出題のポイント

【第一問】−50点−

 本問は、法人税法における基本的な事項の中から、特定同族会社の留保金課税に関する事項、災害によって資産に損害が生じた場合についての課税上の取扱いに関する事項及び仮装経理に基づく過大申告があった場合の課税上の取扱いに関する事項を取り上げて、近年の社会的課題となっている事項とも関連して、税理士の実務において頻出する論点についての正しい理解を問う問題である。

問1(20点)

 本問の論点は、特定同族会社の特別税率(留保金課税)の適用対象又は留保金課税額の算定についての正しい理解である。
 留保金課税は、内国法人である特定同族会社の各事業年度の留保金額が留保控除額を超える場合に、各事業年度の法人税額に追加して課税される制度であるが、特定同族会社に該当するかどうかの判定は、各事業年度終了の時の現況によることとされている。このため、期中に増資が行われた場合には、期末の現況によって判定を行うこととなる。また、特定同族会社とは、被支配会社で、被支配会社であることについての判定の基礎となった株主等のうちに被支配会社でない法人がある場合には、その法人をその判定の基礎となる株主等から除外して判定するものとした場合においても被支配会社となるものをいうが、本問では、具体的な株主構成の資料に基づき被支配会社であることについて的確に判定ができるかがポイントとなる。
 続いて、留保金額とは所得等の金額のうち留保した金額から各事業年度の法人税額等を控除した金額をいい、期末配当等の額は、基準日等の属する事業年度の留保金額から控除することになる。また、留保金控除額は、所得等の金額又は期末資本金の額に一定割合を乗ずるなどして算定することになる。本問では、制度の正しい理解を前提として、資料に与えられた具体的な事項等に基づき、正確な留保金額及び留保金控除額を導き出せるかがポイントとなる。

問2(15点)

 近年、我が国では地震又は台風といった災害が頻出しているが、本問の論点は、災害により保有する資産に損害があった場合に適用される法人税の規定についての正しい理解である。
 法人の有する棚卸資産につき災害による著しい損傷が生じたことにより、その時価が帳簿価額を下回ることとなった場合には、帳簿価額と時価との差額につき、損金経理をすることにより、損金の額に算入することが認められる。
 また、法人がその有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうちその固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分が資本的支出となり、原状回復するために支出した費用は、修繕費に該当することになる。
 更に、法人がその有する固定資産の滅失又は損壊により、その滅失又は損壊のあった日から3年以内に支払の確定した保険金等をもってその滅失又は損壊をした代替資産の取得等をした場合には、その代替資産について圧縮限度額の範囲内で圧縮記帳の適用を受けることができるほか、保険金等を受けた事業年度に代替資産の取得又は改良ができない場合でもその翌期首から原則として2年以内に代替資産の取得等をする見込みであるときは、圧縮限度額の範囲内の金額をその事業年度の確定した決算において特別勘定を設ける方法により経理したときは、その経理した額を損金の額に算入することができる。本問では、これらの規定を正しく理解しているかがポイントとなる。

問3(15点)

 我が国経済はコロナ禍を乗り越えるところにあるが、過去の不況期においては企業が仮装経理によるいわゆる粉飾決算を行っていたという事例が散見されたところであり、本問の論点は、仮装経理に基づく過大申告があった場合に適用される法人税の規定の正しい理解である。
 法人が過大申告を行った場合、更正の請求を行うことで、税務署長の調査を経て、過大に納付した法人税額の還付を受けることができる。一方で、その過大申告が仮装経理に基づくものであった場合、その仮装経理のあった事業年度後の事業年度において修正の経理が行われ、かつ、修正の経理をした事業年度の確定申告書を提出するまでの間、税務署長は更正しないことができるといった特例措置が設けられている。
 また、法人税額を減額する更正が行われた場合であっても、過大に納付した法人税額は直ちに還付されずに、その更正の日を含む事業年度開始の日前1年以内に開始した事業年度について納付した法人税額相当額まで還付し、残りはその後5年に渡って順次繰り越して税額控除することとなり、5年経過日の属する事業年度の申告書の提出期限が到来した時点で控除しきれなかった残額が還付されることとなる。ただし、その繰越期間内に破産手続開始決定等があった場合には、破産手続開始決定の日の属する事業年度の申告書の提出期限等が到来した時点で控除しきれなかった残額が還付されることとなる。
 仮装経理に基づく過大申告が行われた場合には、法人税法上、このような特例規定が設けられていることを正しく理解しているかがポイントとなる。

【第二問】−50点−

 本問は、資本金の額が5億円以上である大法人から完全支配されるため、法人税法上の中小法人及び中小企業者の特例の適用を受けることのできない法人等に関する法人税法における取扱いを正確に理解しているかを問う問題を中心に出題している。

  1. (1) 資本の払戻しに関する事項
     資本剰余金を財源とする払戻しの法人税処理は、払戻しによる資本金等の額の減少額を算出してから、払戻額とその減少額との差額を算出することにより利益積立金額の減少額を計算する仕組みとなっている。本問は、資本剰余金を財源とする払戻しの法人税処理の基本を理解しているかを問う問題である。
  2. (2) 法人税等及び租税公課に関する事項
     本問は、前期において未払計上した法人税等及び中間申告分の納付に関する税務処理、そして期末の未払法人税等の計上に関する基本的な税務処理を確実に行うことができるかを主に問うている。また、利益積立金額の計算に関する明細書への記載を求めることで留保の取扱いとなるか、社外流出の取扱いとなるかについても解答を求めており、税理士となった際に実務で必要となる知識を確実に身に付けているかを問う問題である。
  3. (3) 寄附金に関する事項
     本問は、寄附金の損金算入限度額計算についての正確な理解を問う問題である。寄附金の税務は、その寄附先及び寄附をする法人の類型等により限度額計算が異なる。また、グループ法人税制の対象となる完全支配関係がある法人への寄附については、損金算入が完全に制限される。
     これらの点を踏まえ、一般の寄附金、特定公益増進法人に対する寄附金、完全支配関係がある他の法人に対する寄附金、そして災害の際の寄附金の取扱いなど、寄附金の損金算入限度額計算を正確に行うことができるかを問う問題である。
     なお、寄附金の限度額計算における資本金額基準の計算では、期末資本金額を基準に限度額を算出するが、本問では与えられる資料における資本の払戻しが寄附金の限度額計算に影響を与えることを理解しているかがポイントとなる。
  4. (4) 貸倒引当金及び貸倒損失に関する事項
     法人税法上、中小法人に該当しない法人等についての貸倒引当金の計上は認められていない。コロナ禍の影響が企業財務に後遺症として残る法人が多く存在するが、いわゆる不良債権の税務処理についての適切な判断は重要な論点であり、その必要な知識を習得しているかも問う問題である。
  5. (5) 外貨建取引に関する事項
     本問は、機械装置の輸入に当たりドル建の取引を行った場合の処理を適切に行うことができるか、また外貨建債権の法定換算方法について、発生時換算法と期末時換算法の適切な使い分けを理解しているかを問うている。
  6. (6) 減価償却に関する事項
     大法人に完全支配され中小法人等に該当しないこととなる法人は、中小法人等に限定されている特別償却制度や、取得価額が30万円未満の少額減価償却資産の損金算入特例の適用対象外である。一方で、一括償却資産の適用は可能となっており、本問は、こうした法人税の取扱いを正確に理解しているかを主に問うている。また、減価償却資産に対して資本的支出を行った場合、その資本的支出は、原則として、元の減価償却資産と種類及び耐用年数を同じくする減価償却資産を新たに取得したものとして減価償却費を計算することとなる。ただし、平成19年3月31日以前に取得をした減価償却資産に資本的支出を行った場合には、その資本的支出を行った事業年度において、その資本的支出の金額を元の減価償却資産の取得価額に加算して償却を行う方法も認められているため有利選択が必要となる。
     固定資産は企業の収益活動において長期的に活用されることから、取得した資産及び資本的支出の減価償却額計算においては、現在の取扱いだけでなく以前の償却制度を含めて正しく理解している必要がある。また、本問では、外貨により支払いをして輸入した固定資産の取得価額の計算方法を理解しているかも問うている。
  7. (7) 交際費等に関する事項
     交際費等の額は、原則として全額が損金不算入とされているものの、損金不算入額の計算に当たっては、法人の区分に応じて一定の措置が設けられている。期末資本金の額が5億円以上の法人の100%子法人等で、かつ期末資本金の額が100億円以下の法人については、一定の要件を満たす飲食費の額の50%に相当する金額について損金算入が認められている。また、交際費等の損金不算入制度については、令和6年度税制改正により交際費等の範囲から除外される一定の飲食費に係る金額基準が従来の5千円以下から1万円以下に引き上げられており、最新の知識を習得しているかを問う問題である。
  8. (8) 欠損金に関する事項
     平成30年4月1日以後に開始した事業年度における、中小法人等以外の法人の各事業年度における欠損金の控除限度額は、繰越控除をする事業年度のその繰越控除前の所得の金額に対して100分の50の率を乗じた金額とされている。また、同年4月1日前に開始した事業年度において生じた欠損金額の繰越期間は9年間となっている。これらの知識を正確に理解しているかを問う問題である。