出題のポイント

【第一問】−50点−

問1(30点)

 消費税は、課税期間中の課税標準に対する消費税額から、課税仕入れ等に係る消費税額を控除して納付(又は還付)税額を計算することとされており、「課税仕入れ」に該当するか否かの判断は実務において重要であるところ、消費税法上、「課税仕入れ」とは、事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(給与等を対価とする役務の提供を除く。)を受けることをいい、当該「他の者」には、事業者に限らず消費者も含まれ、当該「他の者」が事業として当該資産を譲渡等したとした場合に課税取引に該当するものであれば課税仕入れとなる。
 また、国内において事業として対価を得て行われる資産の譲渡等のうち、住宅(人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。)の貸付けについては非課税とされており、住宅として貸し付けるために取得した建物(非課税売上に対応する課税仕入れ)に係る消費税額については、本来、仕入税額控除の対象とならないが、意図的に多額の課税売上げを計上し課税売上割合を増加させることにより、本来行われるべきでない仕入税額控除を受け、課税売上割合が著しく変動した場合の調整措置の適用を免れる事例が散見されていたため、令和2年度税制改正において、居住用賃貸建物(住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物(高額特定資産又は調整対象自己建設高額資産に該当する建物に限る。))に係る課税仕入れ等の税額については、仕入税額控除の対象としないこととされた。
 更に、令和2年度税制改正においては、非課税の対象となる住宅の貸付けについて、その貸付けに係る契約において「人の居住の用」に供することが明らかな場合のほか、契約において貸付けに係る用途が明らかにされていない場合であっても、その貸付け等の状況からみて人の居住の用に供されていることが明らかなときは非課税とすることとされたが、こうした改正事項について、その内容や適用関係を正しく理解していることが実務においても必要である。
 そこで、本問においては、事業者でない者から居住用家屋を購入し住宅の貸付けに供したケースについて、1当該居住用家屋の購入が課税仕入れとなるか、2居住用賃貸建物の課税仕入れに該当し仕入税額控除の対象とならないこととなるか、3非課税となる住宅の貸付けに該当するかを簡潔に述べさせることで、実務においても生じ得る具体の事例に係る消費税法令の適用関係を問うものとした。

問2(20点)

 消費税の課税事業者は、「課税期間」ごとに確定申告書を提出する必要があるなど、消費税法令の各規定の適用において「課税期間」は基礎的な事項であるところ、本問の事例のように法人設立初年度に消費税課税期間特例選択届出書を提出するケースについて、当該届出書の効力の生じる時期を正しく理解していることは実務においても重要である。
 また、事業者が国内で行う課税資産の譲渡等のうち、飲食料品(食品表示法に規定する食品(酒税法に規定する酒類を除く。))の譲渡については軽減税率が適用されるが、飲食店業等を営む者が行う食事の提供は、軽減税率が適用される飲食料品の譲渡には含まれないこととされており、軽減税率の適用対象となるか否かの判断は実務において重要である。
 更に、課税売上割合の計算上、資産の譲渡等の対価として取得した金銭債権の譲渡は資産の譲渡等には含まれず、資産の譲渡等の対価として取得したもの以外の金銭債権の譲渡に係る対価の額の100分の5に相当する金額を資産の譲渡等の対価の額に含めることとされており、これらの適用関係を正しく理解していることは実務においても重要である。
 そこで、本問においては、具体の事例に沿って、1消費税課税期間特例選択届出書の効力、2軽減税率の対象となる「飲食料品の譲渡」の範囲、3消費税が非課税とされる金銭債権を譲渡した場合の課税売上割合の計算について、実務において必要な知識を問うものとした。

【第二問】−50点−

問1(25点)

 消費税の納付税額又は還付税額の計算に当たっては、課税資産の譲渡等の範囲、資産の譲渡等の時期及び課税標準の算定に関する事項を理解するとともに、仕入れに係る消費税額をはじめとする各種税額控除等について幅広く理解しておく必要がある。
 また、令和元年10月からの消費税率の引上げ及び軽減税率制度の実施による複数税率化に伴い、売上げ及び仕入れの双方について、税率ごとの区分を行えるよう、軽減税率制度の適用範囲について正しく理解しておく必要がある。
 更に、免税事業者が新たに課税事業者となる場合に、課税事業者となる日の前日において所有する棚卸資産のうちに、納税義務が免除されていた期間において仕入れた棚卸資産がある場合は、その棚卸資産に係る消費税額を、課税事業者になった課税期間の仕入れに係る消費税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額とみなして仕入控除税額を計算することについて、正しく理解しておく必要がある。
 そこで、本問においては、調剤薬局、通所介護施設、化粧品販売店(輸出物品販売場)など、様々な事業を営む事業者について、以下の事項を中心として、納付すべき(又は還付を受けるべき)消費税額を計算させることで、消費税法の総合的な理解度を問うものとした。

  1. (1) 売上げについて課税取引、免税取引及び非課税取引の判定を適正に行い、課税標準額に対する消費税額が正しく算出されているか。
  2. (2) 仕入控除税額の計算に当たって、課税仕入れの範囲、適用税率及びその時期、個別対応方式と一括比例配分方式による計算方法等について正しく理解しているか。また、課税仕入れについて、課税資産の譲渡等にのみ要するもの、その他の資産の譲渡等にのみ要するもの及び課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものの区分を正しく行うことができるか。
  3. (3) 納税義務の免除を受けないこととなった場合の棚卸資産に係る消費税額の調整が正しく行われているか。

問2(25点)

 納付すべき(又は還付を受けるべき)消費税額の計算の基礎となる期間である課税期間は、法人については原則として事業年度と定められているため、決算月の変更等により変則的な課税期間が生じる場合があり、本問の事例のように、当課税期間及び前々課税期間が1年でない場合に、納付すべき(又は還付を受けるべき)消費税額の計算にどのような影響があるかを理解しておく必要がある。
 また、課税売上割合は、仕入れに係る消費税額の計算方法や、調整対象固定資産の仕入れに係る消費税額の調整計算等に関わる重要な項目であるところ、課税売上割合の計算にあたっては、非課税とされる土地等の譲渡及び貸付けや住宅の貸付けの範囲、輸出取引等に該当する非課税資産の譲渡等及び国外における自己の使用のための資産の輸出についての取扱いを理解しておく必要がある。
 そこで、本問においては、国内における非課税取引が多く生ずる不動産業を営む事業者について、以下の事項を中心として、納付すべき(又は還付を受けるべき)消費税額を計算させることで、消費税法の総合的な理解度を問うものとした。

  1. (1) 売上げについて課税取引、免税取引及び非課税取引の判定を適正に行い、課税標準額に対する消費税額が正しく算出されているか。また、輸出取引等に該当する非課税資産の譲渡等の判定を適正に行い、課税売上割合が正しく算出されているか。
  2. (2) 仕入控除税額の計算に当たって、課税仕入れの範囲及びその時期、個別対応方式と一括比例配分方式による計算方法等について正しく理解しているか。また、課税仕入れについて、課税資産の譲渡等にのみ要するもの、その他の資産の譲渡等にのみ要するもの及び課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものの区分を正しく行うことができるか。
  3. (3) 消費税法第30条第10項に規定する居住用賃貸建物に係る課税仕入れ等の税額について、仕入税額控除の対象にしていないか。
  4. (4) 消費税法第33条第1項に規定する「比例配分法により仕入れに係る消費税額を計算した場合」に「消費税法第30条第1項の規定により調整対象固定資産に係る課税仕入れ等の税額の全額が控除された場合」が含まれることや、消費税法第33条第2項に規定する「第三年度の課税期間」の定義を正しく理解した上で、課税売上割合が著しく変動した場合の調整対象固定資産に関する仕入れに係る消費税額の調整の要否の判定及び調整計算が正しく行われているか。
  5. (5) 当課税期間の直前の課税期間の確定申告書に記載すべき消費税額(差引税額)が当課税間中の更正等により増減した場合について、中間申告対象期間ごとの中間申告の要否の判定及び中間納付税額の計算が正しく行なわれているか。