本問は、法人税法における基本的な事項の中から、特定同族会社の留保金課税に関する事項、災害によって資産に損害が生じた場合についての課税上の取扱いに関する事項及び仮装経理に基づく過大申告があった場合の課税上の取扱いに関する事項を取り上げて、近年の社会的課題となっている事項とも関連して、税理士の実務において頻出する論点についての正しい理解を問う問題である。
問1(20点)
本問の論点は、特定同族会社の特別税率(留保金課税)の適用対象又は留保金課税額の算定についての正しい理解である。
留保金課税は、内国法人である特定同族会社の各事業年度の留保金額が留保控除額を超える場合に、各事業年度の法人税額に追加して課税される制度であるが、特定同族会社に該当するかどうかの判定は、各事業年度終了の時の現況によることとされている。このため、期中に増資が行われた場合には、期末の現況によって判定を行うこととなる。また、特定同族会社とは、被支配会社で、被支配会社であることについての判定の基礎となった株主等のうちに被支配会社でない法人がある場合には、その法人をその判定の基礎となる株主等から除外して判定するものとした場合においても被支配会社となるものをいうが、本問では、具体的な株主構成の資料に基づき被支配会社であることについて的確に判定ができるかがポイントとなる。
続いて、留保金額とは所得等の金額のうち留保した金額から各事業年度の法人税額等を控除した金額をいい、期末配当等の額は、基準日等の属する事業年度の留保金額から控除することになる。また、留保金控除額は、所得等の金額又は期末資本金の額に一定割合を乗ずるなどして算定することになる。本問では、制度の正しい理解を前提として、資料に与えられた具体的な事項等に基づき、正確な留保金額及び留保金控除額を導き出せるかがポイントとなる。
問2(15点)
近年、我が国では地震又は台風といった災害が頻出しているが、本問の論点は、災害により保有する資産に損害があった場合に適用される法人税の規定についての正しい理解である。
法人の有する棚卸資産につき災害による著しい損傷が生じたことにより、その時価が帳簿価額を下回ることとなった場合には、帳簿価額と時価との差額につき、損金経理をすることにより、損金の額に算入することが認められる。
また、法人がその有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうちその固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分が資本的支出となり、原状回復するために支出した費用は、修繕費に該当することになる。
更に、法人がその有する固定資産の滅失又は損壊により、その滅失又は損壊のあった日から3年以内に支払の確定した保険金等をもってその滅失又は損壊をした代替資産の取得等をした場合には、その代替資産について圧縮限度額の範囲内で圧縮記帳の適用を受けることができるほか、保険金等を受けた事業年度に代替資産の取得又は改良ができない場合でもその翌期首から原則として2年以内に代替資産の取得等をする見込みであるときは、圧縮限度額の範囲内の金額をその事業年度の確定した決算において特別勘定を設ける方法により経理したときは、その経理した額を損金の額に算入することができる。本問では、これらの規定を正しく理解しているかがポイントとなる。
問3(15点)
我が国経済はコロナ禍を乗り越えるところにあるが、過去の不況期においては企業が仮装経理によるいわゆる粉飾決算を行っていたという事例が散見されたところであり、本問の論点は、仮装経理に基づく過大申告があった場合に適用される法人税の規定の正しい理解である。
法人が過大申告を行った場合、更正の請求を行うことで、税務署長の調査を経て、過大に納付した法人税額の還付を受けることができる。一方で、その過大申告が仮装経理に基づくものであった場合、その仮装経理のあった事業年度後の事業年度において修正の経理が行われ、かつ、修正の経理をした事業年度の確定申告書を提出するまでの間、税務署長は更正しないことができるといった特例措置が設けられている。
また、法人税額を減額する更正が行われた場合であっても、過大に納付した法人税額は直ちに還付されずに、その更正の日を含む事業年度開始の日前1年以内に開始した事業年度について納付した法人税額相当額まで還付し、残りはその後5年に渡って順次繰り越して税額控除することとなり、5年経過日の属する事業年度の申告書の提出期限が到来した時点で控除しきれなかった残額が還付されることとなる。ただし、その繰越期間内に破産手続開始決定等があった場合には、破産手続開始決定の日の属する事業年度の申告書の提出期限等が到来した時点で控除しきれなかった残額が還付されることとなる。
仮装経理に基づく過大申告が行われた場合には、法人税法上、このような特例規定が設けられていることを正しく理解しているかがポイントとなる。
本問は、資本金の額が5億円以上である大法人から完全支配されるため、法人税法上の中小法人及び中小企業者の特例の適用を受けることのできない法人等に関する法人税法における取扱いを正確に理解しているかを問う問題を中心に出題している。