平成14年2月
国税庁

1 酒類販売の公正な取引環境の整備

(1) 国税庁のこれまでの取組

イ 国税庁においては、平成9年6月の中央酒類審議会の答申「酒販免許制度の在り方について」を踏まえ、酒類業界の公正な競争秩序の確保を図る観点から、平成10年4月に「公正な競争による健全な酒類産業の発展のための指針」(以下「指針」といいます。)を発出し、酒類業界に対してその周知・啓発を図ってきました。
 また、従来から実施している酒類の取引状況等実態調査(以下「取引実態調査」といいます。)については、より充実した調査を実施することとし、指針に示された公正なルールに則しているとは言い難い取引等の改善に向けて指導してきました。

ロ  平成12年8月には、酒類に係る社会的規制等関係省庁等連絡協議会において「未成年者の飲酒防止等対策及び酒類販売の公正な取引環境の整備に関する施策大綱」(以下「施策大綱」といいます。)が決定され、関係省庁における関係施策の充実強化、総合的な取組の徹底を図ることとなり、国税庁としては、次の取組の徹底を図ってきました。

・ 指針による取組を更に徹底・促進し、合理的とは認められない取引の改善に向けて積極的な指導を行う。

・ 平成12年11月に公正取引委員会が策定した「『酒類の流通における不当廉売、差別対価等への対応について』(酒類ガイドライン)」(以下「酒類ガイドライン」といいます。)について、公正取引委員会と連携して、酒類業者に対する説明会を実施し、その周知徹底を図る。

・ 酒類の取引実態調査の調査結果を公表し、改善に向けた業界の取組を促すとともに、調査件数を増加させ、取引の改善を指導した業者に対してはフォローアップ調査を行う。

・ 酒類市場における流通・取引慣行等の問題点について、公正取引委員会との間で、一層の連携強化を図る。

(2) 「酒類ガイドライン」発出後の業界の状況
公正取引委員会から「酒類ガイドライン」が発出され、酒類の流通における不当廉売、差別対価等の規制についての考え方が示されるとともに、メーカー及び卸売業者に対し、リベート等の供与基準の明確化、取引の相手方に対する提示等、取引の適正化のための取組を推進するよう要請されたことを受け、酒類業界では、公正取引の確保に向け、次のような取組を推進してきました。

イ 業界団体等による「基本的な考え方」の発出
 ビール酒造組合(平成12年12月)、日本蒸留酒酒造組合(平成13年2月)、全国卸売酒販組合中央会(平成13年2月)、日本酒造組合中央会(平成13年9月)の各酒類業団体中央会及び明日の業務用酒販業界を考える会(任意団体)(平成13年8月)は、国税庁の「指針」及び公正取引委員会の「酒類ガイドライン」の考え方を踏まえて、「公正な取引のための基本的な考え方」(以下「基本的な考え方」といいます。)を発出し、各団体に属する酒類業者が遵守すべき基本的な考え方を示すとともに、各企業が自社の取引指針(社内基準)を作成し、そのチェック体制を構築することが望ましいとの考え方を示しました。

ロ 全国卸売酒販組合中央会による「ガイドライン遵守推進本部」の設置
 全国卸売酒販組合中央会は、酒類の公正な取引秩序の確保を図る観点から、「指針」及び「酒類ガイドライン」の遵守について周知・啓発を進めるため、平成13年9月に、中央会に「酒類ガイドライン遵守推進本部」を設置するとともに、国税局単位をブロックとする「支部酒類ガイドライン遵守推進本部」を設置しました。

ハ 自主基準の策定等
 酒類業界では、「指針」、「酒類ガイドライン」及び「基本的な考え方」を受け、社内基準の策定、取引先への提示及びその遵守体制の構築に取り組んでいます。

2 取引実態調査の状況等

(1) 実施件数等
 平成12事務年度(平成12年7月から平成13年6月)における取引実態調査は、全国で約19万6千場にのぼる酒類製造場・酒類販売場のうち、取引に問題があると考えられた販売場を中心に調査先を選定し、1,393場(前年985場、対前年比約140%)の調査を実施しました。
 その結果、調査した取引の中のいずれかに、総販売原価を割る価格で販売をするなど「合理的な価格の設定」がなされていないと考えられた取引があった販売場は1,277場(調査実施場数に対する割合91.7%)、また、特定の取引先に対して不透明なリベート類を支払うなど「取引先等の公正な取扱い」が行われていないと考えられた取引があった販売場は189場(調査実施場数に対する割合13.6%)及び「公正な取引条件の設定」がなされていないと考えられた取引があった販売場は30場(調査実施場数に対する割合2.2%)でした(別紙参照)。
 なお、過去に合理的とは認められない取引の改善を指導した者について、その後の改善状況を確認したところ(フォローアップ調査)、1リベートの支払基準の明確化、2仕切価格の見直し、3営業部門の評価を売上重視から利益重視に変更するなどの改善事例が認められましたが、反面、改善が図られていない事例も認められ、そうした者については、改めて指導を行いました。

(2) 調査事例
 指針に示した公正なルールに則しているとは言い難い取引と認められたもののうち、主な事例は次のとおりです。

【合理的な価格の設定をしていないと考えられたもの】

(小売業者)

1 A社は、主力商品であるビール及び発泡酒を、利益を度外視して常態的に総販売原価割れの価格で販売しており、さらに、特売期間中の販売価格について、仕入原価等にかかわらず、同一商圏内のライバル他社のチラシ価格と対抗して設定しているため、発泡酒の一部については仕入原価割れとなり、合理的な価格の設定をしていないと認められた。

(卸売業者)

2 A社は、メーカーからの月間達成謝礼を見込んで小売店に対するリベート金額を設定していたが、月間達成の計画の見込み違いから目標が達成できず、メーカーから月間達成謝礼金を受けることができなかったことから、仕入原価割れとなり、合理的な価格の設定をしていないと認められた。

3 A社は、B社(大手量販店)とのビール及び発泡酒の取引価格を、仕入価格からさらに一定割合を乗じた金額を値引きした金額で設定しているため、常態的に仕入原価割れとなり、合理的な価格の設定をしていないと認められた。

(製造業者)

4 A社では、社内基準でリベートの上限額が定められているにもかかわらず、一部の取引先に対して、その上限額に、さらに同額のスポットリベートを上乗せして支出したため、一部の商品について製造原価割れとなり、合理的な価格の設定をしていないと認められた。

【取引先等の公正な取扱いが行われていないと考えられたもの】

(卸売業者)

1 A社は、値引きに関して合理的な基準を持たず、取引先の要求に応じて値引き額を決定しているが、合理的な理由がないのに、特定の取引先に対してだけは、実質販売価格が生産者価格と同額になるように値引き額を決定しており、取引先の公正な取扱いが行われていないと認められた。

2 A社は、B社(大手量販店)との間だけに売上金額に一定割合を乗じた金額を割り戻す契約を締結し、他の同規模の取引先と比べて有利な取扱いをしており、取引先の公正な取扱いが行われていないと認められた。

3 A社は、リベートについての明確な社内基準がなく、主に競合卸との競争関係で取引条件を設定しているが、得意先との売上割戻しの設定について、取引高の少ない取引先に対して、合理的な理由がないのに、取引高の多い取引先よりも多額のリベートを設定している場合があり、取引先の公正な取扱いが行われていないと認められた。

(製造業者)

4 A社の社内基準では、缶ビールの販売謝礼金は、年間売上高が前年実績を上回った場合にだけ支給することができることとされているが、特定の取引先に対しては年間売上高が前年割れしているにも関わらず販売謝礼金を支払っている一方で、他の年間売上高が前年割れしている取引先に対しては支払っていないなど、取引先の公正な取扱いが行われていないと認められた。

5 A社は、取引先であるB社との間で、A社の社内基準に基づき決定されたリベート単価により販売謝礼金に関する覚書を締結しているが、実際には覚書に関わらず、上位ランクの単価を適用して販売謝礼金を支払っており、取引先の公正な取扱いが行われていないと認められた。

【公正な取引条件の設定がされていないと考えられたもの】

(卸売業者)

1 A社の取引先であるB社(量販店)は、仕入代金の決済に際して、事前の取り決めもなく、一方的に毎月の請求額から一定の率を控除した額を支払っており、公正な取引条件の設定がなされていないと認められた。

2 A社は、取引先であるB社(量販店)から、同社が実施した会社設立○周年記念キャンペーン期間中における全商品を対象として、納品額に一定割合を乗じた額の協賛金を支払うよう、一方的な要請を受けたが、今後の取引の継続を考慮して、やむを得ず支払っており、公正な取引条件の設定がなされていないと認められた。

(製造業者)

3 A社は、Bコンビニエンスストア・チェーンの推奨ベンダーである複数の取引先が、同チェーン本部から新規納入商品に係る「新規商品登録料」等の名目による費用負担を一方的に求められ品代から相殺されることとなったことから、各取引先の要請を受けて、負担相当額のリベートを各社に支払うこととしたが、この支出について、公正な取引条件の設定がなされていないと認められた。

4 A社甲支社では、本社の基準を超える支社独自のリベート支払基準を策定していたが、特定の取引先B社に対しては、再三の要請を受けて、その基準をも上回る特別の値引きを行っており、公正な取引条件の設定がなされていないと認められた。

【透明かつ合理的なリベート類の提供が行われていないと考えられたもの】

(製造業者)

1 A社は、競合他社との熾烈な競争の中で、ホテル等の飲食店との自社商品取扱いに係る新規取引契約又は継続契約を獲得するため、利益が回収できるまでに6年から10年といった長期間を要するほどの高額の販売謝礼金や協賛金の支出、什器等の現物供与を行うなど、採算を度外視した過度の経済的負担を行っており、透明かつ合理的なリベート類の提供が行われていないと認められた。

2 A社がコンビニエンスストア・チェーン本部B社に支出したキャンペーン協賛金は、取引数量に応じたものではなく、かつ、数度に渡って内容を変えて順次実施される予定のキャンペーンの実施完了を待たずに全額支出しており、透明かつ合理的なリベート類の提供が行われていないと認められた。

3 A社が特約店B社を通じて量販店に支払ったチラシ協賛金は、チラシの印刷枚数とは関係なく、取引数量に一定割合を乗じた金額を支出しており、透明かつ合理的なリベート類の提供が行われていないと認められた。

4 A社が得意先であるB社(業務用酒販店)に対して支払った年間契約謝礼金は、容器別販売実績に係る情報提供料の名目で支払われているが、算出根拠が無く、かつ、当該情報にかかる具体的な資料の保存も無いことから、以前から支払われていたリベートの一部を情報提供料の名目で支出しているものと考えられ、透明かつ合理的なリベート類の提供が行われていないと認められた。

5 A社は、自社の売上予算を達成するため、特定の特約店に対してだけ、その取引先(小売業者)に納入する際に発生する運賃、金利及び倉庫保管料を負担しており、透明かつ合理的なリベート類の提供が行われていないと認められた。

6 A社は、自社の売上予算を達成するため、特定の特約店に対してだけ、月末に積み込みを依頼した商品に対する商品保管料等を負担しており、透明かつ合理的なリベート類の提供が行われていないと認められた。

3 今後の取組方針等

 前述のとおり、現在、酒類業各社は、社内基準の策定、取引先への提示及びその遵守体制の構築に取り組むなど、酒類の公正な取引の確保に向けて、酒類業界全体として取り組んでいるところです。
 国税庁としては、今後も公正取引委員会と連携をとりつつ、次のような施策の実施を通じて、酒類販売の公正な取引環境の整備に努めることとしています。

(1) 引き続き、「指針」及び「酒類ガイドライン」を周知・啓発します。

(2) 自社基準の策定、取引先への提示及びチェック体制の構築について周知・啓発します。

(3) 取引実態調査及びフォローアップ調査については、その内容の充実を図っていきます。