Q1−1 相互協議とはどのような手続でしょうか。

○ 相互協議(MAP:Mutual Agreement Procedure)とは、租税条約の規定に基づき、主に以下の事項について、租税条約締約国等の税務当局間で解決を図るための協議手続です。
  1. 1 一方の又は双方の締約国等の措置による租税条約の規定に適合しない課税
  2. 2 独立企業間価格の算定方法等に係る事前確認(APA:Advance Pricing Arrangement)
  • (注)このQ&Aでは、上記1に係る相互協議事案を「課税事案」、上記2に係る相互協議事案を「事前確認事案」と記載しています。

(参考1)基本的な流れ(課税事案の場合)

画像:相互協議の基本的な流れ図(課税事案の場合)

(参考2)基本的な流れ(事前確認事案の場合)

画像:相互協議の基本的な流れ図(事前確認事案の場合)

Q1−2 相互協議の目的は何でしょうか。

○ 租税条約は、二重課税の排除を一つの目的として締結されるものです。しかし、租税条約が締結されていたとしても、一方の又は双方の締約国等の措置によって租税条約の規定に適合しない課税が行われることにより、国際的な二重課税が生じることがあります。相互協議は、主に、このような二重課税を排除することを目的としています。

Q1−3 租税条約には相互協議を実施する根拠となる規定があるのでしょうか。

○ 一般に、租税条約には、相互協議の手続について定めている規定(相互協議規定)があり、この規定が相互協議を実施する根拠となります。例えば、所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約の場合、第25条が相互協議を実施する根拠となる規定です。
(参考)我が国が締結している租税条約は、おおむね経済協力開発機構(OECD:Organisation for Economic Co-operation and Development)が作成しているモデル租税条約(OECDモデル租税条約)に沿った規定を採用しています。OECDモデル租税条約には、以下の相互協議規定が設けられています。

OECDモデル租税条約第25条(仮訳)

1. 一方の又は双方の締約国の措置によりこの条約の規定に適合しない課税を受けたと認める者又は受けることになると認める者は、当該事案について、当該一方の又は双方の締約国の法令に定める救済手段とは別に、いずれかの締約国の権限のある当局に対して申立てをすることができる。当該申立ては、この条約の規定に適合しない課税に係る措置の最初の通知の日から3年以内に、しなければならない。
2. 権限のある当局は、1の申立てを正当と認めるが、自ら満足すべき解決を与えることができない場合には、この条約の規定に適合しない課税を回避するため、他方の締約国の権限のある当局との合意によって当該事案を解決するよう努める。成立したすべての合意は、両締約国の法令上のいかなる期間制限にもかかわらず、実施されなければならない。
3. 両締約国の権限のある当局は、この条約の解釈又は適用に関して生ずる困難又は疑義を合意によって解決するよう努める。両締約国の権限のある当局は、また、この条約に定めのない場合における二重課税を除去するため、相互に協議することができる。
4. 両締約国の権限のある当局は、2及び3の合意に達するため、直接相互に通信すること(両締約国の権限のある当局又はその代表者により構成される合同委員会を通じて通信することを含む。)ができる。
5.
  1. a)一方の又は双方の締約国の措置によりある者がこの条約の規定に適合しない課税を受けた事案について、1の規定に従い、当該者が一方の締約国の権限のある当局に対して申立てをし、かつ、
  2. b)当該事案に対処するために両締約国の権限のある当局から求められる全ての情報が両締約国の権限のある当局に対して提供された日から2年以内に、2の規定に従い、両締約国の権限のある当局が当該事案を解決するための合意に達することができない場合において、
当該者が書面によって要請するときは、当該事案の未解決の事項は、仲裁に付託される。ただし、当該未解決の事項について、いずれかの締約国の裁判所又は行政審判所が既に決定を行った場合には、当該未解決の事項は仲裁に付託されない。当該事案によって直接に影響を受ける者が、仲裁決定を実施する両締約国の権限のある当局の合意を受け入れない場合を除くほか、当該仲裁決定は両締約国を拘束するものとし、両締約国の法令上のいかなる期間制限にもかかわらず実施される。両締約国の権限のある当局は、この5の規定の実施方法を合意によって定める。

Q1−4 相互協議事案の件数の状況について教えてください。

○ 我が国の相互協議事案の発生件数(納税者から相互協議の申立て又は相手国等からの相互協議の申入れがあった件数)は、増加傾向にあります。
○ 詳細については、「相互協議の状況について」をご覧ください。

Q1−5 どのような国と相互協議が可能でしょうか。

○ 我が国が締結している租税条約のうち70以上の租税条約において、相互協議規定が設けられています。
○ 詳細については、「相互協議規定を含む租税条約等の締結国・地域(PDF/241KB)」をご覧ください。

Q1−6 相互協議を取り巻く国際的な状況を教えてください。

○ 近年、相互協議の件数については、世界的にも増加傾向にあります。増加していく件数を効果的かつ効率的に処理するためには、二国間の取組だけではなく、多国間での取組も重要となります。
○ 平成24年にOECDが立ち上げたBEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)プロジェクトにおいても、意図しない二重課税の発生等の不確実性を排除し、予測可能性を確保するために、租税条約に関連する紛争を解決するための相互協議手続をより実効的なものとすることが図られました。平成27年10月に公表された最終報告書(行動14最終報告書)では、実効的な相互協議の実施を妨げる障害を除去するために各国が最低限実施すべき措置(ミニマムスタンダード)等が勧告されています。
○ ミニマムスタンダードについては、その実施を確保するため、各国・地域における実施状況のモニタリングを行うこととされています。このモニタリングは、OECD税務長官会議(FTA:Forum on Tax Administration)に設けられている相互協議フォーラム(FTA MAPフォーラム)において、平成28年12月から開始されており、ミニマムスタンダードの実施に合意した各国・地域の税務当局が相互審査(ピアレビュー)することにより行われています。

(参考)行動14最終報告書における主な勧告(仮訳)

  1. 1.3 各国は、適時に相互協議事案を解決することにコミットすべきである。各国は平均24か月以内に相互協議事案を解決するよう努めることにコミットする。当該目標の達成に向けた各国の進捗状況は、構成要素1.5で述べられる合意された報告枠組みに従い作成される統計に基づいて、定期的に審査される。
  2. 1.6 各国は、ミニマムスタンダードの遵守状況について、FTA MAPフォーラムにおける参加国により審査を受けることにコミットすべきである。
  3. 2.1 各国は、相互協議手続を利用するための規則、ガイドライン及び手続を公表するべきであり、納税者が当該情報を利用できるよう適切な措置をとるべきである。各国は、相互協議に係るガイダンスが明確であること及び公に容易に入手できることを確保するべきである。
  • ※行動14最終報告書の原文・仮訳はこちらをご覧ください。

Q1−7 相互協議の申立てを行ってから相互協議手続が完結するまでどのくらいの期間がかかりますか。

○ 相互協議に要する期間は、個々の事案の内容の複雑性、申立者の資料の提出状況、相手国等の税務当局の執行体制などによって異なりますので、一概には言えませんが、これまでの実績によれば、平均2年程度です。
○ これまでの実績の詳細については、「相互協議の状況について」をご覧ください。
○ 行動14最終報告書(Q1−6参照)では、課税事案に係る相互協議に関して、各国・地域とも平均24か月以内に解決するように努めることが勧告されています。国税庁においても、この勧告の遵守を目標として相互協議を実施しています。

(参考)行動14最終報告書 勧告1.3(仮訳)

各国は、適時に相互協議事案を解決することにコミットすべきである。各国は平均24か月以内に相互協議事案を解決するよう努めることにコミットする。当該目標の達成に向けた各国の進捗状況は、構成要素1.5で述べられる合意された報告枠組みに従い作成される統計に基づいて、定期的に審査される。

Q1−8 相互協議を申し立てる際に特に留意すべき事項を教えてください。

(1)事前相談の積極的な活用

○ 相互協議が効果的かつ円滑に行われるかどうかは、個々の事案の特殊性や複雑性、相手国等の税務当局の執行体制や相互協議に係る経験、相手国等における法令や課税に係る考え方、国内の権利救済制度に関する状況など様々な要因に影響を受けます。相互協議を進めるに際してはこのような要因を考慮した対応が必要となりますので、相互協議の申立てに当たっては事前相談を積極的に利用されることを強くお勧めします(Q2−3〜Q2−5参照)。

(2)適時の連絡及び資料の提出

○ 相互協議を効果的かつ円滑に進めるために、相互協議担当者との十分な連絡を図るようご協力をお願いします。
○ 相互協議の申立てに理由があるか否かの判断や相互協議の実施のために必要と認められる資料の提出、又は事前確認審査のために必要と認められる資料の提出を、相互協議又は事前確認審査の担当者からお願いすることがあります。その場合は、速やかに提出するようご協力をお願いします。
○ 相互協議に必要なこれらの資料については、例えば、国外関連者を通じて相手国等の税務当局から提出を求められることもあります。相手国等の税務当局に提出した資料については、我が国の担当者とも必ず共有してください。
○ 相互協議に関する重要な事項について適時の連絡や資料の提出がない場合には、相互協議の円滑な進行が妨げられ、場合によっては相互協議での解決が困難になる可能性があることにご留意ください。

(3)提出資料の内容

○ 移転価格課税事案や事前確認事案のように申立者及び国外関連者がそれぞれ我が国及び相手国等の税務当局に直接に申立書を提出したり、資料を提出したりするような事案があります。このような事案については、双方の税務当局への説明内容(相互協議申立書や相互協議に必要な資料の提出を含みます。)に著しい乖離があったり、双方の税務当局への説明のタイミングが著しく異なったりすると、相互協議で混乱が生じ、相互協議による円滑な解決が妨げられる可能性があります。
○ 特に、日本側で提出した内容と著しく異なる内容の相互協議申立書が相手国等で提出された場合には、相互協議の円滑な進行が妨げられ、場合によっては相互協議での解決が困難になる可能性があることにご留意ください。