1 酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項

(1)酒類の特性について

イ 社会的評価

「日本酒」は、米、米こうじ及び水を主な原料として発酵させて、こしたものであり、その原料及び製法は、「清酒」として酒税法(昭和28年法律第6号)により規定されている。「清酒」のうち、米及び米こうじに国内産米を用い、日本国内で製造したものを「日本酒」と呼称している。
 「日本酒」は、貴重な米から製造される特別な飲料として、冠婚葬祭や年中行事の際に飲まれる習慣があり、日本における伝統的な酒類として国民生活・文化に深く根付いている。
 日本では、焼酎、ビール、果実酒又はスピリッツなど様々な酒類が販売されているが、「清酒」の消費数量はビール等の発泡性低アルコール酒類に次ぐ消費量となっており、「清酒」の消費量のほぼ全てが「日本酒」となっている。
 「日本酒」の呼称は、江戸時代にオランダに「Japansch-Zaky(日本酒)」として輸出されていた記録があるが、少なくとも明治時代以降の文献で多く用いられていることから、明治時代以降の近代化とともに日本国民に定着することにより、「日本酒」の呼称が確立してきたものと考えられる。

ロ 品質

(イ) 官能的要素

アルコール分22度未満で、一般的に無色から黄色、長期間熟成させたものでは琥珀色を有している。また、同じ醸造酒であるビールやワインに比べ、旨味成分であるアミノ酸やペプチドを多く含み、おだやかな酸味と甘味を有している。香りは、吟醸香と呼ばれる果実様の香り、こうじの香り、カラメル様の香りの他、木製の桶や樽に入れられたものには木の香りを有しているなどの多様性がある。

(ロ) 微生物学的要素

A コウジカビ
 米の糖化に、Aspergillus属のコウジカビを用いて製造する「米こうじ」を使用する製法は「日本酒」製造に特有のものであり、現在の精米した米に種こうじをまいて米こうじを製造する手法は室町時代から江戸時代にかけて確立したと考えられている。コウジカビの種類によって、糖化力やアミノ酸生産力が異なることから、使用するコウジカビの種類によっても「日本酒」の品質は影響を受ける。

B 酵母
 アルコール発酵に必要な酵母については、「日本酒」製造に適したものとして選抜された酵母が明治時代以降一般的に使用されており、「日本酒」製造のために選抜された酵母は、アルコール発酵力が一般的な酵母よりも高いことが証明されている。
 酵母の種類によって、香気成分や味成分の生産力が異なることから、使用する酵母の種類によって「日本酒」の品質は影響を受ける。

C コウジカビと酵母の相互効果
 清酒のもろみにおいて、米こうじの酵素による米の糖化とアルコール発酵を並行して行う製法、またアルコール発酵能の高い酵母を使用することにより、「日本酒」は醸造酒としては稀な高アルコール度数を有することができる。

(2)酒類の特性が酒類の産地に主として帰せられることについて

イ 自然的要因
 日本列島は、亜寒帯から亜熱帯に属し、四季が明確に分かれている。「日本酒」は、秋に収穫された米を用いて、気温が低く雑菌が増殖しにくい冬に製造し、春から夏にかけて貯蔵・熟成させ出荷するなど、この明確な四季と結びつき発展してきた酒類である。
 また、日本は降水量が多いため飲用に適する水が豊富である。米と清浄な水が全国で得られることから、ほぼ全ての都道府県で「日本酒」が生産されている。

ロ 人的要因
 「日本酒」の製造は稲作の発展と深い関わりを持っている。稲作は、温暖な地域で行うことが適しているが、日本では寒冷な地域でも稲作が行われるようになり、米の耐寒性や収量の向上などの品種改良がなされてきた。更に、明治時代以降は、各地において当地の気候を踏まえつつ「日本酒」造りに適した性質をもつ「酒造好適米」が育種されるようになり、昭和11年には現在においても高い評価を受けている「山田錦」が育種された。現在もなお、各地において新たな「酒造好適米」が育種・栽培されている。

 また、日本は、貨幣経済が定着するまで、「米」を経済基盤としており、通貨同様の価値を有する「米」を原料として用いる「日本酒」の製造は、国の管理下に置かれてきた。江戸時代になると、産業としての「日本酒」造りがますます盛んになり、「日本酒」を製造する特別な免許を有する者は、農閑期の農民たちを定期的に雇用し「日本酒」の製造を行った。この農民たちが次第に職人化し、更に製造の職人集団として集団を束ねる「杜氏」を頂点とした組織化が図られ「杜氏制度」が確立した。「杜氏」は、清酒製造場において「日本酒」造りの全権を委任されて従業員を統率するだけでなく、技術伝承も行う。この制度により、「日本酒」の製造方法等が伝承されてきたといえる。

 「日本酒」は製法が複雑であるため「腐造」という製造の失敗も頻繁に生じていた。「米」という高価な原料を用いており、「腐造」により経済的に困窮する者もいたことから、明治時代になると、大蔵省に醸造試験所(現在の独立行政法人酒類総合研究所)が創設(1904年)され、「腐造」防止のための酒造りの科学的解明や、新しい醸造技術の開発を行うようになった。醸造試験所の功績により、現在では、「腐造」はめったに見られなくなった。また、醸造試験所や国税庁、地方公設試験研究機関等による研究成果の普及や技術指導・講習の実施、技術力向上のための鑑評会の開催等によって、「日本酒」の製造方法等が洗練されつつ、承継されてきた。

 このような何世紀にもわたる技術向上の努力を反映させたものとして、現在の「日本酒」の製法が確立している。

2 酒類の原料及び製法に関する事項

地理的表示「日本酒」を使用するためには、次の事項を満たしている必要がある。

(1)原料

酒税法第3条第7号に規定する「清酒」の原料を用いたものであること。
 ただし、米及び米こうじに国内産米のみを用いたものであること。

(2) 製法

酒税法第3条第7号に規定する「清酒」の製造方法により、日本国内において製造されたものであること。

3 酒類の特性を維持するための管理に関する事項

「日本酒」は、原料・製法等が酒税法により明瞭であり、その製造に当たっては、原料の使用実績や製造工程について同法により記帳義務が課されている。また、品質維持の観点から、国税庁による製造方法の承認がなされている。
 さらに、原料である米については、米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律(平成21年法律第26号)により、取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達が米の生産者から「日本酒」の製造者まで義務付けられているため、国内産米を用いていることが明瞭に確認できる。
 これらの遵守状況については、国税庁が検査可能な体制となっており、地理的表示としての酒類の特性を維持するために十分な管理が行われているといえる。

4 酒類の品目に関する事項

清酒