清酒

令和6年12月20日指定

1 酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項

(1)酒類の特性について

 喜多方の純米酒は、総じて柔らかな丸みと芳醇な旨味を有し、リンゴやバナナといったフルーティな香りが感じられる。口に含むと爽やかな甘みが広がりつつも軽快でキレの良い後味から、旬の野菜や山菜、特に東北地方で有数の生産量を誇る喜多方のアスパラガスが持つ甘みを引き立て、また、この地方で収穫されるそばの実等を使った山都そばをはじめとしたそば料理など、素材を生かしたシンプルな風味の料理と相性が良い。

(2)酒類の特性が酒類の産地に主として帰せられることについて

イ 自然的要因
 喜多方(福島県喜多方市及び隣接する同県耶麻郡西会津町)は、福島県の西部に広がる会津盆地の北部に位置し、北に飯豊連峰、西に越後山脈、東に磐梯山の頂を望む雄国山麓と、雄大な山並みが連なる三方を山々で囲まれた地域である。これらの山々に積もった2.5mを超える豪雪は地層へと染み渡り、支流の濁川や押切川、田付川と、本流阿賀川など多様な河川や湧水地を形成し、また、地層はこれら河川の運搬によって沖積層が形成され、表面は農耕に適した堆積土でその下は砂礫層となっており、この地層を通った水はこの地域の柔らかな丸みと芳醇な旨味を有する酒質に欠かせない、非常に軟質で口当たり優しい豊富な伏流水となっている。
 また、この地域一帯は、豊富な水に加えて、盆地特有の気候で7〜9月の昼夜の気温差が10度近くになり、稲の出穂時期であるこの時期に昼夜の寒暖差が生じることで米粒内にデンプンがしっかりとためられ、甘みのある米が育ちやすく、また、稲わらを田の肥料として利用しており、これにより土壌内で緩やかに稲わらが分解され土壌改善効果が上がり肥料効果を保持する力が高まるなど、古くから良質な米作りが行われてきた。このような環境から、この地域の酒造好適米である五百万石、飯米のコシヒカリ等の栽培が盛んで、これらの柔らかく甘みのある米が、この地域の酒質の形成を支えている。
 上述のとおり、この地域は豊富で非常に軟質な水と良質な米に恵まれているほか、冬季の平均気温がマイナスであるなど酒造りに適した冬季の厳しい寒さと相まって、柔らかな丸みと芳醇な旨味を有しつつ後味の良い酒質が形成されている。

ロ 人的要因
 喜多方の酒造りは「会津の酒」(伊藤豊松著)によると、古くは寛永8年(1631年)、地方の有力商人である佐藤家が営む酒蔵を筆頭とし、小田付村・小荒井地区(現在の福島県喜多方市)を中心とした、専業商人や半商半農の地主・豪商等が、江戸時代の末期から明治時代にかけて(1800年代中頃から後半)その素地を創ったとされている。半商半農による酒造りは、近隣の宿場町であった野沢宿(現在の福島県耶麻郡西会津町)においても、江戸時代末期から明治時代にかけて盛んに行われていた。
 この地域では、豊富な水と盆地特有の気候等によって柔らかく甘みのある米が栽培できた経緯から、醸造用米を含め米の生産量が多かった。収穫される多くの米をより流通・消費させるため、この地域では、豊富な水を利用して多くの水車場が作られ、明治期においては米搗き水車が20場以上存在し、効率的な精米を可能にしていた。なお、海から遠く離れた山国で、米を輸送するための陸路と水路が脆弱であったがため、余った米の活用策として酒造りが行われていたこともあり、近隣から状態(鮮度)のよい米を使った酒造りがこの一帯で行われたことで、米の旨味や甘みが感じられる酒が古くから造られていたと推察される。さらに、山国であったことから、この地域で広く採られ食されていた山菜やそばといった素朴な食事に合うよう、旨味や甘みがありつつもサラッと後味が引いていくキレのある酒質になっていった。
 この地域の酒蔵は、城下町(現在の福島県会津若松市)の酒蔵と異なり、会津藩からの庇護を受けることが難しかった中で、酒造りを生業として生き抜くために、酒蔵同士が力を合わせ、試行錯誤してきた。中でも、油商を営んでいた商家の冠木家が、明治に入り酒造業を営むようになってから、5代目当主である冠木房八が醸造技術の改良のため、寝食を忘れて研究に打ちこみ、その技術を地域の酒造業者たちに惜しみなく伝え、指導したとされており、喜多方地区の酒造業を営む当主のほとんどがこの5代目房八の醸造技術を学んだといわれている。また、野沢宿の酒屋「石川屋(栄川)」の石川市十郎(栄四郎)は、酒造業を営みつつ農業技術の改良に力を注ぎ、様々な試みをなし、その水稲技術を近郷の農村に広めていったとされている。これらの技術より、この地域の酒が確立されていったことが伺える。
 大正11年(1922年)には、互助精神の醸成と醸造技術研鑽を目的とした「耶麻醸友会」(注1)が設立され、長年伝わる醸造法に加え、品質の向上を図るべく、当時、江戸への下り酒(注2)の一大生産地であった摂津(現在の大阪府北中部と兵庫県の南東部)の醸造法を取り入れながら、それぞれの酒蔵が自己研鑽を行っていった。現在では、この地域の酒蔵の醸造責任者で構成されている「喜多方杜氏組合」において、伝統的な技法を尊重しながらも、新たな技術や理論を積極的に取り入れ、互いに情報共有しつつ、この地域の酒質の向上を図っている。
 また、この地域における永続性ある酒造業、産地米の安定的な生産の実現、発展を目的として、平成7年(1995年)から喜多方の生産者グループと協力し減農薬・減化学肥料栽培による酒米育成に取り組んでおり、喜多方のテロワールを今後語り続ける上で欠かせない環境の整備を図っている。
 このようにこの地域の酒造りは、伝統的な造りを守りながら各酒蔵が技術の研鑽、酒質の向上に努め、地域の原料の特性を生かしつつ時代の需要にも沿った開発を行い、加えて地域と密接につながりながらこの地域の清酒の特性を築いている。

注1:昭和5年(1930年)に「五味会」と改名。

注2:上方(現在の京都府及び大阪府を含む地域の総称)から江戸(現在の東京都)に出荷された酒の総称。

2 酒類の原料及び製法に関する事項

 地理的表示「喜多方」を使用するためには、次の事項を満たしている必要がある。

(1)原料

イ 米及び米こうじには、産地の範囲内で収穫した米(注3)のみを用いていること。

  注3:農産物検査法(昭和26年法律第144号)により3等以上に格付けされたものに限る。

ロ 水は産地の範囲内で採水した水のみを用いていること。

ハ 酒税法(昭和28年法律第6号)第3条第7号イに規定する「清酒」の原料を用いていること。

(2)製法

イ 酒税法第3条第7号イに規定する「清酒」の製造方法により、産地の範囲内において製造すること。

ロ 清酒の製法品質表示基準(平成元年11月国税庁告示第8号)第1項の表の右欄に掲げる製法品質の要件を満たしたものであること。

ハ 製造工程上、貯蔵する場合は産地の範囲内で行うこと。

ニ 産地の範囲内で、消費者に引き渡すことを予定した容器に詰めること。

3 酒類の特性を維持するための管理に関する事項

 地理的表示「喜多方」を使用するためには、当該使用する酒類を酒類の製造場(酒税法第28条第6項又は第28条の3第4項の規定により酒類の製造免許を受けた製造場とみなされた場所を含む。)から移出(酒税法第28条第1項の規定の適用を受けるものを除く。)するまでに、当該使用する酒類が「酒類の産地の主として帰せられる酒類の特性に関する事項」及び「酒類の原料及び製法に関する事項」を満たしていることについて、次の団体(以下「管理機関」という。)により、当該管理機関が作成する業務実施要領に基づく確認を受ける必要がある。

管理機関の名称:GI喜多方清酒管理協議会
     住所:福島県喜多方市字北町2932番地(夢心酒造株式会社内)
   電話番号:0241-23-0400

4 酒類の品目に関する事項

清酒