出題のポイント

【第一問】−50点−

問1(35点)

 令和5年10月1日から、適格請求書等保存方式(インボイス制度)が開始されており、その内容や法令の適用関係を正しく理解していることが実務においても非常に重要である。
 適格請求書は、事前に登録を受けた適格請求書発行事業者のみが交付できるが、適格請求書発行事業者は、国内において課税資産の譲渡等(消費税法等の規定により消費税が免除されるものを除く。)を行った場合において、当該課税資産の譲渡等を受ける他の事業者(免税事業者を除く。)から適格請求書の交付を求められたときは、法令の規定により交付が免除される場合を除き、当該課税資産の譲渡等に係る適格請求書を当該他の事業者に交付しなければならないとされている。
 このため、本問(2)イの取引のように、非居住者に対する意匠権の貸付けとして消費税が免除される課税資産の譲渡等や、本問(2)ロの取引のように、国外に本店等を有する者に対する電気通信利用役務の提供であり国内において行う課税資産の譲渡等に該当しないものは、適格請求書を交付する必要はない。
 また、適格請求書発行事業者が、媒介又は取次ぎに係る業務を行う者(適格請求書発行事業者に限る。以下「媒介者等」という。)を介して、国内において課税資産の譲渡等を行う場合に、当該媒介者等が当該課税資産の譲渡等の時までに当該事業者(以下「委託者」という。)から登録を受けている旨の通知を受けているときは、当該課税資産の譲渡等について、媒介者等の氏名又は名称及び登録番号を記載した適格請求書を、委託者に代わって、購入者に交付することができるとされている(媒介者交付特例)。
 この媒介者交付特例を適用した場合、媒介者等は、交付した適格請求書の写しを保存し、委託者に交付しなければならず、委託者は、媒介者等から交付された適格請求書の写しを保存するとともに、適格請求書発行事業者でなくなった場合にはその旨を媒介者等に通知する必要がある。
 このように、適格請求書を交付すべき取引であるかどうかや、媒介者交付特例を含めた適格請求書の交付方法等について事業者から税務相談があった場合に、法令の適用関係を正しく理解していることが実務においても必要であることから、本問においては、実務においても生じ得る具体の事例に係る消費税法令の適用関係を問うものとした。

問2(15点)

 本問においては、基準期間における課税売上高に含まれる範囲など、消費税の基本的かつ重要である(1)〜(3)の事項について、問題中に記載された内容が正しいかどうかを判定し、その理由を消費税法令に沿って説明させることで、実務において必要な知識を問うものとした。

  1. (1) 事業者が国内において非課税資産の譲渡等のうち輸出取引等に該当するものを行った場合に、その該当するものであることにつき証明がされたときは、課税資産の譲渡等に係る輸出取引等に該当するものとみなして、課税売上割合の計算等を行うこととなるが、基準期間における課税売上高の算定について、課税資産の譲渡等に係る輸出取引等とみなすこととはされていないため、当該みなされるものの対価の額は、基準期間における課税売上高に含まれない。
  2. (2) 免税事業者が課税事業者になった課税期間の初日の前日において、免税事業者であった課税期間に譲り受けた課税仕入れに係る棚卸資産を有しているときは、その課税仕入れに係る消費税額は当該課税事業者となった課税期間の課税仕入れ等の税額とみなされ、当該棚卸資産の課税仕入れに係る対価の返還等については免税事業者であった課税期間において行った課税仕入れに係る対価の返還等であっても仕入税額控除の調整計算の対象となる。
  3. (3) 仕入れに係る消費税額の控除不足額の還付は、消費税の確定申告書に当該控除不足額の記載がある場合に還付するとされており、仮決算をして提出する中間申告書における控除不足額を還付する旨の規定は設けられていないことから、仮決算をして提出する中間申告書について控除不足額が生じたとしても還付を受けることはできない。

【第二問】−50点−

問1(30点)

 消費税の納付税額又は還付税額の計算に当たっては、課税資産の譲渡等の範囲、資産の譲渡等の時期、適用税率(軽減税率の適用対象)及び課税標準の算定に関する事項を理解するとともに、仕入れに係る消費税額をはじめとする各種税額控除等について幅広く理解しておく必要がある。
 また、令和5年10月1日から開始した適格請求書等保存方式(インボイス制度)においては、原則として、帳簿及び適格請求書(インボイス)の保存が仕入税額控除の要件とされたが、古物営業を営む事業者が適格請求書発行事業者以外の者から古物を棚卸資産として購入する場合など、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる取引や、制度開始後一定期間、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについて仕入税額相当額の一定割合が控除できる経過措置が設けられているほか、適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(2割特例)が設けられており、これらの内容又は適用要件等について正しく理解しておかなければならない。
 本問は、古物の買取り、販売等を行う事業者について、次の事項を中心として納付すべき消費税額又は還付を受けるべき控除税額を計算させることで消費税法の総合的な理解度を問う問題である。

  1. (1) 売上げについて課税取引、免税取引及び非課税取引の判定を適正に行い、課税標準額に対する消費税額が正しく算出されているか。
  2. (2) 仕入控除税額の計算に当たって、課税仕入れの範囲とその時期、適用税率、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れに係る経過措置、個別対応方式及び一括比例配分方式による計算方法等について正しく理解しているか。また、課税仕入れについて、課税資産の譲渡等にのみ要するもの、その他の資産の譲渡等にのみ要するもの及び課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものとの区分を正しく行うことができるか。
  3. (3) 適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(2割特例)の適用の有無の判定に際し、特定新規設立法人に該当するかどうかの判定が正しく行われているか。

問2(20点)

 令和5年10月1日から適格請求書等保存方式(インボイス制度)が開始されたことに伴い、免税事業者が適格請求書発行事業者の登録を受けたことにより初めて課税事業者となる場合も多い。このような事業者に対する負担軽減措置として「適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(2割特例)」が設けられるなど、様々な措置が講じられており、これらの措置の内容を正しく理解している必要がある。
 また、小売店の営業及び区分所有建物への投資を行う個人のように、所得税法上、事業所得及び不動産所得が生じる場合も多くあるが、このような場合の消費税の課税関係又は計算方法についても正しく理解している必要がある。
 そこで本問では、令和5年10月1日から適格請求書発行事業者(課税事業者)になった個人事業者について、実務でも問われる次の事項を中心に、納付すべき消費税額又は還付を受けるべき控除税額を計算させることで、消費税法の総合的な理解度を問うものとした。

  1. (1) 適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(2割特例)、一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置(少額特例)及び適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れに係る経過措置の適用関係及び計算方法を正しく理解しているか。
  2. (2) 所得税法と消費税法とで取扱いが異なる事項(家事消費、生計を一にする親族に支払う対価等)を理解しているか。
  3. (3) 不動産所得に係る経費に関して、課税仕入れとなるものとならないものを、正しく判定できるか。