(仮訳)

 第4回OECD税務長官会議(FTA)が、2008年1月10日・11日の2日間にわたりケープタウンにて開催され、45か国・地域の税務執行当局の長官・次席クラスが一堂に会した。本会合では、次の3点に主眼を置いて議論が行われた。

  •  ビジネスにおける国際的潮流及びその税務行政への影響
  •  税務仲介者の役割の調査に係る結論及び勧告
  •  ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals)を達成する上で求められるアフリカ税務当局の税務執行能力強化に対する支援

1 ビジネスにおける国際的潮流

 FTA参加国は、税務当局が重点施策を決定するに当たり、ビジネスの国際的潮流や進展、新たなビジネスモデルに配意する必要性がより一層高まっていることを痛感している。企業の活動がグローバル化し、労働力がかつてないほど国家間を自由に移動するようになっていることから、本会合において、ビジネスにおける重要な国際的潮流につき、企業代表者からその見解を聴取することはFTA参加国にとって時宜を得たものであった。これらの企業代表者は、いくつかの世界的大企業を代表し、こうした国際的潮流が税務当局へ与える影響及び政府と企業の間における税務に関する課題についての見解を披露した。これによりFTA参加国は、彼らが世界レベルで事業を管理する手法と、これらを実践するための重要な原動力について、深い見識を得ることができた。FTA参加国は、こうした対話がFTAの今後の会合において継続的に行われるべきこと及び納税者と税務仲介者がこうした対話に参加することを引き続き促していくことに合意した。

2 ソウル宣言後の進展:相互信頼関係の向上の実現

  1. (1) 2006年のソウル会合で公表された「ソウル宣言」では、貿易・資本の自由化、通信技術の進歩によって、より広範な納税者に世界市場が開放されたことに伴い、各国において税務コンプライアンスの確保がますます困難になっていることが認識された。また、一方では、開放的な経済環境のメリットを指摘しつつも、他方では、納税者が各国の法に基づく納税義務を履行しているかを確認し、かつ濫用的タックスプランニングに歯止めをかけるために税務当局が直面している課題も強調された。こうした背景の下、税務仲介者の役割の調査が開始された。
  2. (2) 本調査プロジェクトは英国関税歳入庁(HMRC)の職員とOECDの事務局(以下「スタディチーム」という。)の主導により、15か月以上にわたり行われた。すべてのFTA参加国が本プロジェクトに関与し、民間との間で広範な協議も行われた。また、こうした作業が進められる過程で、会計事務所、法律事務所及び経済産業諮問委員会(BIAC)などのビジネスグループからも有益な意見や助言が得られた。FTA参加国は、この対話の重要性及び有用性を認識し、こうした対話を更に発展させていくことを確認した。
  3. (3) 本プロジェクトは、当初は濫用的タックスプランニングに対する税務仲介者の役割に主眼を置いていたが、税務当局、納税者及び税務仲介者の三者間の関係に係るより広範な検討へとその焦点を広げてきた。
  4. (4) 本日公表されたスタディチームの報告書は、大規模企業納税者及びこれに税務上の助言を与える者に主眼を置いているが、そこでは、各国の経験は様々であり、報告書の勧告の各国との関連性も様々であることに留意している。本報告書で述べられている主要な結論は以下のとおり。
    1. 1 税務仲介者は、ますます複雑化する環境の下で納税者が納税義務を理解し履行することを助けることで、税務システム全体において重要な役割を果たしている。しかし他方では、濫用的タックスプランニングを組成・販売する税務仲介者も存在する。
    2. 2 税務仲介者の濫用的タックスプランニングへの関与に対し、税務当局は様々な取組(例えば、税務仲介者の登録・規制や濫用的タックスプランニングの事前開示など)によって対応し、その戦略が適切で確固たるものであるか不断に見直している。
    3. 3 濫用的タックスプランニングの提案を顧客に供給するのは税務仲介者であるが、税務上のリスク管理の戦略を立て、税務リスクの引受範囲を決定するのは納税者である。特定のタックスプランニングを採用するかどうかを決めるのは納税者であり、少なくとも本プロジェクトの主な焦点である大規模企業納税者との関係では、濫用的タックスプランニングに対するこうした納税者の需要に影響を与えることができる余地は大きい。
    4. 4 リスク管理は、税務当局がそのリソースを有効活用するために、環境変化へ迅速に対応し、リスクへの対処を確実に優先度の高い分野について行う上で必要不可欠な手段である。
    5. 5 効果的なリスク管理の実現には、最新で(current)、関連があり(relevant)、信頼できる(reliable)情報が必要であり、納税者がその最も総合的な情報源であるのは明らかである。したがって、本報告書は、税務当局と納税者との間で、潜在的な税務問題の早期開示及び透明性を基盤とした関係をいかに築くことができるかについて検討している。
    6. 6 税務当局は、以下の行動原則に従うことにより、納税者及び税務仲介者とより効果的かつ効率的な信頼関係を構築することができる。
      • ・ ビジネス実務の認識(Understanding based on commercial awareness)
      • ・ 公平性(Impartiality)
      • ・ 比例性(Proportionality)
      • ・ 情報の公開(Openness)
      • ・ 誠実な対応(Responsiveness)

       これらは、各国の税務当局にとって必須となる行動原則であり、納税者との関係の基軸となるものである。

    7. 7 税務当局がこれら5つの原則に基づく行動を示すとともに効果的なリスク管理プロセスを備えていれば、大規模企業納税者は、本報告書において「相互信頼関係の向上」とされる、税務当局との間で協力と信頼に基づく関係を築こうとする可能性が高くなるであろう。
    8. 8 相互信頼関係は、納税者のみならず税務当局にも利益をもたらす。透明性をもって行動する納税者は、その税務上の問題についてより一層の確実性及びより早期の解決を得ることができ、また、税務当局による調査項目も少なくなりコンプライアンスコストの低下を期待することもできると本報告書は指摘している。税務当局と税務仲介者との間の相互信頼関係の向上もまた多くの利益をもたらすであろう。
    9. 9 税務当局は、税務仲介者や納税者との関係において、従来型の執行措置との比較で、相互信頼関係の構築がもたらす有用性を継続的に検証すべきである。
  5. (5) 付属資料は、本報告書の勧告の要約である。
  6. (6) しかし、FTA参加国は、濫用的タックスプランニングへの需要が消滅するとは考えておらず、また全ての税務仲介者が濫用的タックスプランニング商品の供給を止めるとも考えていない。更に、税務当局との相互信頼関係の向上を望まない大規模企業納税者もいるかもしれない。税務当局は、このような納税者を特定し、法律上の義務を履行させるために必要となるリソースを配分するため、引き続きリスク管理プロセスを改善していく必要がある。透明性の確保を望まない大規模企業納税者及びその税務アドバイザーは、他の納税者の負担の下で栄えることはできないことを学ばなければならない。
  7. (7) また、銀行、とりわけ投資銀行は、顧客のみならず銀行間や自己勘定での取引のために、濫用的タックスプランニングの開発及び活用について重要な役割を果していることが議論の中で指摘された。しかし、スタディチームは、投資銀行業界の活動につき十分な理解を深めることができず、こうした納税者との間における相互信頼関係の向上による利益を検討することは困難であった。また、個人富裕層も濫用的タックスプランニングに関わるが、スタディチームは、時間の制約上、こうした納税者への最適な対策につき十分な検討ができなかった。これらの分野については、既に行われているOECD租税委員会(CFA)の各作業部会の活動を踏まえつつ、更なる調査が行われるであろう。
  8. (8) この2日間の議論では、税務当局によるリスク管理のより一層の重要性が確認された。また、税務当局と納税者が相互信頼関係の向上の基礎をなす原則に沿って一貫して行動することで得られる利益も確認された。これを踏まえ、FTA参加国は、報告書の示す方向に向けていかに進んでいくかにつき、必要に応じ、それぞれの計画を策定することができる旨が合意された。また、相互信頼関係の向上を含め、報告書の取り上げた課題につき経験を共有していくことも合意された。
  9. (9) また、FTA参加国は、税務仲介者の役割の調査における、英国歳入関税庁(HMRC)のデイブ・ハートネット長官代行及びスタディチームの多大な貢献に対し、感謝の意を表明した。

3 アフリカ税務当局の能力強化

  1. (1) FTA参加国は、本会議に初参加となったアフリカ諸国の税務長官を歓迎するとともに、広範にわたる課題について経験を共有することができた。これを通じ、アフリカ諸国に共通のあるいは特有の問題に係る進捗及びその直面する課題について有益な洞察を得ることができた。
  2. (2) FTA参加国は、アフリカ大陸において、より効果的かつ効率的な税務行政の運営が実現することは、能力と責任のある国・政府を構築する助けとなることを確認した。また、このような税務行政を実施するためには、その組織の機能を効果的に高め、能力強化を支援する協力体制が必要であることを確認した。この点については、より一層の作業が必要であることを自覚し、2008年5月後半に開催される「アフリカにおける課税、ガバナンス及び能力開発(Taxation, Governance and Capability Building in Africa)」に関する会議においてこうした対話を継続していくとの提案を強く支持する。
  3. (3) この会議は、南アフリカ歳入庁が主催し、アフリカ諸国の税務長官と、IMF、OECD、世界銀行、世界税関機構(WCO)及びその他援助機関など税務及びガバナンスに取り組む機関が参加することとなる。当会議では、本日ここで議論された内容を更に詳細に議論し、現在のアフリカ税務当局の能力強化のための取組を最大限に向上させる施策を検討することを想定している。FTA参加国は、5月に開催されるこの会議において、援助機関及びその他有志の資金支援によりアフリカ大陸にタックスセンターを創設することを検討するよう提案する。このセンターでは、全体として、アフリカ大陸での能力強化に係るアプローチに一貫性を確保することに主眼を置くこととなろう。これにより、センターは、関係する国際機関やその他援助機関などと協力し、グッドプラクティスの発展と適用に焦点を置くことが理想となる。また、限られたリソースの投入から最大限の効果が得られることを確保するとともに、シナジー効果を高めるようにしていく。

4 今後に向けて

 FTA参加国は、ソウル宣言で掲げられたその他の課題の現状についても議論を行った。その結論は以下のとおりである。

  • 国際課税の分野における税務職員の研修改善のために立ち上げられたプロジェクトを本年中に完成することを目指す。
  • 租税委員会(CFA)において、濫用的タックスプランニング・スキームのディレクトリーの開発が順調に進んだことを確認し、この重要な作業の継続を奨励した。
  • OECDコーポレートガバナンス原則の税務分野への適用可能性に係る作業の進展を確認するとともに、上場企業の会長・役員との対話を行うことにより企業の税務リスク管理に係るアプローチについて引き続き経験の共有を図ることとする。

 FTA参加国は、OECDのオフショア金融センターに関する取組の進展を歓迎するととともに、この取組がタックスコンプライアンスの改善に係るFTAの作業を補完するものであることを認識した。

 次回の会議では、税務仲介者の役割の調査に係る更なる作業とともに、これらの取組が議論されることとなる。

 更に、FTAにおいては、大規模企業納税者及びその税務アドバイザーとの国際的対話の継続を図ることとする。FTA参加国は、こうした協力を通じ、各国の税務システムが置かれている国際環境につき理解を深め、これに影響を与えることができることを確認した。ソウルにおいて表明された税務当局の共通の懸念に対する大規模企業納税者及びその税務アドバイザーの反応を評価するとともに、彼らもこうした対話から得るものが大きいことを望む。

 FTA参加国は、ビジネスがますます国際的となる中で、各国の税務当局がその国際協力を改善し、経験の共有を増大させることで、税務システムへの国際化の影響につき共通理解を得ることができるものと確信する。FTAの成功は、相互の協力を通じ各国の税務当局がより強力となることを示すものであり、FTA参加国は、その国際協力を引き続き改善していくものとする。

 最後に、FTA参加国は、南アフリカ政府及び南アフリカ歳入庁が第4回OECD税務長官会議(FTA)を主催したこと、並びに米国のマーク・エバーソン前内国歳入庁(IRS)長官及び英国のポール・グレイ前歳入関税庁(HMRC)長官がソウル会合以降FTAにおいてリーダーシップを発揮したことに感謝の意を表した。また、メキシコ国税庁による2009年5月の第5回会議の主催の申し出を歓迎した。本会合への参加国・地域及び参加機関のリストは別添のとおりである。


付属資料T
勧告(スタディチームの報告書抜粋)

 本報告書で指摘したとおり、FTA参加国の中でも、税務当局、納税者及び税務仲介者の三者の関係は様々である。また、この三者の関係は様々な行政上、法律上及び文化上の枠組みにより形造られている。従って、本報告書の勧告についてどのように取り組んでいくかは、各国に委ねられている。以下の勧告については、その点について配慮されたい。

 リスク管理に関して、スタディチームはFTA参加国に以下の事項を勧告する。

  • 税務当局は、濫用的タックスプランニングを含む優先的に取り組むべきコンプライアンスリスクにそのリソースを配分するためのツールとして、リスク管理を活用すること
  • リスク管理に係るOECDの作業を引き続き支援すること
  • 特に本報告書で指摘した点に関し、引き続き税務当局間の連携や情報交換の改善を図ること
  • 税務仲介者リスクに対応するためのそれぞれに応じた措置を講ずること
  • それぞれの国の会計基準設定機関が税務当局のニーズについて確実に認識しているようにすること

 税務当局が納税者のニーズに応えることができるよう、スタディチームは以下の分野における税務当局の能力強化を勧告する。

  • ビジネス実務の認識(understanding based on commercial awareness)
  • 公平性(impartiality)
  • 比例性(proportionality)
  • 情報の公開(openness(disclosure and transparency))
  • 誠実な対応(responsiveness)

 ビジネス実務の認識の改善に際し、スタディチームは、税務当局が、(1)大規模企業納税者及び税務仲介者と協力し、関連事項についての研修を行う機会を持つことを検討すること、及び(2)いかに組織的にビジネス実務の認識を強化していくかを検討することを勧告する。

 情報の公開に関して、スタディチームは以下の事項を勧告する。

  • 税務当局は、リスクが高いと判断される納税者の行動様式・取引形態や、それに対する税務当局の対応を含む、一般的なリスク管理の方法について、透明性を高めることを検討すること
  • コンピュータ化されたリスク分析手法において用いられる計算方式等のような納税者又は事案の調査選定基準などは、公開することにより、納税者の不適切な行動を招きかねないことから、税務当局はそのような情報を公開しないこと
  • 個々の納税者についてのリスク評価の開示の可否及びその開示方法については、各国に委ねること
  • 各国は、納税者等との対話の方法について検討すること

 相互信頼関係の向上に関して、スタディチームは税務当局に対して、大規模企業納税者及び税務アドバイザーとの相互信頼関係が存在できるような、信頼と協力に基づいた納税環境を確立することを勧告する。

 情報開示や透明性の向上を望まない納税者や税務アドバイザーに関して、スタディチームは税務当局に対して以下の事項を勧告する。

  • 入手可能な情報に基づき納税者のリスク評価を行い、それに応じた対応を行うこと
  • 税務当局と互恵的な関係となることを望まない税務アドバイザーに対しては、それに見合った結果があることを明らかにするため、リスクに基づいたアプローチを適用し注意を払うこと

付属資料U
参加国・地域及び参加機関

参加国・地域
アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブラジル、ボツワナ、カナダ、チリ、中国、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ガーナ、香港、ハンガリー、インド、アイルランド、イタリア、日本、韓国、マレーシア、メキシコ、モザンビーク、オランダ、ニュージーランド、ナイジェリア、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ロシア、ルワンダ、セネガル、シンガポール、スロバキア、スロベニア、南アフリカ、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、ウガンダ、英国、米国

参加機関
欧州委員会、欧州税務長官会議(IOTA)、IMF、世界税関機構(WCO)