京都の酒は総じて、口に含めば、調和のとれた丸みのある柔らかな口当たりが感じられるとともに、適度なうまみと甘みにより、ふくらみのある味わいやそれに寄り添う品のある香りが口中に広がるという特性を持つ。
京都の酒は、料理の邪魔をせずお互いを引き立て合う酒である。
イ 自然的要因
京都府は日本列島のほぼ中央に位置し、南北に細長い地形を有している。府中央部を東西に脊梁山脈が走り、丹波高原を形成している。この稜線を境に、日本海側に注ぐ由良川水系と、太平洋側に注ぐ淀川水系とに水系が大別され、府内各地へ豊かな水源をもたらしている。地層は主に花崗岩より形成され、この地層を通った水は、京都の酒類の特性を引き出す軟水から中程度の硬水となる。
また、冬季の気候については、北部地域は、対馬海流の影響で冬の積雪が多いほか、南部地域の京都盆地では盆地特有の「底冷え」となるため、概して厳しい寒さとなる。
良質かつ豊富な水資源と寒冷な気候は、もろみの発酵を穏やかに進め、柔らかな口当たりが感じられるとともに、適度なうまみと甘みによる、ふくらみのある味わいを持つ酒質の形成に寄与する。
ロ 人的要因
京都における酒造りの歴史は極めて古く、平安時代には、宮中に酒造りを司る役所「酒造司(みきのつかさ)」が設置され、酒の醸造、保管、管理が行われていた。平安時代の法典「延喜式(えんぎしき)」には、宮中では酒部と呼ばれる酒の専門家たちによって13種の酒が造り分けられ、大半は天皇・朝廷の酒であったと記録されている。
京都は食文化に係る歴史も同様に古く、平安時代の貴族の宴席文化に端を発し、時代の変遷とともに大饗(だいきょう)、精進、本膳、懐石、お番菜といった多様な料理体系を展開しながら、だしを基本とする京料理を作り上げた。京料理は素材を生かした繊細な味わいを特徴としており、酒造りにおいても、品のある香りと柔らかな口当たりでふくらみのある酒質が求められ、お互いを引き立て合う酒質へと発展してきた。
また、12世紀頃には、もろみに蒸米・麹・水を重ねて加える「とう」と呼ばれる技法を確立し、現在の「三段仕込み」の礎を築いたほか、江戸時代の杜氏制度発足以降には、丹後杜氏、丹波杜氏、但馬杜氏及び越前杜氏など様々な流派による酒造りを積極的に取り入れることで、各流派が切磋琢磨しながら、技術力を研鑽してきた。その技術力は当時より大変重宝されており、「丹後宿」などの雇用斡旋所が設けられたほどであった。
明治時代には、安全性を危惧されていた防腐剤(サリチル酸)の使用に代えて、ガラス瓶を加熱殺菌して密封する製法を開発し、全国初の「防腐剤無添加の清酒」を発売した。この技術は全国に普及し、優れた品質と安全性を備えた酒造りを可能にするなど、清酒業界全体に革新をもたらした。昭和戦後期には、全国的な需要増大とともに、杜氏・蔵人の人材不足が深刻化する中、社員による通年製造を可能とする四季醸造技術が開発されると、その技術を全国に先駆けて導入し、量と質を両立した新たな酒造りの体制を確立した。
こうした継続的な技術革新は、京都における酒造りが単に伝統に依拠するのではなく、時代に応じて進化を遂げてきたことを物語っている。
京都では、酒造りと食文化が相互に関わり合いながら、お互いを引き立てあう酒質を確立するとともに、伝統と革新を融合させた独自の価値を創出し続け、全国有数の製造量を誇るに至っている。
イ 米及び米こうじに国内産米のみを用いたものであること。
ロ 京都府内で採水した水のみを用いたものであること。
ハ 酒税法(昭和28年法律第6号)第3条第7号に規定する「清酒」の原料を用いたものであること。ただし、酒税法施行令(昭和37年政令第97号)第2条に規定する清酒の原料のうち、アルコール(原料中、アルコールの重量が米(こうじ米を含む。)の重量の100分の50を超えない量で用いる場合に限る。)以外は用いることができないものとする。
イ 酒税法第3条第7号に規定する清酒の製造方法により、京都府内において製造されたものであること。
ロ 製造工程上、貯蔵する場合は京都府内で行うこと。
ハ 消費者に引き渡すことを予定した容器に京都府内で詰めること。
地理的表示「京都」を使用するためには、当該使用する酒類を酒類の製造場(酒税法第28条第6項又は第28条の3第4項の規定により酒類の製造免許を受けた製造場とみなされた場所を含む。)から移出(酒税法第28条第1項の規定の適用を受けるものを除く。)するまでに、当該使用する酒類が「1 酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項」及び「2 酒類の原料及び製法に関する事項」を満たしていることについて、次の団体(以下「管理機関」という。)により、当該管理機関が作成する業務実施要領に基づく確認を受ける必要がある。
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