出題のポイント

【第一問】−50点−

 本問は、法人税法における基本的な事項の中から、グループ通算制度に関する事項、過大支払利子税制に関する事項及び金銭債権の貸倒れに関する事項を取り上げて、それぞれの事項に係る課税上の取扱い等について、正しく理解されているかを問う問題である。

問1(30点)

 令和2年度税制改正において、連結納税制度が見直され、グループ通算制度へ移行することとされ、令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用することとされた。グループ通算制度とは、完全支配関係にある企業グループ内の各法人を納税単位として、各法人が個別に法人税額の計算及び申告を行い、その中で、損益通算等の調整を行う制度である。併せて、後発的に修更正事由が生じた場合には、原則として他の法人の税額計算に反映させない(遮断する)仕組みとされている。
 具体的には、グループ通算制度の適用対象となる法人は、普通法人又は協同組合等に該当する一定の親法人及びその親法人との間にその親法人による一定の完全支配関係がある一定の子法人に限られる。
 また、通算法人の基準日において、その通算法人との間に通算完全支配関係がある他の通算法人の基準日に終了する事業年度(通算事業年度)において通算前欠損金額が生ずる場合には、その通算法人の所得事業年度の通算対象欠損金額は、その所得事業年度の損金の額に算入される。この場合において、通算事業年度の通算前所得金額又は通算前欠損金額が当初申告額と異なるときは、それぞれの当初申告額がその通算事業年度の通算前所得金額又は通算前欠損金額とみなされる。ただし、一定の要件を満たす場合には、損益通算及び欠損金の通算の規定の計算に用いる所得の金額及び欠損金額を当初申告額に固定せずに、通算グループ全体で再計算をすることとされている。
 グループ通算制度は、近年のグループ経営の実態を踏まえ、企業の事務負担の軽減等の簡素化等の観点から連結納税制度の見直しにより導入されたものであり、税務代理や税務相談を担う税理士の実務において今後更に重要となってくる論点であり、その必要な知識を問うものである。

問2(10点)

 平成24年度税制改正において、所得金額に比して過大な利子を関連者間で支払うことを通じた租税回避を防止するため、いわゆる過大支払利子税制が創設され、平成25年4月1日以後に開始する事業年度から適用することとされた。
 具体的には、法人のその事業年度の対象純支払利子等の額が調整所得金額の20%相当額を超える場合には、その超える部分の金額に相当する金額は、その法人のその事業年度の損金の額に算入しないこととされている。
 本問は、過大支払利子税制の知識を踏まえ、具体的な事例に基づき制度の適用の判定が行えるかどうかを問うものである。

問3(10点)

 金銭債権の額のうち会社更生法の更生計画認可の決定により切り捨てられることとなった部分の金額は、更生計画認可の決定があった時に消滅することになるため、その事実の発生した事業年度において貸倒れとして損金の額に算入することとなる。
 法人が有する金銭債権について、会社更生法の規定による更生計画認可の決定に基づいてその弁済が猶予等される場合、更生計画認可の決定があった日の属する事業年度終了の日の翌日から5年を経過する日までに弁済を受ける部分の金額以外の金額について、個別貸倒引当金の損金算入が認められている。
 本問は、事例に基づき金銭債権の貸倒れ及び貸倒引当金の繰入に係る法人税の取扱いに係る複合的な論点について、正しく理解しているかどうかを問うものである。

【第二問】−50点−

問1(40点)

 本問は、コロナ禍のような業績変動の大きい時代において典型的な諸事項を中心として、中小法人に関する課税上の取扱いについて正確に理解しているかを問う問題である。

  1. (1) 法人税等・租税公課に関する事項
     法人の課税所得計算において租税公課の処理は、実務で頻出する。その内容は、法人税等に関連する項目とその他の項目に大別できる。法人税等については、前期において納税があり当期において予定納税が生じたが、一方で当期においては予定納税額の全額が還付となる事例となっている。納税充当金の取崩し処理及び仮払税金勘定による処理がある場合における正確な税務調整に関する理解度を問う問題である。
     また、その他の項目としては、附帯税の処理など実務で必須となる知識の理解を問う問題である。
  2. (2) 受取配当等に関する事項
     本問は、受取配当等の益金不算入額の計算を行うための知識を正確に理解しているかどうかを問う問題である。益金不算入額の計算を正確に行うためには、保有する株式等がどの区分に属するかの判定、会社が保有する株式等の区分に応じた益金不算入割合を正確に理解していることが不可欠である。
     中小法人においてもグループ経営が行われ、海外における拠点を持ち、取引関係にある会社の株式の取得と売却をすることが一般的に見受けられる。株式の取得・保有・売却状況に応じた益金不算入額の計算及び法人税額から控除される所得税額の計算が適切に行われるかどうかがポイントとなる。
  3. (3) 役員給与等に関する事項
     本問は、事業承継により役員の職制上の地位が変更する場合における役員給与等の取扱いについての理解を問う問題である。役員に対する給与を損金の額に算入するには、定期同額給与に代表される法人税法第34条の規定に沿った支給が求められる。しかし、事業承継により役員の職制上の地位が変更となる場合は、役員退職給与、役員報酬の変動、使用人が役員となった場合の賞与の支給の取扱いなどイレギュラーな事案が多く生じる。実務家は、常にイレギュラーな税務問題に対峙することになるが、損金算入のルールを正確に理解して解答を導き出せるかどうかがポイントである。
  4. (4) 減価償却に関する事項
     本問は、減価償却費の計算に不可欠な知識を広く正確に理解しているかを問う問題である。正確な減価償却費の計算のためには、減価償却資産の種類、事業供用年月に応じて適用される償却方法の選択、そして各場合における減価償却費の計算の理解が不可欠である。特に、コロナ禍においては多くの中小企業が国・地方公共団体等から補助金等を受給しているため、圧縮記帳や特別償却に関する理解が実務では求められる。
     また、令和4年度税制改正では、少額減価償却資産の取得価額の損金算入制度等を利用した過度な節税を防止する手当てがされたが、改正に関する知識を十分に得ているかどうかも問うている。実務家は、最新の知識を常に習得することで正確な税務判断能力を兼ね備え続けなければならない。
  5. (5) 交際費等に関する事項
     本問は、交際費等の損金不算入制度についての理解と正確な限度額計算ができるかどうかを問う問題である。交際費等に関する税務処理は、もっとも身近な事項の一つである。交際費等の定義を正確に理解し、福利厚生費、会議費、広告宣伝費その他の隣接する諸費用との違いについても正確に把握していることが重要である。

問2(10点)

 寄附金及び受贈益に関する事項
 本問は、グループ会社間の経済的支援が行われた場合における法人税法の取扱いを正確に理解しているかどうかを問う問題である。グループ経営をする会社では、経営状況の悪化した会社に対する経済的支援が行われることがある。しかし、そのすべてが法人税法上、損金の額として認められるわけではない。また、グループ会社間の資本関係によっても税務処理が異なることとなる。このような取扱いの違いを正確に理解し、グループ会社間の寄附金及び受贈益並びに譲渡損益調整資産の譲渡損益の繰延べについて、適切な税務判断を行うことが出来るかどうかがポイントである。