出題のポイント

【第一問】−50点−

問1(30点)

 上場株式の配当の課税方法については、1総合課税、2申告分離課税、3申告不要を選択することができ、また、選択した課税方法により適用される制度が異なる。
 金融資産を保有する個人にとって、どのような課税方法を選択、適用すべきかは重要な事項であり、税理士に助言を求める場面も多い。
 個々人の金融資産の保有状況等を踏まえた的確な判断をするためには、選択できる課税方法とそれぞれの特徴を正しく理解することが、税理士の実務においても重要となる。
本問は、金融資産の代表例とも言える上場株式の配当に焦点を当て、配当を受領した場合の基本的な課税関係を問う問題であり、主なポイントは次のとおりである。

  1. (1) 源泉徴収(大口株主が受ける配当の場合は、税率が異なる)された上で配当が支払われていること
  2. (2) 配当の収入金額から、元本を取得するために要した負債の利子の額を控除すること
  3. (3) 課税方法について、総合課税、申告分離課税、申告不要を選択可能であること
    また、
    •  申告不要は1回に支払を受けるべき上場株式の配当の額ごと(源泉徴収口座内の配当については口座ごと)に選択可能であること
    •  申告する場合は、申告する上場株式の配当に係る配当所得の全てについて、総合課税又は申告分離課税のいずれかを選択すること
    •  大口株主の配当は、申告分離課税を選択できないこと
  4. (4) 総合課税を選択した場合には、配当控除の適用が可能であること
     また、申告分離課税を選択した場合には、本年又はその年の前年以前3年以内の各年に生じた上場株式等に係る譲渡損失の金額は、配当所得の金額から控除することができること

問2(20点)

 災害により所有する資産に被害があった場合、被災者の税負担の軽減を図るため、所得金額等から一定の損失金額が減額される。
 その損失金額については、被災した資産の種類や用途によって所得税法上の取扱いが異なるため、その適用関係について正確に理解し、適切な課税標準、税額等を計算することは、税理士にとって必要不可欠である。
 本問は、災害関連税制の適用場面が増加傾向にある中、居住者が所有する不動産に被害があった場合の取扱いについて、実務においても基本的かつ重要な点を理解しているか確認するため、

  • (1) 居住している不動産に受けた損失については、雑損控除として、その年分の課税標準から控除し、控除しきれない部分は翌年以後3年間繰り越すことができること
  • (2) 事業の用に供している賃貸用不動産に受けた損失については、資産損失として、その損失の生じた日の属する年分の必要経費に算入されること
  • (3) 主として保養の目的で所有する不動産など、生活に通常必要でない資産に受けた損失については、その損失を受けた日の属する年分及びその翌年分の譲渡所得の金額の計算上控除すべき金額とみなすこと

について説明を求めるとともに、それぞれの損失金額の計算方法についての基礎的な理解を問う問題である。

【第二問】−50点−

 IT業界をはじめとして様々な業種において、自己の専門性を活かして独立開業や仲間と共に会社を興してチャレンジする人が増加してきている。
 そこで、本問は、 企業の創業に関わった個人が、当該企業を退職し、自ら個人事業主としての独立開業を経て、法人成りした場合の所得計算の理解を問う問題とした。
 また、最近では、インターネット等を活用して、積極的に海外市場へ進出するケースも増加しており、海外転勤、帰国等があった場合の所得計算及び所得控除の範囲等の基本的な理解も、今後の税理士業務として重要となってきていることから、これらの理解を問う問題も含めている。
 具体的には、以下の事項についての理解を問うこととしている。

  1. (1) 非居住者期間に国内外で受け取る給与の取扱い
  2. (2) インセンティブ報酬であるストックオプションの行使による所得区分及び所得計算
  3. (3) 特定役員退職手当等と一般退職手当等がある場合の退職所得計算
  4. (4) 個人事業主が年の中途で事業を廃業した場合の所得計算
  5. (5) 個人事業主が法人成りした場合の事業用資産の引継計算
  6. (6) 非居住者期間中に支払った社会保険料、生命保険料等の取扱い
  7. (7) エンジェル税制の取扱い
  8. (8) 過去に特定の居住用財産の買換えの特例を利用した居住用財産を譲渡した場合の取扱い

 個人の場合、法人と異なり、就職、結婚、住宅の取得、海外転勤、退職、独立開業、相続などの様々なライフイベントがあり、所得税法においては、そのライフイベントごとに所得区分や所得計算等が異なることが多く、おのずと税理士が納税者から助言を求められる場面も多い。予期せぬ災害等の場面でも同様である。
 税理士が納税者に対して的確な助言を行うためには、各種所得の金額の計算、所得控除額の計算、税額計算等の基礎的な項目の学習をしっかり行った上で、ライフイベントごとの論点を整理しておくことが重要であり、本問もその理解を問う問題としている。