出題のポイント

【第一問】−50点−

問1(30点)

 近年、スマートフォンやタブレット端末の普及に伴い、フリマアプリやオークションサイト等によるインターネットを介した個人間取引が広がりを見せている。個人が、日常生活において不要になった動産を気軽に売却することができるようになり、これらの取引により生じた利益や損失の金額の課税上の取扱いについて、税理士に助言を求める場面も多い。
 これらの利益又は損失の金額については、売却した動産の種類によって所得税法上の取扱いが異なるため、それぞれの取扱いについて正確に理解し、適切な課税標準、税額等を計算することは、税理士にとって必要不可欠である。
 本問は、居住者が所有する動産を売却した場合の取扱い等について、基本的かつ重要な点を問う問題であり、主なポイントは次のとおりである。

  1. (1) 所得税法における「生活に通常必要でない資産」の意義
    1  競走馬、その他射こう的行為の手段となる動産
    2  別荘、ゴルフ会員権など、主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する資産
    3  生活の用に供する動産で、1個又は1組の価額が30万円を超える貴金属、書画、骨董等
  2. (2) 動産]が生活に通常必要でない資産に該当する場合、その譲渡による所得は総合課税の譲渡所得に該当し、譲渡した資産を取得してから譲渡するまでの保有期間により、短期と長期に区分されること。また、総合課税の譲渡所得内において生じた損失との通算は可能であること。
     さらに、生活に通常必要でない資産に係る所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、競走馬の譲渡に係るもので一定の場合を除き、その損失の金額は生じなかったものとみなされ、損益通算の対象とならないこと。
  3. (3) 生活に通常必要な動産の譲渡による所得は非課税とされること。
     また、非課税所得について損失が生じたとしても、その損失はなかったものとされること。

問2(20点)

 確定申告義務の有無は、確定申告及び更正の請求の期限にも影響し、所得税法第120条、第122条及び第123条の規定について正しく理解することは、申告書を含む税務書類の作成、ひいては、納税義務の適正な実現の根幹に関わることである。令和3年度税制改正により、配当控除前の所得税の額が配当控除の額を超える場合であっても、控除しきれなかった外国税額控除の額、源泉徴収税額又は予定納税額があるときは、その申告書の提出の義務はないこととされた。
 本問は、実務において基本的かつ重要な事項である居住者の確定申告義務及び還付等を受けるための申告について、また、純損失の繰越控除の適用を受ける場合などに提出する確定損失申告について、正しく理解しているかを問う問題である。

【第二問】−50点−

1 本年の基本方針
 本年は、問題の【資料T】にて、令和6年分の所得計算等を行うべき納税者の本年中の主な出来事を整理した情報を最初に提示することとした。これは、税理士が、納税者のその年の確定申告の計算を行う際には、まず、所得計算や税額計算等に必要なその年のライフイベント情報を納税者からヒアリングし、その情報を基に、所得計算等に必要な項目を整理し、計算の手順や特例適用の可否等の検討を行うという実務手順の重要性と、受験者が限られた時間の中で問題の前提条件の読み込みに過度な時間を要することがないようにという思いから準備したものである。
 この【資料T】からは、次のポイントを読み取ることを期待した。

  1. 1 居住者甲は、年の途中で父の相続により賃貸収入を生じる不動産又はその他の財産を取得し、相続税を支払っていることから、不動産所得において、不動産収入の計上時期、相続があった場合の減価償却方法の選択、償却月数の数え方、相続関連費用の必要経費性の検討
  2. 2 母と共有で、賃貸併用二世帯住宅を新築していることから、取得費の集計及び減価償却計算、持分割合又は使用割合に応じた必要経費の区分計算等の検討
  3. 3 父から相続したアパートを譲渡していることから、譲渡所得の計算、父から相続した土地及び建物の取得費の計算、相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例、譲渡所得の課税の特例の可否の検討

2 個別項目の出題のポイント
 上記1の基本方針に示した項目の他に、次の個別項目についての判断を問うこととした。

  1. 1 一般株式等について、自己が取得した株式及び相続で取得した株式が混在している場合における譲渡所得の計算。具体的には、相続により取得した株式の取得費の把握、年の中途で保有株式について株式無償割当等が実施された場合の取得費の再計算、相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例の計算についての検討
  2. 2 給与所得に係る特定支出の範囲及び給与所得控除の計算についての検討
  3. 3 所得水準に応じた配当所得の課税方法(総合課税、申告分離課税)の選択及び配当控除の計算の可否の検討
  4. 4 非事業用資産の取壊しに伴う助成金等の課税上の取扱い
  5. 5 雑損控除の対象となる資産の範囲の検討及び雑損控除の計算の検討
  6. 6 認知症等により、自治体から「障害者控除対象認定書」等の交付があった場合の障害者控除の適用の検討
  7. 7 総所得金額から控除しきれない所得控除が生じた場合の計算の検討
  8. 8 賃貸併用住宅についての住宅借入金等特別控除の適用の可否の判断及び計算の検討

3 所得税法の学習のポイント
 国の税収の過去の推移を見ると、所得税による税収は、令和元年に消費税率が8%から10%に引き上げられるまで、ほぼ一貫して最も税収の多い税目であり、私達の一生涯に渡って、常に関わりのある基本的な税目であることから、税理士として、所得税法の知識は、納税者の信頼に応えるために欠くことのできないものといえる。
 所得税法は、生まれてから亡くなるまでの長い時間軸の中で、個人の1年間の様々な経済活動から生じた各種所得の金額から、当該個人のその年の状況により適用される所得控除を控除して税額を計算した上で、政策的な配慮や国際間の二重課税の排除を目的として設けられた税額控除を行って所得税等の額を計算する税目である。
 所得控除も税額控除も同じ「控除」項目であるが、所得控除の場合には、所得から直接控除するため、当該所得控除に相当する金額に対して税を負担させない制度であるのに対して、税額控除は、一旦税を負担させた上で、その税を軽減又は控除させる制度であるため、それぞれの制度の目的が大きく異なる。これらの項目を学習する際には、なぜそのような控除項目が設けられているかを意識することも、所得税法の理解を深める一助となると考える。
 計算問題においては、上記の各種所得の金額の計算、所得控除及び税額控除等の基本項目をしっかり学習した上で、就職、結婚、出産、相続等の個人の大きなライフイベントごとの計算のポイントを整理しておくことで、限られた時間の中で勉強の成果を発揮できるのではないかと思う。
 所得税法に限らず各税法は、その時々の社会構造等の変化等に対応するために、常に様々な改正が行われ、この改正の基本的な考え方は、毎年年末に公表される税制改正大綱の冒頭に示される。この「基本的な考え方」のうち、受験税目に関係する部分だけでも目を通しておくことにより、今税制において何が課題となっているかを知ることも有益と考える。