清酒

令和7年10月1日指定

1 酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項

(1)酒類の特性について

 鳥取の清酒は、総じて口当たりの柔らかく、ふくよかな米の旨味を余すことなく引き出した酒である。
 また、蔵元が麹の使用割合を高くし、小ロットでの丁寧な純米酒に特化した方法で古くから醸造しており、キレがありながら米の旨味をしっかり感じられることを特徴としている。
 さらに、酸味があり様々な温度帯で表情が変わり、燗にすることで旨さが際立つ、いわゆる燗上がりする酒も多い。
 米の旨味とキレの良さが相まって飲み飽きしないことから、松葉ガニのような豊富な旨味を有する料理と相性が良く、海産物をはじめとする料理を邪魔することなく引き立たせ、口の中で完成(口中調味)させる食中酒である。

(2)酒類の特性が酒類の産地に主として帰せられることについて

イ 自然的要因
 鳥取県は、北は日本海、南には秀峰・大山を擁する中国山地が東西約100km連なる北の海と南の山に挟まれた細長い地勢のため、急峻な山々に源を発する河川は流路が短く流域面積も狭小である。冬季にはシベリアからの寒冷で乾燥した季節風が対馬暖流の温かい海水から水分を取り込み、中国山地を上昇する際に雲を発生させて雨や雪をもたらすため、年間を通じて降水量の多い日本海型の気候が特徴である。
 こうした地形と気候のもと、ブナやミズナラなどの森を含む大地に降り注いだ雨や雪は、過去の火山活動に伴い噴出・堆積した鉱物が風化した地層でろ過されるが、水が地層に滞留する時間が短いため、軟らかく清らかな伏流水や地下水を形成している。このように適度にミネラルを含んだ軟水を仕込み水として使用することで、鳥取の酒に口当たりの柔らかさをもたらしている。
 また、冬季は日照時間が少ないため日中の気温は低いが、雲に覆われることから夜間の冷え込みは厳しくないことから日較差が小さく、もろみの発酵管理を容易にする。さらに北西からの季節風が日本海をわたる間に水分を補給されることから湿潤な環境となり、米の浸漬や酒の上槽など、酒造工程の安定化に寄与している。

ロ 人的要因
 鳥取県での清酒の始まりは、寛永5年(1628年)播州高砂出身の高砂屋六兵衛によるとされている。
 高砂屋は、もともと播州高砂で酒造業を営んでいたが、姫路藩主池田光政の鳥取への国替えに随従して鳥取城下に移り住んで現在の清酒の製造方法に近い「澄酒」製法による酒造業を始め、のちに鳥取藩主から清酒の製法を藩内の全蔵へ伝授するよう命じられたことにより、寛永年中(1628年〜1644年)には広く造られるようになった。
 戦後の酒造業界においては、経済の不景気と米不足から、アルコール添加や三倍増醸法の製造技術が広く用いられており、地方の中小の酒造場においては、昭和30年代には大手メーカーへの未納税取引(桶売り)が急増した。そうした中で、鳥取県では、未納税取引の継続が県内酒造業の健全な成長を阻害しかねないと懸念した故上原浩氏(元広島国税局鑑定官で鳥取県産業技術センター酒類科長)を中心として、水と米で造るという清酒の原点に立ち返り、地酒ならではの特色のある酒造りの開発が始まった。
 上原氏は、純米酒こそ「誤魔化しの利かない酒」であり、つくり手も原料処理や麹づくりに真面目に取り組むことで全体的な質の向上が図られると考え、鳥取県内の酒造業者に純米酒の製造を提案した。その考えに賛同した酒造業者が、昭和42年(1967年)に鳥取県内では戦後初となる高精白と低温発酵技法による純米酒の製造に着手した。できあがった酒の評判を伝え聞いた酒造業者による純米酒づくりの輪が少しずつ広まり、昭和50年代の終わりごろには、ほとんどの酒蔵で純米酒が造られるようになった。
 これには、「一に蒸米(むし)、二に蒸米(むし)、三に蒸米(むし)」と、良い蒸米づくりの重要性を説き、「酒は純米、燗ならなお良し」と、しっかりしたつくりの純米酒は燗にすると旨味とまろやかさが増し、どんな料理にも合いやすくなると説いた上原氏の指導が大きく影響しており、鳥取県の純米酒は県内外の市場で高く評価されていたといわれている。
 上原氏は、純米酒の開発に留まらず、競い合う場があってこそ酒造技術の向上が図られるとの信念のもと、酒造技術の革新と品質向上を推進するため、鳥取県酒造組合連合会主催による鳥取県清酒品評会を企画・開催するなど酒造業の発展に大いに貢献された。また、個々の酒蔵が農家との契約栽培で良質な米を確保すること、米質に見合った原料処理をすることこそが優良酒造りの基本であると力説された。
 鳥取県では、酒造好適米として「強力(ごうりき)」が栽培されている。強力は、人工交配されていない在来品種であり、大粒で吟醸酒造りに適した線状心白を有した特徴的な酒米である。大正10年(1921年)から昭和20年(1945年)までは鳥取県の奨励品種であったが、稲の穂丈が高く倒れやすいことから栽培が難しく一時姿を消していた。
 平成元年(1989年)、県内の清酒製造業者の働きかけにより鳥取大学で保存されていたわずかな種もみから復活が図られ、鳥取県農業試験場等との産官学の協力により栽培が再開され、現在では、鳥取県固有の酒米として多くの酒蔵で使用されている。強力で醸した酒は長期熟成とともにアミノ酸が組成され、より米の旨味を感じられることに特徴があり、鳥取県の純米酒に個性を与えている。
 上原氏の純米酒にこだわった酒造りへの考え方は現在も引き継がれており、多くの酒蔵が米作りから始まる酒造りにこだわりを持ち、ほぼ全蔵で麹米の使用割合が20%を超えるとともに、酒米の蒸しには甑(こしき)を使用し、こうじ造りでは「盛り」以降の工程を小ロット(箱または小蓋)で行うなど手仕事による酒造りを実践している。
 これらの時間と労力をかけた伝統的かつ丁寧な方法により純米酒が製造され、かつ、純米酒の生産比率が高いことから「純米酒王国・鳥取県」と称されている。

2 酒類の原料及び製法に関する事項

(1)原料

イ 米及び米こうじに、鳥取県内で収穫した米(農産物検査法(昭和26年法律第144号)により3等以上に格付けされたもの)のみを用いたものであること。

ロ 水に鳥取県内で採水した水のみを用いたものであること。

ハ 酒税法(昭和28年法律第6号)第3条第7号イに規定する「清酒」の原料を用いたものであること。

(2)製法

イ 酒税法第3条第7号イに規定する清酒の製造方法により、鳥取県内で製造したものであること。

ロ 清酒の製法品質表示基準(平成元年11月国税庁告示第8号)第1項の表の右欄に掲げる製法品質の要件に該当する「純米酒」であること。

ハ 酒米の蒸しには、甑を使用すること。

ニ 米こうじは、「盛り」以降の工程は一つの容器に対して40kg以下のロットで造ること。

ホ こうじ米の使用割合(白米の重量に対するこうじ米の重量の割合)が20%以上であること。

ヘ 酒造工程上、貯蔵する場合は鳥取県内で行うこと。

ト 消費者に引き渡すことを予定した容器に鳥取県内で詰めること。

3 酒類の特性を維持するための管理に関する事項

 地理的表示「鳥取」を使用するためには、当該使用する酒類を酒類の製造場(酒税法第28条第6項又は第28条の3第4項の規定により酒類の製造免許を受けた製造場とみなされた場所を含む。)から移出(酒税法第28条第1項の規定の適用を受けるものを除く。)するまでに、当該使用する酒類が「1 酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項」及び「2 酒類の原料及び製法に関する事項」を満たしていることについて、次の団体(以下「管理機関」という。)により、当該管理機関が作成する業務実施要領に基づく確認を受ける必要がある。

管理機関の名称:鳥取県酒造協同組合
     住所:鳥取県鳥取市青谷町大坪249
   電話番号:0857-85-0730

4 酒類の品目に関する事項

清酒