問1(25点)
相続税法では、配偶者に対して一定の配慮をする措置が設けられている。昭和41年度税制改正で創設された贈与税の配偶者控除は、長年夫婦としての協力関係が保たれてきた者の間において、残された配偶者の生活の場を確保する目的で行われる生前贈与に配慮した措置とされ、居住用不動産等の価額を限度に贈与税の課税価格から2,000万円を控除することができる。
なお、贈与税は相続税を補完する役割を持つという観点から、相続又は遺贈により財産を取得した者が相続開始前の一定期間内に被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合には、その贈与により取得した財産の一定の価額を相続税の課税価格に加算することとされている。しかし、その加算される贈与により取得した財産の価額のうち贈与税の配偶者控除の適用を受けた金額に相当する部分等(特定贈与財産)については、相続税の課税価格に加算されない。
このように、被相続人からの贈与につき贈与税の配偶者控除を適用した場合などは、その後の相続税の申告における課税価格の計算で考慮する必要が生じることから、贈与税及び相続税を通じた配偶者に配慮した制度の正しい理解は、実務において重要であるため、本問ではその内容の基本的な理解を問うものである。
問2(25点)
資産課税は、資産の取得等に着目して課税されるものであり、相続税については、原則として、財産を相続又は遺贈等により取得した個人に対して課されることとなる。したがって、遺贈により財産を取得した法人に対しては、原則として相続税は課されないが、税負担の軽減又は回避を防止するため、一定の場合には、相続税法上、その法人を個人とみなして相続税の納税義務を負わせている。
具体的には、公益財団法人等を含む持分の定めのない法人を利用した相続税等の負担回避を防止するため、当該法人に対し財産の遺贈等があった場合において、その財産の遺贈者等の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税等の負担が不当に減少する結果となると認められるときは、当該法人を個人とみなして、相続税等を課すこととされている。
他方、科学又は教育の振興等の観点から、国等に対して相続財産を贈与した場合等の相続税の非課税措置が講じられている。この措置は、相続又は遺贈により財産を取得した者が、その財産を、その取得後相続税の申告期限までに、国、地方公共団体、公益財団法人その他の公益を目的とする事業を営む一定の法人に贈与をした場合には、その贈与をした者又はその親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合を除き、その贈与した財産の価額は、相続税の課税価格に算入されないこととしている。
この場合において、贈与を受けた法人が、贈与があった日から2年を経過した日までに贈与により取得した財産をなおその公益を目的とする事業の用に供しない場合等には、その財産の価額は、相続税の課税価格に算入することとされ、相続税の申告書を提出した者は、同日の翌日から4月以内に修正申告書を提出し、納付すべき税額を納付しなければならない。
本問は、財産の寄附という設例を通じて、相続税の納税義務者、持分の定めのない法人が遺贈又は贈与により財産を取得した場合の課税関係、相続財産を取得した相続人がその財産を寄付した場合の課税関係といった相続税の基本的事項について横断的に理解しているかを問うこととしたものである。
税理士は、税法という法律の専門家であるべきで、法令解釈を適切に行う能力及び法律要件にあてはめるべき事実を認定する能力が必要とされる。法令条文を読み込むことで法律要件の知識を得ることができ、更に判断に必要な事実を資料の中から探し出す知見が養われて実務での対応が可能となる。
以上の点からすると、税理士試験とは与えられた計算問題を単に解く技術だけではなく、事実を読み解き法律要件にあてはめることのでき得る知見を習得しているかどうかを判断する試験であるべきであり、その点を考慮して問題を構成した。
上記内容の理解度を確認するための主なポイントは次のとおりである。
1 親族関係
2 宅地等の評価
3 上場株式の評価
4 取引相場のない株式の評価
取引相場のない株式の原則的評価方式の理解(財産評価基本通達178〜)
5 債務及び葬式費用
実務で論点となる債務控除の対象となる項目とならない項目の理解
6 みなし相続財産である生命保険金等
7 令和6年1月1日以後の相続時精算課税の適用を受ける贈与に係る基礎控除額等の理解(相続税法第21条の11の2、第21条の15)