出題のポイント

【第一問】−50点−

 本問は、法人税法における基本的な事項の中から、収益の認識に関する事項、寄附金及び交際費の損金不算入に関する事項並びに組織再編成等に伴う欠損金の引継ぎ等に関する事項を取り上げて、近年の税制改正の知識を踏まえつつ、企業を取り巻く経営環境の動向をとらまえて税理士の実務において頻出する論点についての正しい理解を問う問題である。

問1(10点)

 本問の論点は、収益の認識及び計上額についての正しい理解である。
 収益の認識については、我が国では収益の認識に関する会計基準が整備され、令和3年4月1日より本格導入されているところである。当該収益の認識に関する会計基準の導入に伴い、平成30年度の税制改正において法令等の見直しが行われ、その中で、法人の資産の販売等に係る収益の額はその資産の販売等に係る目的物の引渡し等の日の属する事業年度の益金の額に算入することとされ、法人の各事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入する金額は、別段の定めがあるものを除き、その販売若しくは譲渡をした資産の引渡しの時における価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額とすることが明確化された。
 本問では、遡及的に値引きが行われる契約を例にとり、あらかじめ合理的に見積もられる金額により収益を計上している場合には、その会計処理は税務上も認められることについて、近年税制改正された法令等を踏まえて適切に説明できるかがポイントとなる。

問2(20点)

 本問の論点は、寄附金の損金不算入制度及び交際費等の損金不算入制度に関する正しい理解である。
 近年、グループ経営はますます進展し、グループ法人間で行われる取引の課税上の取扱いについては税理士の実務において必須の知識となっている。
 本問(1)では、グループ法人間で寄附が行われた場合の典型的なケースを例にとり、グループ法人間寄附金の損金不算入、寄附修正事由が生じた場合の子会社株式簿価の修正等の一連の仕組みを理解しているかどうかを問う問題であるが、株式の持ち合いが行われているケースについても法令に基づき正答を導けるかどうか応用力についても問うている。
 また、交際費に関する課税処理については、税理士の実務において頻出の事項の一つであり、法令上の要件は必須の知識として求められるところであるが、資本又は出資を有しない法人の損金算入限度額の判定については誤りも見受けられることから留意が必要である。
 本問(2)では、資本又は出資を有しない法人である一般社団法人を題材として交際費の損金不算入額を導き出す問題であるが、定額控除限度額の特例の判定における資本金基準は、純資産額に基づき判定することになることに気付けるかどうかがポイントとなる。

問3(20点)

 本問の論点は、組織再編成等に伴う欠損金の引継ぎ等に関する正しい理解である。
 近年、企業が効率的かつ効果的に運営を行うために組織の構造や体制を変更する組織再編成が活発に行われているところであるが、様々な場面に応じた税務上の取扱いについて正確にアドバイスできることも税理士の重要な任務となっている。
 本問では、完全支配関係にある法人間で行われる合併を題材にして、当該合併が適格合併かどうかの判定を行うとともに、その支配関係が一定の期間に達していない場合において、被合併法人の未処理欠損金額の引継ぎができるかどうか、被合併法人から引き継いだ特定引継資産の譲渡損失について損金算入できるかどうかを適切に回答できるかどうかが論点となっている。具体的には、合併法人及び被合併法人の資本関係及びその資本関係の継続状況を具体的な事例から読み取り、課税上の要件の判定ができるかがポイントとなる。

【第二問】−50点−

 本問は、資本金が1億円以下の同族会社である中小法人について、実務上直面する機会の多い事象を中心に、法人税法における課税上の取扱いについての正確な知識を問う問題となっている。

  1. (1) 保険差益の圧縮記帳
     近年、天災など多くの災害が発生しており、保険金を受け取って復旧し事業活動を継続する企業の取扱いについて、税務上どのような取扱いが生じるかを税理士は常に気を配る必要がある。本問では、保険金を取得する前の事業年度において代替資産を取得していることから、先行取得をした場合の保険差益の圧縮記帳の計算の知識が必要となる。また、本問では不採算部門を閉鎖し、配送部門を立ち上げているが、代替資産の範囲についてはその内容に応じて、種類区分や類似性まで求められるものもある。さらに、本問では圧縮積立金として経理処理されていることから、別表5(一)を含めた保険差益の圧縮記帳に関する税務上の正確な知識を問う問題になっている。
     なお、新たに取得した機械装置は特別償却の対象となるものであるが、本問では、取得時において特別償却準備金として積み立てており、積立後の事業年度の取扱いについての理解を問う問題にもなっている。
  2. (2) 交換の圧縮記帳
     土地等の有効活用の一環として、企業間等での交換取引が行われるケースがある。この交換取引が等価である場合の取引の実態は、固定資産の譲渡と取得が同時に行われる取引であり、譲渡による損益は、本来課税の対象となる。ただし、取得資産が譲渡資産と同一の用途に供される場合には、その経済的同一性に着目して、圧縮記帳による課税の繰り延べが認められている。ただし、この交換の圧縮記帳は、固定資産の譲渡はなかったものとするため、その適用については厳格な要件が求められている。
     本問では、交換要件及びその計算方法など交換の圧縮記帳における正確な知識を問う問題となっている。また、本問における取得資産は中古資産であることから、耐用年数の算定を含めた減価償却の計算の知識を問う問題にもなっている。
  3. (3) 租税公課等
     法人税における令和5年度の黒字申告割合は36.0%であり、多くの法人は赤字申告であることから税理士は赤字法人における税務上の知識も必須となる。本問では、前期の決算が赤字となった法人を対象としており、還付される各種還付金等の取扱いについて、別表5(一)の記載方法を含めた法人税法の取扱いについての正確な知識を問う問題となっている。
  4. (4) 役員給与等
     本問は、役員及び使用人の給与に関する問題である。役員報酬については、その恣意性を排除する観点から、法人税法第34条において厳密に規定されている。本問では、同条第1項及び第2項の規定の正確な知識と理解が必要となる。また、本問は同族会社であることから、役員給与の損金不算入額の計算に当たっては、事前に同族会社の判定や使用人兼務役員の判定が必要となる。
     さらに、特殊関係にある使用人給与についても同法第36条に規定が設けられており、法人が支払う給与についての正確な知識が求められる。
  5. (5) 中小企業向け賃上げ促進税制
     近年、給与の支給額の増額が、国内の大きな関心の一つになっている。法人税法においても、政策上の観点から、企業の使用人等に対する賃上げのインセンティブを設けることで、企業における賃上げの促進を図っている。本問では、【資料5】より控除の対象となる雇用者給与等支給額を計算した上で、税額控除の計算をする必要があり、賃上げ促進税制における正確な知識が必要となる。なお、この賃上げ促進税制については、令和6年度税制改正においてその内容が強化されており、最新の知識を問う問題となっている。