出題のポイント

【第一問】−50点−

問1(25点)

 小規模宅地等の相続税の課税価格の計算の特例(租税特別措置法第69条の4)は、昭和58年度税制改正において、被相続人の有していた宅地等を相続又は遺贈により取得した相続人等の事業又は生活を維持するために設けられた措置であり、多くの納税者が利用している特例である。
 平成6年度税制改正では、この特例を制度本来の目的に沿った仕組みとするため、対象となる宅地等の範囲が見直され、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等については、被相続人の配偶者又は一定の要件を満たす親族が取得した場合には、特定居住用宅地等として特例の対象とすることとされた。
 近年では、平成30年度税制改正において、この特例の趣旨を逸脱した適用を防ぐため、持ち家がない相続人等の要件について特例の趣旨に即したものとなるよう見直しが行われている。
 この特例の対象となる特定居住用宅地等とは、被相続人又は被相続人と生計を一にしていた親族の居住の用に供されていた宅地等のうち、被相続人の配偶者が取得したもののほか、被相続人の居住の用に供されていた建物に居住していた親族、被相続人と生計を一にする親族及びこれらの者以外の親族が取得したもののうち一定の要件を満たすものとされている。
 この特例は利用が多く、また、宅地等の用途及び取得者等によって適用要件が異なっていることから、実務上、その適用に際して、これらの所要の要件を正確に理解した上で、適用の可否を適切に判断すべき場面が多くなっている。また、減額割合は宅地等の価額の最大80%であることから、この特例の適用の有無により、納税者が納付する相続税額に大きな影響を与えることになる。
 これらの事情を背景に、本問題では、小規模宅地等の相続税の課税価格の計算の特例における特定居住用宅地等について、法令上の要件を正確に理解した上で、適切に適用の可否が判断できるかを事例を通じて問うこととしたものである。

問2(25点)

 相続税又は贈与税の納税義務者は個人を原則とするが、税負担の回避を防止するために一定の場合には、個人以外の者を個人とみなして相続税又は贈与税の納税義務を負わせている。
 具体的には、一般社団法人等を含む持分の定めのない法人を利用した相続税又は贈与税の負担回避を防止するため、当該法人に対し財産の遺贈又は贈与があった場合において、その財産の遺贈者等の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるときは、当該法人を個人とみなして、相続税又は贈与税を課すこととされている。
 また、持分の定めのない法人のうち一般社団法人等については、持分が存在しないことに加え、準則主義により容易に設立が可能で、事業内容や役員に占める親族割合も制限がなく、解散時に残余財産の分配が可能であるなどの特徴がある。そのため、一般社団法人等を私的に支配し、個人が実質的に法人の財産を保有し続けることによる相続税負担の回避を防止する観点から、平成30年度税制改正において、一定の一般社団法人等の理事である者が死亡した場合等には、当該一般社団法人等を個人とみなして、相続税を課税することとされた。この措置は、平成30年4月1日以後の一般社団法人等の理事である者の死亡に係る相続税について適用されているが、平成30年3月31日以前に設立された一般社団法人等については、令和3年4月1日以後の一般社団法人等の理事である者等の死亡に係る相続税について適用することとされている。
 本問題は、持分の定めのない法人を利用した租税回避を防ぐために設けられている当該法人に対する課税の規定(相法664)及び近年の税制改正により創設された特定の一般社団法人等に対する課税の規定(相法66の2)について、理解しておくべき基本的事項を問うものである。

【第二問】−50点−

 相続税の全体像を理解するためには、民法の相続人、法定相続人の判定や遺言、分割協議に始まり、個別の財産評価、課税価格計算、税額計算に至るまで、相続税法や租税特別措置法に留まらない横断的な理解が必須である。税理士としての実務における財産評価では、複数の論点が絡み合う複雑な評価があり、適切にその判断を行うためには、個別の財産評価についての基礎を確実に把握することにある。
 また、被相続人の遺産の利用状況などの背景をどれほど理解しているかが、特例適用の判断に大きな影響を与える。相続税に関わる法改正も確実に理解する必要がある。
 以上を踏まえ、本問は、各相続人等の納付すべき相続税額を算出させることを通じて、相続税法の総合的な理解度を問う問題であり、主なポイントは次のとおりである。

  1. (1) 相続人と法定相続人に関する規定については、第三順位の相続人の理解を確認している。
  2. (2) 宅地の評価については、税理士が、関与先法人の同族株主の相続税に携わる場面で頻出の論点として、法人が個人から賃貸借により借り受けた土地の上に建物を所有しているケースを想定しており、次の事項の理解を確認している。
    • イ 賃貸借契約の目的となっている宅地の評価単位及び評価方法について
    • ロ 不整形地の評価について
    • ハ 「土地の無償返還に関する届出書」が提出されている場合の貸宅地の評価について
    • ニ 地積規模の大きな宅地の評価について
    • ホ 定期借地権の目的となっている宅地の評価について
  3. (3) 取引相場のない株式の評価については、次の事項の理解を確認している。
    • イ 同族株主の判定(自己株式保有)について
    • ロ 特定の評価会社の判定及び評価方法について
    • ハ 評価会社が有する株式等の純資産価額の計算について
  4. (4) 小規模宅地等の相続税の課税価格計算の特例については、特定同族会社事業用宅地等の適用要件の理解を確認している。