2.大正期の納税者の声
大正デモクラシーの流れの中、大蔵省主税局長黒田英雄は、税務行政の執行について「税務行政の民衆化」を唱えました。これにより、納税思想の普及を積極的に図り、また納税者の税務行政に対する理解を深めるため、税法の理念や執行方針をわかりやすく示すことになりました。大正12年(1923)4月には東京税務監督局が初めて税務相談部を開設し、同年7月に大阪で大阪税務相談所が開始されるなど全国に税務相談所ができました。
大正12年9月1日に関東大震災が起き、関東地方に大きな被害をもたらしました。関東大震災は東京を中心とした都市部に大きな被害をもたらしたため、同月に出された緊急勅令では地租・所得税・営業税・相続税が免除や猶予などの対象になりました。この時、関東大震災の被害に関する納税者の声も多数確認することができ、税務相談所はこれに積極的に対応しました。
個人所得税便覧・個人所得税便覧送付ノ件
大正12年(1923)
これは、第3種所得税の計算と申告・申請について納税者の側に立って解説した本で、石和税務署(大正13年に甲府税務署に併合)から配付されました。一般に購読を希望する者は、厳松堂(発売所)または東京税務監督局税務相談部に申し込むこととしています。
大正12年分第3種所得税減免申請(用紙)
〔大正12年〕(1923)
この申請書は、大正13年1月31日までに震災当時の納税地の税務署に提出することとなっています。被害状況として自己住宅、家財、所得の基因の家屋築造物・器具・機械などを記入できるようになっています。
請願書(震災に因る救済のため未納酒造税1年延期願)
(大正12年(1923)10月
神奈川県酒造組合足柄上郡支部から出されたもの。関東大震災により、神奈川県下の酒類製造業者救済のため未納の酒造税1年間延期を願い出ています。