出題のポイント

【第一問】−50点−

問1(35点)

 消費税法上、国内において事業者が行った資産の譲渡等(事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供)は消費税の課税対象とされているところ、課税対象となる資産の譲渡等の範囲から「特定資産の譲渡等」は除かれ、事業として他の者から受けた特定資産の譲渡等(特定仕入れ)が課税対象とされており、特定資産の譲渡等を受けた国内事業者が納税義務を負うこととなっている(いわゆる「リバースチャージ方式」)。
 「特定資産の譲渡等」とは、「事業者向け電気通信利用役務の提供」及び「特定役務の提供」をいい、「事業者向け電気通信利用役務の提供」とは、国外事業者が行う電気通信利用役務の提供(電子書籍・音楽・広告の配信などの電気通信回線(インターネット等)を介して行われる役務の提供)のうち、当該役務の性質又は取引条件等から当該役務提供を受ける者が通常事業者に限られるものをいうところ、本問のサービスのように、事業者以外の者からの申込を制限しておらず、電気通信利用役務の取引条件から役務提供を受ける者が通常事業者に限られないものは、「事業者向け電気通信利用役務の提供」に該当しないため、「特定資産の譲渡等」に該当しない。
 国外事業者が行う事業者向け電気通信利用役務の提供以外の電気通信利用役務の提供(いわゆる「消費者向け電気通信利用役務の提供」)については、当該役務の提供を受ける者の住所若しくは居所又は本店若しくは主たる事務所の所在地が国内であれば、国内において事業者が行った資産の譲渡等として消費税の課税対象となり、当該役務の提供を行う国外事業者が納税義務を負うこととなる。
 この点、令和6年度税制改正において、国外事業者について、特定期間における課税売上高が1,000万円を超えるかどうかの判定を給与等支払額の合計額により行うことはできないこととされ、また、その事業年度の基準期間がある外国法人が、当該基準期間の末日の翌日以後に国内において課税資産の譲渡等に係る事業を開始した場合で、当該事業年度の開始の日における資本金の額又は出資の金額が1,000万円以上であるときは、当該事業年度の納税義務を免除しないこととされるなど、国外事業者に係る事業者免税点制度の特例の適用関係が見直された。
 経済社会のグローバル化・デジタル化が進展する中、税務代理や税務相談を担う税理士の実務においても、デジタルサービスを行う国外事業者に係る消費税法の適用関係について、上記のような改正事項も含めて正しく理解していることが重要である。
 そこで、本問においては、国外事業者が、日本国内に住所を有する者に対する電気通信利用役務の提供を開始したケースについて、1当該役務提供が消費税の課税対象となるかどうか(資産の譲渡等及び特定資産の譲渡等に該当するか)、また、2納税義務が免除されるかどうかを述べさせることで、実務においても生じ得る具体の事例に係る消費税法令の適用関係を問うものとした。

問2(15点)

 消費税は、課税期間中の課税標準に対する消費税額から、課税仕入れ等に係る消費税額を控除(仕入税額控除)して納付(又は還付)税額を計算するところ、課税期間における課税売上高が5億円を超える場合又は課税売上割合が95%未満である場合には、課税仕入れ等に係る消費税額の合計額の全額を控除することはできず、個別対応方式又は一括比例配分方式により仕入控除税額を計算することとなる。
 個別対応方式により仕入控除税額を計算する際に用いる課税売上割合について、その事業者の事業の実態を反映していないなどの場合には、納税地の所轄税務署長の承認を受けることで、課税売上割合に代えて、「課税売上割合に準ずる割合」を用いることができるとされている。
 課税売上割合に準ずる割合は、当該承認を受けた日の属する課税期間から適用することとなるが、課税売上割合に準ずる割合を用いて仕入控除税額を計算しようとする課税期間の末日までに承認申請書の提出があり、同日の翌日から同日以後一月を経過する日までの間に承認があったときは、当該課税期間の末日においてその承認があったものとみなされる。
 また、課税売上割合に準ずる割合は、個別対応方式により仕入控除税額を計算する際に用いるものであるから、一括比例配分方式により仕入控除税額を計算する際に用いるものではなく、課税期間における課税売上割合が95%未満であるかどうかは、課税売上割合に準ずる割合ではなく本来の課税売上割合によって判定することとなる。
 このような課税売上割合に準ずる割合の適用関係について、正しく理解していることが実務においても重要であるから、本問においては、具体的事例に沿って、1課税売上割合に準ずる割合の承認の効果の生じる課税期間、2課税売上割合に準ずる割合の適用がある場合の仕入控除税額の計算方法を述べさせることで、実務において必要な知識を問うものとした。

【第二問】−50点−

 消費税の納付税額又は還付税額の計算に当たっては、課税資産の譲渡等の範囲、資産の譲渡等の時期や課税仕入れ等の時期、適用税率(軽減税率の適用対象)及び課税標準の算定に関する事項を理解するとともに、仕入れに係る消費税額の控除をはじめとする各種税額控除等について幅広く理解しておく必要がある。
 また、課税売上割合が著しく変動した場合の調整対象固定資産に関する仕入れに係る消費税額の調整や、仕入税額控除の制限を受けた居住用賃貸建物を譲渡した場合の仕入れに係る消費税額の調整について、適用要件や計算方法を正しく理解しておく必要がある。
 そこで、本問においては、食料品製造業を営む事業者が、その製造品に不良が生じたことによる損失を補填すべく、臨時的に所有不動産を売却するといった、実務においても生じ得るケースを題材として、以下の事項を中心として、納付すべき(又は還付を受けるべき)消費税額を計算させることで、消費税法の総合的な理解度を問うものとした。

  1. (1) 売上げについて課税取引、免税取引及び非課税取引の判定を適正に行い、課税標準額に対する消費税額が正しく算出されているか。
  2. (2) 仕入控除税額の計算に当たって、課税仕入れの範囲とその時期、適用税率、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れに係る経過措置、個別対応方式及び一括比例配分方式による計算方法等について正しく理解しているか。特に、製品不良関連損失に関して、損害賠償の性質を有する支出や他者が支払った費用の補填について課税仕入れに該当しないものと判断できているか。
  3. (3) 課税仕入れについて、課税資産の譲渡等にのみ要するもの、その他の資産の譲渡等にのみ要するもの及び課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものとの区分を正しく行うことができるか。
  4. (4) 電気通信利用役務の提供及び事業者向け電気通信利用役務の提供の定義を正しく理解した上で、これらの取引に係る内外判定の基準、課税方式及び仕入税額控除の適用関係を正しく理解しているか。また、国外事業者から受けた消費者向け電気通信利用役務の提供については適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れに係る経過措置が適用されないことを理解しているか。
  5. (5) 居住用賃貸建物について、自己建設高額特定資産である場合には建設等に要した費用の累計額が1,000万円以上となった課税期間以後の課税仕入れ等についてのみ仕入税額控除の制限の対象となることや、居住用賃貸部分と居住用賃貸部分以外の部分とに合理的に区分している場合の仕入税額控除制限及び調整計算の適用関係を理解しているか。