平成12年12月
国税庁

1 酒類販売の公正な取引環境の整備

(1) 従来からの取組
 国税庁においては、平成9年6月の中央酒類審議会の答申「酒販免許制度の在り方について」を踏まえ、酒類業界の公正な競争秩序の確保を図る観点から、平成10年4月に「公正な競争による健全な酒類産業の発展のための指針」(以下「指針」という。)を発出し、酒類業界に対してその周知・啓発を図ってきました。
 また、従来から行っている酒類の取引状況等実態調査(以下「取引実態調査」という。)については、より充実した調査を実施することとし、指針に示された公正なルールに則しているとは言い難い取引等の改善に向けて指導してきました。

(2) 施策大綱に対する取組
 本年8月に、酒類に係る社会的規制等関係省庁等連絡協議会において「未成年者の飲酒防止等対策及び酒類販売の公正な取引環境の整備に関する施策大綱」(以下「施策大綱」という。)が決定され、関係省庁における関係施策の充実強化を図り、総合的な取組の徹底を図ることとなりました。

・ 指針による取組を更に徹底・促進し、合理的とは認められない取引の改善に向けて積極的な指導を行う。

・ 本年11月に公正取引委員会が策定した「『酒類の流通における不当廉売、差別対価等への対応について』(酒類ガイドライン)」(以下「酒類ガイドライン」という。)について、公正取引委員会と連携して、酒類業団体に対する説明会を実施し、その周知徹底を図る。

・ 酒類の取引実態調査について、調査結果を公表し、改善に向けた業界の取組を促すとともに、その調査件数を増加させ、取引の改善を指導した業者に対してはフォローアップ調査を行う。

・ 酒類市場における流通・取引慣行等の問題点について、国税庁と公正取引委員会との間で、一層の連携強化を図る。

2 取引実態調査の状況等

(1) 実施件数等
 本年度(平成11年7月から平成12年6月)の取引実態調査は、全国で約19万5千場にのぼる酒類製造場・酒類販売場のうち、取引に問題があると考えられた販売場を中心に調査先を選定し、985場(前年787場、対前年比125%)の調査を実施しました。
 その結果、調査した取引の中のいずれかに、総販売原価を割る価格で販売をするなど「合理的な価格の設定」がなされていないと考えられた取引があった販売場は922場(調査実施場数に対する割合93.6%)、また、特定の取引先に対して不透明又は高額なリベート類を支払うなど「取引先等の公正な取扱い」が行われていないと考えられた取引があった販売場は121場(調査実施場数に対する割合12.3%)及び「公正な取引条件の設定」がなされていないと考えられた取引があった販売場は26場(調査実施場数に対する割合2.6%)でした(別紙参照)。
 なお、過去に合理的とは認められない取引の改善を指導した者については、その後の改善状況を確認したところ、1リベートの支払基準の明確化、2仕切価格の見直し、3営業部門の評価を売上重視から利益重視に変更するなどの改善事例が認められましたが、反面、改善が図られていない事例も認められ、そのような者については、改めて指導を行いました。

(2) 調査事例
 指針に示した公正なルールに則しているとは言い難い取引のうち、主な事例は次のとおりです。

【合理的な価格の設定をしていないと考えられたもの】

(小売業者)

1 A社は、特売期間を設け顧客の誘引を図っているが、この期間において配付するチラシには、「万一、他店より高いものがございましたら、お知らせ下さい、値下げします。」という文章を掲載し、競合酒販店の販売価格と同価格まで無理な値下げをして販売したことから、ビールの一部については仕入価格割れとなり合理的な価格の設定をしていないと認められた。

(卸売業者)

2 A社は、競合他社から顧客を確保するため、B社(量販店)に対して、大容量のしょうちゅう甲類10ケースについて無理な値引きを行ったことから、仕入価格割れとなり合理的な価格の設定をしていないと認められた。

(製造業者)

3 A社は、競合他社との関係及び自社製品(しょうちゅう甲類)のシェアアップを図るため、卸売業者を通して、特定の量販店、スーパー等に対し、通常の社内基準を大幅に上回るリベートを支払っていることから、取引先に対する実質販売価格がA社の算定した製造原価と同額となったのものもあり、合理的な価格の設定をしていないと認められた。

【取引先等の公正な取扱いが行われていないと考えられたもの】

(卸売業者)

4 A社は、特定の取引先に対してのみ、特別な値引き・リベートの支払を行っており、この結果、A社の同一商圏内の取引内容の類似した取引間において同一商品の実質販売価格に次のような相違があり、取引先の公正な取扱いが行われていないと認められた。
 なお、値引き等の理由について確認したところ、当該取引先に対する競合他社の納入価格に対抗するためだけにリベート等を支給したとの回答があり、これらの価格差についての合理的な説明はなかった。

1 甲小売店に対して、ビール大瓶1ケースあたり4,900円で納入していた。

2 乙小売店に対して、ビール大瓶1ケースあたり4,950円で納入していた。
(乙小売店に対するA社の年間売上高>甲小売店に対するA社の年間売上高)

3 丙小売店に対して、ビール大瓶1ケースあたり5,040円で納入していた。
(丙小売店に対するA社の年間売上高>乙小売店に対するA社の年間売上高)

5 A社は、特定の取引先に対してのみ、期間限定リベート(スポットリベート)の支払を行っているが、当該リベートの支払基準について合理的な理由のない次のような取引があり、取引先の公正な取扱いが行われていないと認められた。

1 Bスーパーに対し、平成11年8月から12月までのC社製品(ビール)の売上金額に対し、○%の率で計算したリベートを支払っていた。

2 Dスーパーに対し、平成11年10月から12月までの全酒類の売上金額に対し、○%の率で計算したリベートを支払っていた。

6 調査したほとんどの卸売業者は、値引き・支払いリベートの基準の作成がなく、取引継続又は新規取引の確保を図るため、過去からの取引経緯や競合他社の納入価格を基準に値引きやリベートの支払を行っており、透明かつ合理的なリベート類の提供が行われていないと認められた。
 また、商品ごと(特にビール)の実質販売価格は、取引先によっては総販売原価を大幅に下回り、仕入価格に極めて近いか、場合によっては下回るものがあることなど、合理的な価格の設定をしていないと認められた。
 更には、取引内容の類似している取引先間で同一商品の実質販売価格に著しく相違する場合が見受けられ、取引先の公正な取扱いが行われていないと認められた。

(製造業者)

7 A社は、大きな販売力を持つB社(小売店)に対して、自社の商品(ワイン)を取り扱うことを条件に、通常値引きに加えて、高額の拡販協力金を支払っているが、この協力金はB社に対してのみ提示され、その算出根拠について合理的な理由がないことから、取引先の公正な取扱いが行われていないと認められた。

【公正な取引条件の設定がされていないと考えられたもの】

(製造業者)

8 B社(小売店)は、大手居酒屋チェーンC社からの強い要請により、売上総額 の○%のリベートを支出していたが、全額負担は無理との理由から、C社からの要請のあったリベートの2分の1相当額を各ビール製造業者に補填するよう要請した。
 要請を受けたA社(ビール製造業者)は、既にC社に対し独自に販売奨励金を支払っていたが、更に要請があった2分の1相当額をB社に特別奨励金として支出した。この特別奨励金については、公正な取引条件の設定がされていないと認められた。

9 A社は、B社(卸)からの要求(C百貨店に対する中元期のギフト拡売工作、アルバイト費用、売り場協賛金に対応するリベート)を受けて、自社製品(ビール)のシェアアップを図る目的からこの要求に応じ、B社に多額のリベートを支出しており、公正な取引条件の設定がされていないと認められた。

【透明かつ合理的なリベート類の提供が行われていないと考えられたもの】

(製造業者)

10 A社は、B社(量販店)の強い要請を受けて、B社に対して、拡売費、運賃補 助の名目で、しょうちゅう甲類の取引に高額のスポットリベートを支出しているが、当該リベートは、B社の利益が確保できるよう、B社が設定した小売価格に一定の率を乗じて算定されたものであり、透明かつ合理的なリベート類の提供が行われていないと認められた。

11 A社は、B社(量販店)に対し支払ったチラシ協賛金については、チラシの配 布枚数に関係のない、平成11年7月の特売商品(ビール)の売上実績に単価を掛けて算出されたリベートであり、透明かつ合理的なリベート類の提供が行われていないと認められた。

3 今後の取組方針等

(1) 「酒類ガイドライン」等について
 公正取引委員会においては、酒類の流通における公正な競争の一層の確保を図るため、本年11月に「酒類ガイドライン」を策定し、酒類の流通実態に則した不当廉売、差別対価等の規制についての考え方、また、不当廉売、差別対価等の事案に対する公正取引委員会の対応の明確化が図られたところです。
 また、酒類業界内においても、公正な取引環境の整備に向けた検討が行われており、ビール酒造組合においては、先般、消費者利益の確保、公正な競争の確保及び酒類産業の健全な発展を目的として、「ビールの公正な取引のための基本的な考え方」を策定したところであり、国税庁としては、関係各社がその趣旨を十分に理解し、自社の社内基準の整備を図り、ビール流通において健全な取引環境の醸成が一層図られることを期待しています。

(2) 今後の取組方針
 国税庁としては、「施策大綱」を踏まえ、公正取引委員会との連携をとりつつ、「酒類ガイドライン」を酒類業界に周知するとともに、引き続き、「指針」の周知・啓発のほか、取引実態調査及びフォローアップ調査を通じて、酒類販売の公正な取引環境の整備に努めることとしています。