出題のポイント

【第一問】

問1

 贈与税は、相続課税の存在を前提に生前贈与による相続課税の回避を防止する意味で、相続課税を補完する役割を果たしている。具体的には、1年間の贈与につき暦年ごとに課税(暦年課税制度)しつつ、被相続人の死亡直前の生前贈与による相続税負担の回避に対応するため、相続開始前3年以内になされた贈与財産についてのみ相続財産に加算して相続税として課税(課された贈与税額は控除)する方法を採っている。
 平成15年度税制改正では、生前贈与の円滑化に資する観点から、生前贈与と相続との間で資産移転の時期の選択に対して税制の中立性を確保することが重要となってきている状況を踏まえ、相続税・贈与税の一体化措置として、暦年課税制度との選択制とする相続時精算課税制度が創設された。この制度を選択した受贈者は、制度の適用に係る贈与者から受けた贈与財産について贈与時に他の贈与財産と区別して贈与税が課され、贈与者の相続時まで継続してこの制度が適用される。なお、贈与者の死亡時には、それまでの贈与財産と相続財産とを合算して計算した相続税額から、既に課された贈与税相当額が控除され、控除しきれない贈与税相当額は還付される。
 また、平成25年度税制改正では、高齢者の資産を若年層に移転させることにより、若年世代の教育に係る負担軽減を図りつつ、経済活性化に資することを目的に、教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置が講じられており、令和元年度税制改正等では、当該非課税措置が格差の固定化につながらないよう機会の平等の確保に留意した見直しが必要との観点から、受贈者が在学中の場合等を除き、贈与者死亡時における残額の相続財産への加算等の措置が講じられている。
 本問は、上記のような改正等を踏まえ、贈与税と相続税の調整に関する規定についての理解を問う問題であり、実務上、相続税の課税価格に加算すべき贈与財産の価額の有無の確認をし、これらの規定に基づき、相続税の課税価格への加算の検討を行い、その上で適切に相続税を算出することは極めて重要であり、制度の内容の正しい理解が必要であることから、その内容を問う問題である。

問2

 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予制度、いわゆる事業承継税制は、事業承継の円滑化に資するため、事業の発展・継続を通じた雇用確保と地域経済の活力維持を政策目的として、平成21年度税制改正で創設された制度である。平成30年度税制改正においては、中小企業の円滑な世代交代を集中的に促進し、生産性向上に資する観点から、10年間の贈与・相続に適用される時限措置として、抜本的な見直しが行われている。
 この事業承継税制は、贈与税について適用を受ける場合には、将来贈与者が死亡した際に相続税で調整することを前提に、贈与時には贈与税の全額を納税猶予することで、実質的に税負担を求めないこととされており、猶予期間中に事業継続等の要件を満たさなくなった時点において、猶予されていた贈与税額の納付が必要となる。そして、贈与者の死亡時において猶予中の贈与税額は免除され、その納税猶予の適用を現に受けている株式等の贈与時の時価を相続税の課税価格に加算して相続税で精算されるとともに、所要の要件を満たす場合には、その株式等に係る相続税について事業承継税制の適用ができる仕組みとされている。
 したがって、実務上、贈与税について事業承継税制の適用を検討する場合、贈与及び相続を通じた事業承継税制の全体の基本的枠組みを理解した上で、その適用を検討することが重要となることから、本問は、贈与税の事業承継税制の内容の理解に加え、贈与者が死亡した場合における贈与税の事業承継税制の適用を受けた株式に係る贈与税及び相続税の課税関係の理解を問う問題となっている。

【第二問】

 相続税の全体像を理解するためには、民法の相続人、法定相続人の判定や遺言、分割協議に始まり、個別の財産評価、課税価格計算、税額計算に至るまで、相続税法や租税特別措置法に留まらない横断的な理解が必須である。特に、税理士として実務に関わる際には、個別の財産評価について基礎から応用まで、その理解を問われることとなる。また、被相続人の遺産の利用状況等の背景をどれほど理解しているかが、特例適用の判断に大きな影響を与える。相続税に関わる法改正も確実に理解する必要がある。
 以上を踏まえ、本問は、各相続人の納付すべき相続税額を算出させることを通じて、相続税法の総合的な理解度を問う問題であり、その主なポイントは次のとおりである。

  1. (1) 法定相続人と相続人に関する規定を正しく理解していること。
  2. (2) 宅地の評価(評価単位、使用貸借、私道、地積規模の大きな宅地)を理解していること。
  3. (3) 家屋の評価を理解していること。
  4. (4) 配偶者居住権等の評価を理解していること。
  5. (5) 取引相場のない株式の評価を理解していること。
  6. (6) 公開途上にある株式の評価を理解していること。
  7. (7) 貸付金の評価を理解していること。
  8. (8) 小規模宅地等の相続税の課税価格計算の特例の制度を理解していること。
  9. (9) 被相続人の債務控除・葬式費用の控除を理解していること。
  1. (10) みなし相続財産である生命保険金等、生命保険契約に関する権利の取扱いを理解していること。
  2. (11) 相続税額の2割加算の制度を理解していること。
  3. (12) 配偶者に対する相続税額軽減の制度を理解していること。
  4. (13) 未成年者控除の制度を理解していること。