本問は、純資産項目を生じさせる取引の処理を取り上げ、一連の処理・思考プロセス及び簿記処理を通じたデータの流れの理解について問うものであり、次の5つの論点を含んでいる。
特定タイミングの取引のみを取り上げるのではなく、各項目に関する一連の取引を適切に処理できるか(以前に行われた処理に矛盾することなく、続く取引を処理できるか)を問うものであり、項目ごとの簿記一巡を問うことを意図している。
また、簿記処理を通じたデータの流れに関する理解を問うことを意図し、以下のような問題構成にしている。
取引の内容を示した問題文を読み、仕訳を行う。
推定箇所を含む問題文を読み、仕訳を行う。
(a) 【資料】に示された仕訳から取引の内容を推定し、仕訳全体を完成させる。
(b) 前期末閉鎖残高勘定から取引の内容を推定し、仕訳を完成させる。
(c) 当期末決算整理後残高試算表から取引の内容を推定し、仕訳を完成させる。
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にもとづいて当期末決算整理後残高試算表を完成させる。
税理士は、租税法だけでなく、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従った計算に関する理解を深めておくことも必要であるという認識に基づいて、本問は、企業会計基準等で規定されている会計処理について適切な理解を有しているかを確認する観点から出題した。
問1では、事業分離と企業結合の会計処理を問うこととした。事業分離(分離元企業)に関しては、分離した事業に関する投資が継続していると考えられる場合と、清算されたと考えられる場合との会計処理の違いを理解していることが重要である。企業結合に関しては、取得と共通支配下の取引の会計処理の違いを理解していることが重要である。
問2では、ストック・オプションの会計処理とその勘定記入を問うこととした。権利不確定による失効の取扱い、対象勤務期間の見積り、見積りの変更の取扱いを理解していることが重要である。
税理士に求められる能力として、与えられた資料から定型化した簿記処理ができることは当然必要ではあるが、会計実務においては、取引事実を十分に理解した上で、会計基準に準拠した勘定科目の選択や金額の算定を行う必要があり、不足する資料があればこれを収集して簿記処理を行う必要がある。昨今の計算問題で多くみられる帳簿記録をあたかも無視したような財務諸表の数値を単に解答させる出題では上記の能力を推し量ることはできないことから、本問では前期末及び当期末の閉鎖残高勘定と資金収支に関する資料に基づき、決算整理事項等を考慮に入れて損益勘定を作成する総合問題を出題した。
棚卸資産、固定資産、経過勘定項目の再振替仕訳及び剰余金の配当など、通常の総合問題で出題される財務諸表に計上される数値を問う論点のほか、資産や負債の発生から決算日の翌日以降の消滅に至るまでの一連の簿記処理の理解度及び計算技術の達成度を問うている。後者の具体的な論点として、ファイナンス・リース取引の解約、資産除去債務の取崩し、振当処理の直先差額の取崩し、有価証券の保有目的変更後の処理及び経過勘定項目の再振替仕訳を出題している。
本問は、期中に行われている取引事実と帳簿記録を推定しながら解き進めることを前提としている。本来は与える必要はない資料をあえて明示することにより、難易度の調整を行い、複数のアプローチから解答できるように配慮している。例えば、有形固定資産の期首残高について、前期末の閉鎖残高勘定の有形固定資産と固定資産台帳における期首帳簿価額のいずれの資料からも判明することになる。このことは、会計実務における主要簿である総勘定元帳の残高と補助元帳である固定資産台帳の種類ごとの合計残高との一致を確認する重要な手続きであることに留意されたい。