滋賀の清酒は、総じて米由来のふくよかな甘味と旨味を有している。
口に含むと、穏やかな甘味や旨味の膨らむ味わいの中に、しっかりとした酸味も感じることができ、冷酒・燗酒等、幅広い温度帯で楽しむことができる。
純米酒は、香りは控えめながらも、米に由来する香りのほか、酵母により形成される果実様の香りを感じられる。また、純米吟醸酒は、果実様の華やかな吟醸香を感じられる。いずれも甘味、旨味、酸味、香りのバランスのとれた、飲み飽きしない酒質である。
イ 自然的要因
滋賀県は日本列島のほぼ中央に位置し、中央部には近江盆地と県土の約6分の1の面積を占める日本最古で最大の湖である琵琶湖がある。その琵琶湖の周りを比良・比叡・伊吹山地及び鈴鹿山脈など1,000m級の山々が四方を取り囲んでいる。
これらの山々から大小約460の河川が琵琶湖に流入し、肥沃な土壌を運びながら扇状地や三角州を形成したことにより、水はけの良い肥沃な土壌が形成された。また、周囲の山々を水源とする豊かで良質な伏流水が、古くから近江盆地や棚田での稲作に活用されてきたことにより、近江米として名高い良質な米が生産され、伏流水とともに清酒に使用されてきた。
また、滋賀県は、日本海気候区、東海気候区及び瀬戸内海気候区が重なり合う地域となっており、準海洋性の気候を示す温和な気候でありながらも、盆地特有の昼夜の気温差があるため、吟吹雪、玉栄、山田錦などの酒米の栽培も盛んであり、これらの酒米は、県内の多数の酒蔵で純米酒・純米吟醸酒などに使用されている。
更に、冬期の盆地特有の底冷えは、滋賀県特有の寒冷な気候として、清酒の醸造工程において重要な発酵にも影響を及ぼしており、より穏やかな発酵に繋がっている。
このような自然環境の下、良質な米や豊かで良質な伏流水などの自然の恵みと穏やかな発酵に繋がる寒冷な気候により、滋賀清酒の特性である「米由来のふくよかな甘味と旨味」を有する清酒を醸し出している。
ロ 人的要因
室町時代には、百済寺の「僧坊酒」が公用日記等に記録されるなど、滋賀県の酒造りの歴史は古い。
江戸時代には、京都と江戸を結ぶ東海道、中山道のほか、「鯖街道」として名高い若狭街道、北国街道など、多くの街道と湖上交通により、全国各地から人と物が行き交い、街道沿いや宿場町での酒造りが盛んに行われるようになった。
また、全国をまたにかけた「近江商人」は、本業のほか、日本各地で酒造りを行ったことから、系譜をたどると、「近江商人」をルーツとする蔵元が各地に多く存在するなど、滋賀県下のみならず、各地の酒造りの発展に寄与してきた。
明治時代には、大津市に能登衆(能登杜氏)の斡旋所である「北国屋」ができ、ここを起点として、数多くの能登杜氏が滋賀県の酒蔵で酒造りをし、蔵人同士が切磋琢磨してきたことにより、各蔵元の酒質向上が図られ、大正時代には、滋賀県下において200を超える酒造場で清酒が造られてきた。
その後、昭和48年をピークとして全国的に清酒の需要は下落傾向となる中、滋賀県の各蔵元は清酒需要の変化に対応し、従来の普通酒から純米酒や吟醸酒等の高品質な清酒に転換するとともに、滋賀県が全国有数の米どころである点を活かし、地元農家との契約栽培による米を使った酒造りに取り組むようになった。
また、平成6年には、滋賀県余呉町(現・長浜市)に、発酵学の研究を通じた地域の文化と産業の活性化への貢献を目的とする財団法人日本発酵機構余呉研究所が設立された。
同研究所は、発酵学に関する調査研究や普及事業、発酵産業に対する支援事業等を行い、滋賀県の特産品である清酒や鮒寿司などの発酵食品に係る学術研究と地域の活性化に取り組み、香りが豊かで切れ味の良い酒質の酵母を開発し、当該酵母を使用した県内蔵元の統一銘柄である純米酒「胡蝶の里」「紫霞の湖」の発売は、滋賀県酒造組合連合会(現・滋賀県酒造組合)とタイアップした産学一体の取組として高い評価を受けた。
これを契機として、以降、県内の蔵元は、更なる醸造技術の向上に励み、純米酒等の高品質な清酒を中心に、各蔵元の個性の中にも、米由来のふくよかな甘味と旨みを引き出した味わいの清酒を醸し出している。
近年では、平成16年に滋賀県農業技術振興センターや農協などが連携・協力し、昭和34年まで滋賀県の酒米奨励品種であった「滋賀渡船6号」を復活させ、滋賀県下の蔵元で清酒の原料として使用されるほか、「近江の地酒でもてなし、その普及を促進する条例」(平成28年3月28日滋賀県条例第13号)が制定されるなど、官民一体となって、滋賀の清酒の需要振興・産業育成に向けた取組を行っている。
イ 米及び米こうじに、滋賀県内で収穫した米(農産物検査法(昭和26年法律第144号)により3等以上に格付けされたもの)のみを用いたものであること。
ロ 水に滋賀県内で採水した水のみを用いたものであること。
ハ 酒税法(昭和28年法律第6号)第3条第7号イに規定する「清酒」の原料を用いたものであること。
イ 酒税法第3条第7号イに規定する清酒の製造方法により、滋賀県内において製造したものであること。
ロ 清酒の製法品質表示基準(平成元年11月国税庁告示第8号)第1項の表の右欄に掲げる製法品質の要件に該当するものであること(白米、米こうじ及び水のみを原料として製造したものに限る。)。
ハ 製造工程上、貯蔵する場合は滋賀県内で行うこと。
ニ 消費者に引き渡すことを予定した容器に滋賀県内で詰めること。
地理的表示「滋賀」を使用するためには、当該使用する酒類を酒類の製造場(酒税法第28条第6項又は第28条の3第4項の規定により、酒類の製造免許を受けた製造場とみなされた場所を含む。)から移出(酒税法第28条第1項の規定の適用を受けるものを除く。)するまでに、当該使用する酒類が「1 酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項」及び「2 酒類の原料及び製法に関する事項」を満たしていることについて、次の団体(以下「管理機関」という。)により、当該管理機関が作成する業務実施要領に基づく確認を受ける必要がある。
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