注締め時間を設定しても、締め切り時間を守らずに無理な配送を要求する取引先が後を絶たない。小売サイドにおける業態変化の進展の結果、在庫スペースが不足する店舗が増加したことなど、構造的な原因が背景にあると思われる。
3) メーカーの決算対策の影響を受けること
  • メーカーから月末押込み等があり、在庫が減少しない。
4) 同業他社及び取引先との関係性に起因するもの
  • 共同配送に関しては、秘密保持や情報管理等の問題があり、計画は策定するものの実現できない場合が多い。
  • 自社単独で実施できる課題は積極的に取組んできたが、得意先の理解と協力が必要な分野に関しては、実施が遅れている。
  • 配送業務等は、他社にアウトソーシングしているため顧客とのコミュニケーション不足の状態になり、プロモーション戦略上、マイナス要素になりうる。
5) 事業を取り巻く法環境面に起因するもの
  • 改正道路交通法の施行により、配送者への2名乗車が必要になったため、人員面での負担が増えた。
4 対応の方向
物流業務の合理化に関する対応の方向としては以下のような項目が必要である。
1) 小売業者の理解を得る
物流業務の合理化を行うと、取引先小売業者へのサービスレベルが低下する可能性がある。例えば受注を前々日及び1週間毎に変更する等である。このようなサービスレベルが低下する場合は、それによるコスト削減効果を説明するなど、物流合理化を行うことに対する小売業者からの理解を得る必要がある。
2) メーカーに対する正当な対価の請求
メーカーからの月末の押込み販売等に関しては、これにより在庫量が膨らみ、保管料等が上昇する可能性があるため、要したコストを把握し、正当に請求することを考えたい。
3) 物流業務に関する管理指標の整備
入庫・保管・出庫・配送・物流情報等の物流業務に関する管理指標を整備し、その活用を図ることが必要である(図表2-4)。
例えば在庫管理に関しては、目標回転日数や目標在庫金額等を設置する。
中小企業庁・中小企業総合事業団が策定した『物流効率化マニュアル 管理レベルチェックリスト・物流管理指標(平成15年3月)』では、物流管理指標として、6分野・21指標を掲げられているが、物流業務の高度化を図る際、こうした資料を参考にすることも極めて有用である。
4) 在庫削減及び在庫管理精度向上
在庫削減及び在庫管理制度を向上するためには、以下のような事項を実施する必要がある。
  • 月次での棚卸を実行する。
  • 商品ごとの売上高、粗利益高によるABC分析を行う。
  • 先入れ・先出しの徹底を図る。
  • 商品の入出庫時には、必ず伝票発行(本伝票または仮伝票)を厳守させる。
5) 共同配送
共同配送によって、物流コストを削減できる可能性がある。同業他社、他業種企業との共同配送の可能性について検討する必要がある。
異なる企業が配送を共同で行うことになるので、秘密保持や情報管理等の問題が生じやすいが、具体的な秘密保持規定やその運用、情報管理の方法等を他の事例等をもとに研究することによって解決に近づくことができる。
管理指標 指標
1.入庫業務に関わる管理指標 指標1 入荷仮置き場に残留していた商品数
2.保管業務に関わる管理指標 指標2 商品が決まった場所に見つからなかった件数
 指標3 商品を損傷した件数
 指標4 先入れ先出しによる不適切な商品配置の件数
3.流通加工・出庫業務に関わる管理指標 指標5 検品時のエラー発見件数
 指標6 出荷エラーに関わるクレーム件数
 指標7 予定時刻に出発できなかったトラック便数
 指標8 作業者1人当り注文行数
 指標9 1時間当たりピッキング行数
 指標10 1時間あたり梱包数
4. 配送業務に関わる管理指標 指標11 主な便の積込み所要時間
 指標12 各納品先の納品所要時間
 指標13 配車に関わる事務処理時間
 指標14 配送状況問い合せへの対応所要時間
5. 物流情報に関わる管理指標 指標15 商品入荷登録の所要時間
 指標16 在庫差異件数
 指標17 専用伝票の使用を求められている取引先数
6. 環境負荷の低減に関わる管理指標 指標18 トラックの走行1km当りCO2排出量
 指標19 トラックの総走行距離
 指標20 走行1時間当りアイドリングストップ回数
 指標21 梱包資材の使用量