出題のポイント

【第一問】

問1

 消費税の課税の対象は、国内取引として、国内において事業者が行った資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。)及び特定仕入れ、輸入取引として、保税地域から引き取られる外国貨物とされており、国内取引については、資産の譲渡等を行う事業者(売手側)の取引が課税の対象となる場面とその資産の譲渡等を受ける事業者(仕入手側)の取引が課税の対象となる場面の二つがあるところ、これに対応して、事業者が国内において行った課税資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。)及び特定課税仕入れについて、納税義務を負うこととしている。すなわち、国内において課税資産の譲渡等を行う事業者が納税義務を負うとともに、一定の取引については、国内取引で特定資産の譲渡等である役務の提供を受ける事業者が、いわゆるリバースチャージとして納税義務を負うこととなる。本問の一つ目は、資産の譲渡等を受ける事業者(仕入手側)の場面として、課税事業者が国内において行った特定課税仕入れにつき、値引き又は割戻しといった対価の返還を受けた場合の課税関係について問う問題である。売上げに係る対価返還等や仕入れに係る対価返還等だけでなく、いわゆるクロス・ボーダー取引において特定課税仕入れを行った場合には、その対価返還等を受けることもあるため、実務においても重要な論点であり、正しく理解していることが必要であるから、特定課税仕入れの意義などについても触れさせた上で、その内容と要件を述べさせ、また、相続等があった場合の取扱いについても問う問題とした。
 次に、消費税法における価格表示、いわゆる総額表示義務は平成15年度税制改正で新設されたが、「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」(平成25年法律第41号)により、平成26年及び令和元年の二度にわたる消費税率の引上げに際し、事業者の事務負担等に配慮する観点から、一定の期間、現に表示する価格が税込価格であると消費者に誤認されない措置を講じているときに限り、税込価格を表示することを要しないという総額表示の特例措置が設けられていた。当該特例措置の適用期間は令和3年3月31日までであったことから、同年4月1日以降は、消費税本法の総額表示義務が適用されることとなる。事業者から総額表示義務に関する税務相談があった場合や事業者が行っている対象となる価格表示が正しく遵守されているか、その内容を正しく理解していることが実務において重要であり、本問の二つ目は、その内容を問う問題とした。

問2

 消費税は、内国消費税であり、国内において消費される物品やサービスについて負担を求めるものであることから、国内以外の場所で行われる取引は課税対象外であり、また、輸出取引は免税とされている。資産の譲渡等が国内取引に該当するかどうかの判定(内外判定)は、原則として、資産の譲渡又は貸付けについては、その譲渡又は貸付けが行われたときに資産が所在していた場所により、役務の提供(電気通信利用役務の提供以外)については、役務の提供が行われた場所により、電気通信利用役務の提供については電気通信利用役務の提供を受ける者の事務所等の所在地により判定することとされている。ただし、いわゆる無形資産の譲渡、有価証券の譲渡、国内外にわたる役務の提供など一定の資産の譲渡等については、消費税法施行令第6条で定める場所により判定することとされている。また、非居住者に対して行われる資産の譲渡及び貸付けなど、一定の取引については、輸出取引等として消費税を免除することとされている。本問は、事業者が行った事例の取引に係る内外判定を行うなど、消費税法令の適用関係について、その理由を示して説明させる問題とした。消費税の基本的かつ重要な要素である国内取引の判定基準、国内取引のうち非居住者に対する取引である場合には、輸出取引等として消費税が免除される資産の譲渡等について正しく理解しているかなど、税務代理や税務相談を担う税理士の実務においても重要な論点であり、その必要な知識も問うている。

  1. (1) いわゆる三国間取引
  2. (2) 二国で登録された特許権の譲渡
  3. (3) 株券の発行がない株式の譲渡
  4. (4) 非居住者に対する利子を対価とする金銭の貸付け
  5. (5) いわゆる消費者向け電気通信利用役務の提供

【第二問】

問1

 事業者は、原則として国内において行った課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについて消費税の納税義務を負うが、事業規模が一定以下の場合にはその納税義務を免除することとしている(小規模事業者に係る納税義務の免除)。この判定は基準期間における課税売上高により行うが、法人の設立時等については基準期間における課税売上高が1千万円以下である場合(基準期間がない場合を含む。)であっても、一定の要件の下で納税義務を免除しないこととする種々の特例が設けられている。税理士は、これらの特例の適用関係を正しく理解し、特に規模の小さな事業者が納税義務の有無を正しく判定できるよう適切に指導や助言を行う必要がある。そこで、本問では法人設立の一形態として、法人が会社法に定める事後設立により事業の一部を分社化したケースを出題し、分割等があった場合の納税義務の免除の特例及び特定新規設立法人の納税義務の免除の特例を中心に、各種特例規定の適用順序も踏まえ、正しい納税義務の有無の判定が行えるかどうかを問う問題とした。
 消費税の納付税額の計算に当たっては、課税資産の譲渡等の範囲、資産の譲渡等の時期及び課税標準の算定に関する事項を理解するとともに、仕入れに係る消費税額をはじめとする各種税額控除等について幅広く理解しておく必要がある。また、軽減税率制度の実施による複数税率化に伴い、売上げ及び仕入れの双方について税率ごとの区分を行えるよう、軽減税率の適用範囲について正しく理解しておく必要がある。そこで、本問では軽減税率の適用対象取引が多く発生する業種である飲食店業を営む事業者における適用税率の判断について、税理士として適切な指導や助言を行えるかどうかを問う問題としている。さらに、近年増加している飲食料品の宅配(デリバリー)による販売やグルメサイトでの店内飲食の予約受付け、キャッシュレス決済による代金の決済及びインターネットによる音楽・映像配信の利用などを取り上げ、これらの取引の消費税法上の取扱いについても理解しているかを問う問題である。
 以上を踏まえ、本問は、以下の事項を中心として、納税義務の有無の判定及び納付すべき消費税額の算定をさせることで消費税法の総合的な理解度を問う問題である。

  1. (1) 消費税法第12条第7項第3号に規定する分割等及び同条第1項に掲げる分割等があった日を正しく理解した上で、新たに設立された法人の各事業年度(課税期間)について、適用が想定される納税義務の免除の特例判定を正しい適用順序で行えるかを問うている。
  2. (2) 売上げについて、適用税率ごとの課税取引、非課税取引及び課税対象外(不課税)取引の判定を適正に行い、課税標準に対する消費税額及び課税売上割合が正しく算出されているかを問うている。
  3. (3) 仕入控除税額の計算に当たって、課税仕入れ等の範囲、その時期及び適用税率、個別対応方式と一括比例配分方式による計算方法等について、正しく理解しているかを問うている。また、課税仕入れ等について、課税資産の譲渡等にのみ要するもの、その他の資産の譲渡等にのみ要するもの及び課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに正しく区分を行うことができるかを問うている。
  4. (4) 消費税法第2条第1項第8号の3に規定する電気通信利用役務の提供及び同項第8号の4に規定する事業者向け電気通信利用役務の提供の定義を正しく理解した上で、これらの取引に係る内外判定の基準、課税方式及び仕入税額控除の適用関係を正しく理解しているかを問うている。

問2

 中小事業者の納税事務負担に配慮する観点から簡易課税制度は設けられている。本問は、複数の事業形態を営む場合の正しい事業区分、そして対価の返還等、貸倒れ及びその回収があった場合の計算方法と簡易課税制度全般にわたる基本的な理解を問う問題である。また、軽減税率対象品目及び複数税率の計算方法についても正しく理解しているかを問う問題である。