「清酒の製法品質表示基準」が制定された平成元年当時、清酒については、酒造技術の発達や消費の多様化に伴い、吟醸酒、純米酒、本醸造酒といった製法や品質の異なるさまざまなタイプの清酒が酒屋さんの店頭で見られるようになりましたが、それらの表示には法的なルールがなかったため、消費者の方からどのような品質のものかよく分からないという声が高まっていました。
 そこで中央酒類審議会(現:国税審議会)の答申を受け、平成元年11月に「清酒の製法品質表示基準」(国税庁告示第8号)が定められ、平成2年4月から適用されています。この表示基準では、1吟醸酒、純米酒、本醸造酒といった特定名称を表示する場合の基準を定めるとともに、すべての清酒について、2清酒の容器等に表示しなければならない事項の基準、3清酒の容器等に任意に表示できる事項の基準、4清酒の容器等に表示してはならない事項の基準、が定められ、消費者の方の商品選択の大きなよりどころとなっています。

(主な改正の経緯)
1 清酒の製法品質表示基準の一部を改正する件(平成15年国税庁告示第10号)の概要
 「清酒の製法品質表示基準」が定められてから、既に14年が経過しており、この間、醸造設備の開発、製造技術の進歩等により、例えば、純米酒の製法品質の要件である精米歩合70%以下の要件に該当しない白米、米こうじ及び水を原料として製造した清酒(いわゆる「米だけの酒」)であっても、純米酒の品質に匹敵するものが製造できるようになりました。
 このため、市場においては、いずれも米、米こうじ及び水を原料とした「純米酒」と「米だけの酒」が並存することとなり、その内容の違いが消費者の方にとって分かりにくい状況となっており、また、製造者においても、その特徴について客観的な説明をすることが困難な状況となっていること等から消費者の方の商品選択を保護し、消費者利益に資する観点から、国税審議会の答申を受け、平成15年10月31日にこの表示基準の一部を改正し、平成16年1月1日に施行しました。主な改正点は次のとおりです。

(1) 特定名称の清酒の製法品質の要件
1 純米酒の製法品質の要件から「精米歩合70%以下」を削除しました。
2 特定名称の清酒の製法品質の要件に「こうじ米の使用割合15%以上」を追加しました。

(2) 精米歩合の表示
 特定名称を表示する清酒について、原材料名の表示と近接する場所に精米歩合を表示することを義務付けました。

(3) 表示禁止事項
 特定名称酒以外の清酒の容器又は包装には、「特定名称に類似する用語」を表示してはならないこととされました。
 ただし、この用語の表示の近接する場所に、原則として8ポイントの活字以上の大きさで、特定名称の清酒に該当しないことが明確に分かる説明表示がされている場合には、「特定名称に類似する用語」が表示できることとされています。

2 清酒の製法品質表示基準の一部を改正する件(令和4年国税庁告示第30号)の概要
 国内外の消費者にとっての分かりやすさや日本産酒類のブランド価値向上を図る観点から、令和4年7月19日に「清酒の製法品質表示基準」及び「酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達」の一部を改正し、令和5年1月1日に施行しました。主な改正内容は次のとおりです。

(1) 製造時期表示
製造時期の表示を必要記載事項から任意記載事項に変更しました。

(2) 受賞の記述の表示
受賞の記述に関する任意記載事項の規定を廃止した上で、「品評会等で受賞したものであるかのように誤認させる用語」及び「官公庁が推奨しているかのように誤認させる用語」を表示禁止事項に追加しました。

(3) 複合表示
「生原酒」、「生貯蔵原酒」などの表示が可能となります。

表示基準の概要

※ 平成15年以降の改正も反映させています。

1 特定名称の清酒の表示
 特定名称の清酒とは、吟醸酒、純米酒、本醸造酒をいい、それぞれ所定の要件に該当するものにその名称を表示することができます。
 なお、特定名称は、原料、製造方法等の違いによって8種類に分類されます。

特定名称 使用原料 精米歩合 こうじ米
使用割合
(新設)
香味等の要件
吟醸酒(ぎんじょうしゅ) 米、米こうじ、 醸造アルコール 60%以下 15%以上 吟醸造り、固有の香味、色沢が良好
大吟醸酒(だいぎんじょうしゅ) 米、米こうじ、 醸造アルコール 50%以下 15%以上 吟醸造り、固有の香味、色沢が特に良好
純米酒(じゅんまいしゅ) 米、米こうじ 15%以上 香味、色沢が良好
純米吟醸酒(じゅんまいぎんじょうしゅ) 米、米こうじ 60%以下 15%以上 吟醸造り、固有の香味、色沢が良好
純米大吟醸酒(じゅんまいだいぎんじょうしゅ) 米、米こうじ 50%以下 15%以上 吟醸造り、固有の香味、色沢が特に良好
特別純米酒(とくべつじゅんまいしゅ) 米、米こうじ 60%以下又は特別な製造方法(要説明表示) 15%以上 香味、色沢が特に良好
本醸造酒(ほんじょうぞうしゅ) 米、米こうじ、 醸造アルコール 70%以下 15%以上 香味、色沢が良好
特別本醸造酒(とくべつほんじょうぞうしゅ) 米、米こうじ、 醸造アルコール 60%以下又は特別な製造方法(要説明表示) 15%以上 香味、色沢が特に良好

精米歩合とは

 精米歩合とは、白米のその玄米に対する重量の割合をいいます。精米歩合60%というときには、玄米の表層部を40%削り取ることをいいます。
 米の胚芽や表層部には、たんぱく質、脂肪、灰分、ビタミンなどが多く含まれ、これらの成分は、清酒の製造に必要な成分ですが、多過ぎると清酒の香りや味を悪くしますので、米を清酒の原料として使うときは、精米によってこれらの成分を少なくした白米を使います。ちなみに、一般家庭で食べている米は、精米歩合92%程度の白米(玄米の表層部を8%程度削り取る。)ですが、清酒の原料とする米は、精米歩合75%以下の白米が多く用いられています。特に、特定名称の清酒に使用する白米は、農産物検査法によって、3等以上に格付けされた玄米又はこれに相当する玄米を精米したものに限られています。

こうじ米とは

 こうじ米とは、米こうじ(白米にこうじ菌を繁殖させたもので、白米のでん粉を糖化させることができるもの)の製造に使用する白米をいいます。
 なお、特定名称の清酒は、こうじ米の使用割合(白米の重量に対するこうじ米の重量の割合をいいます。)が、15%以上のものに限られています。

醸造アルコールとは

 醸造アルコールとは、でん粉質物や含糖質物から醸造されたアルコールをいいます。
 もろみにアルコールを適量添加すると、香りが高く、「スッキリした味」となります。さらに、アルコールの添加には、清酒の香味を劣化させる乳酸菌(火落菌)の増殖を防止するという効果もあります。
 吟醸酒や本醸造酒に使用できる醸造アルコールの量は、白米の重量の10%以下に制限されています。

吟醸造りとは

 吟醸造りとは、吟味して醸造することをいい、伝統的に、よりよく精米した白米を低温でゆっくり発酵させ、かすの割合を高くして、特有な芳香(吟香)を有するように醸造することをいいます。
 吟醸酒は、吟醸造り専用の優良酵母、原料米の処理、発酵の管理から瓶詰・出荷に至るまでの高度に完成された吟醸造り技術の開発普及により商品化が可能となったものです。

2 必要記載事項の表示
 清酒には、次の事項を、原則として8ポイントの活字以上の大きさの日本文字で表示することになっています。

(1) 原材料名
 なお、特定名称を表示する清酒については、原材料名の表示の近接する場所に精米歩合を併せて表示します。
 例えば、本醸造酒であれば次のように記載します。
 原材料名 米、米こうじ、醸造アルコール
 精米歩合 68%

(2) 保存又は飲用上の注意事項
 生酒のように製成後一切加熱処理をしないで出荷する清酒には、保存又は飲用上の注意事項を記載します。
(参考)
 生酒、生貯蔵酒以外の清酒は、通常、製成後、貯蔵する前と出荷する前の2回加熱処理をしています。

(3) 原産国名
 輸入品の場合に記載します。

(4) 外国産清酒を使用したものの表示
  なお、使用割合については、10%の幅をもって記載してもよいことになっています。

以上のほか、次の事項も必ず表示するよう清酒製造者に表示義務が課されています。   

○ 製造者の氏名又は名称

○ 製造場の所在地(記号で表示してもよいことになっています。)

○ 内容量

○ 清酒(原料の米に国内産米のみを使い、かつ、日本国内で製造された清酒に限り「日本酒」と表示してもよいことになっています。)

○ アルコール分

3 任意記載事項の表示
 次に掲げる事項は、それぞれの要件に該当する場合に表示することができます。

(1) 原料米の品種名
 表示しようとする原料米の使用割合が50%を超えている場合に、使用割合と併せて、例えば、山田錦100%と表示できます。

(2) 清酒の産地名
 その清酒の全部がその産地で醸造されたものである場合に表示できます。したがって、産地が異なるものをブレンドした清酒には産地名を表示できません。

(3) 貯蔵年数
 1年以上貯蔵した清酒に、1年未満の端数を切り捨てた年数を表示できます。

(4) 原酒
 製成後、水を加えてアルコール分などを調整しない清酒に表示できます。
 なお、仕込みごとに若干異なるアルコール分を調整するため、アルコール分1%未満の範囲内で加水調整することは、差し支えないことになっています。

(5) 生酒
 製成後、一切加熱処理をしない清酒に表示できます。

(6) 生貯蔵酒
 製成後、加熱処理をしないで貯蔵し、出荷の際に加熱処理した清酒に表示できます。

(7) 生一本
 ひとつの製造場だけで醸造した純米酒に表示できます。

(8) 樽酒
 木製の樽で貯蔵し、木香の付いた清酒に表示できます。
 なお、販売する時点で、木製の容器に収容されているかは問いません。

(9) 「極上」、「優良」、「高級」等品質が優れている印象を与える用語
 自社に同一の種別又は銘柄の清酒が複数ある場合に、品質が優れているものに表示できます(使用原材料等から客観的に説明できる場合に限ります。)。
 なお、これらの用語は、自社の清酒のランク付けとして使用できるもので、他社の清酒と比較するために使用することはできません。

(10) 製造時期の表示
 清酒を販売する目的をもって容器に充塡し密封した時期を、製造時期であることを示す文字の後に表示するものとする。
 なお、保税地域から引き取る清酒で製造時期が不明なものにあっては、製造時期に代えて輸入年月を輸入年月であることを示す文字の後に表示するものとする。

4 表示禁止事項
 次に掲げる事項は、これを清酒の容器又は包装に表示してはいけません。

(1) 清酒の製法、品質等が業界において「最高」、「第一」、「代表」等最上級を意味する用語

(2) 品評会等で受賞したものであるかのように誤認させる用語及び官公庁が推奨しているかのように誤認させる用語

(3) 特定名称酒以外の清酒について特定名称に類似する用語
 ただし、特定名称に類似する用語の表示の近接する場所に、原則として8ポイントの活字以上の大きさで、特定名称の清酒に該当しないことが明確に分かる説明表示がされている場合には、表示することとして差し支えありません。
 なお、この説明表示は、消費者の商品選択に資するために設けられたものですので、8ポイントの活字以上の大きさで表示してあればそれでよいということではなく、特定名称に類似する用語の表示とバランスのとれた大きさの文字とするなど、消費者の方が特定名称の清酒に該当しないと明確に分かる大きさの文字とする必要があります。
 例えば、純米酒の製法品質の要件に該当しない清酒に、純米酒に類似する用語(例:「米だけの酒」)を表示する場合には、次のように純米酒に該当しないことが明確に分かる説明表示をしなければなりません。

 純米酒に該当しない清酒の表示例


「清酒の製法品質表示基準」について