イ 官能的要素
山形ワインは、総じてぶどう本来の味や香りが引き立った、爽やかな酸による余韻が特徴のワインである。
(イ)白ワイン
色合いは、緑黄色から淡黄色・淡褐色・褐色を有している。香りは、豊かで華やかな花や柑橘系の香りの中に、ぶどう果実由来のアロマがはっきりと感じられる。味わいは、豊かな酸味を有し、辛口のものはその酸味が鮮明に感じられ他の風味と調和する。甘口のものは甘味と酸味のバランスが取れており、いずれも余韻は爽やかである。
(ロ)赤ワイン
色合いは、鮮紅色から赤紫色・濃紅色を有している。香りは、ぶどう果実由来のアロマを有するほか、長期熟成したものは果実香と調和する熟成香を有している。味わいは、爽やかな酸味と穏やかな渋味を有している。
(ハ)ロゼワイン
色合いは、淡いピンク色からオレンジ系の色合いを有し、時には赤褐色を有している。香りは、豊かなぶどう果実由来のアロマを有している。味わいは、甘口のものはぶどう本来の特徴がはっきりとした甘味と酸味のバランスが良く、辛口のものは爽やかな酸味が鮮明に感じられ、いずれもフルーティで軽やかである。
ロ 化学的要素
山形のワインは、アルコール分、総亜硫酸値、揮発酸値及び総酸値が次の要件を満たすものをいい、発泡性を有するものも含む。
(イ)アルコール分は7.0%以上20.0%未満。
ただし、補糖したものは上限値を15.0%未満とし、甘口のもの(残糖分が45g/L以上のものをいう。以下同じ。)は下限値を4.5%以上とする。
(ロ)総亜硫酸値は350mg/L以下とする。
(ハ)揮発酸値は1.5g/L以下であること。
(ニ)総酸値は酒石酸換算値として4.0g/L以上であること。
イ 自然的要因
山形県は、日本の本州北部に位置し、西側が日本海に面している他は、三方を奥羽山脈や出羽山地等の山々に囲まれている地形である。山形県には、南部の置賜地方を源流として、県内を縦断し日本海に注ぐ最上川が流れている。最上川には、周辺の山々から流れる多数の河川が合流しており、これらの作用によって内陸地域にはいくつかの盆地が形成されている。
ぶどう栽培は、この最上川流域で盛んに行われている。山形県は、日本屈指の穀倉地帯でもあるため、盆地の平野部には水田が広がっていることから、ぶどう栽培は水田に適さない平野と山地の中間地域が中心である。
この産地は、傾斜地で水はけが良好な土壌であるため、ぶどうに適度な水分ストレスを与えることとなり、果粒の肥大を抑制し味が濃縮される傾向があることから、ぶどうの栽培に適しているといえる。
また、この産地の年間日照時間は1,600時間程度と長くはないが、4月から10月までのぶどう生育期においては晴天が多く、日照時間が1,100時間程度と日当たりも良い。他方、緯度が高いためぶどう収穫時期の月平均気温は高い月でも25℃程度と冷涼であり、昼と夜の気温差が大きくなることから、有機酸が蓄積されやすい。
さらに、同時期の降水量は800o以下と比較的少ないため、ぶどうの病害発生等が抑制され、総じて健全な状態でぶどうを収穫できるが、冬季には積雪量も多く、ぶどう栽培に関する湿度や雪への対策を行う必要がある産地でもある。
ロ 人的要因
この産地での産業としてのぶどう栽培は、19世紀後半に殖産興業の一環として果樹の試験場が設置され、西洋由来のヴィニフェラ種であるブラックハンブルク等の栽培が行われたことから始まる。この産地に定着するよう、温室栽培や平棚栽培等の工夫がなされ、ぶどう園が徐々に広がりを見せたものの、1910年代に導入したラブラスカ種の苗木の影響によりフィロキセラ害虫が広がり、壊滅的な被害を受けたとされている。
その後、フィロキセラに免疫のある台木を導入するとともに、デラウェアへの改植を進め、1950年には335haの栽培面積で山梨と大阪に次いで全国3位の規模となった。さらに、1960年代には、ジベレリン処理による核無しデラウェアの出荷を始めたことにより、東京市場において飛躍的にシェアが拡大した。1980年には総栽培面積が3,780haまで拡大し、そのうち82%をデラウェアが占めることとなった。
また、この産地でのワイン醸造は、薬用の甘味果実酒として19世紀末頃から小規模な生産が始まったが、フィロキセラの被害により生産の拡大には至らなかった。1930年代には、茨城県でワイナリーを開業した神谷伝兵衛が、この産地でのマスカット・ベーリーAとブラッククィーンの栽培及びワイン醸造を開始するとともに、県外の大手酒類製造者への原料ぶどう等の供給量が増加するなど、次第にワイン醸造との関わりは強くなっていった。1950年以降は、戦後の食糧不足及び甘味果実酒の需要減少などにより生産量が急減していくこととなる。
このような中で、1980年頃より、産地のぶどう栽培者は再び高品質なヴィニフェラ種の導入に取り組み、垣根栽培法の導入、積雪への対策、雨よけのビニールテントの設置や石垣による地温上昇等の工夫を通じて、特にカベルネ・ソーヴィニヨンとシャルドネがこの産地に定着したため、それらを用いた本格的なワイン醸造が拡大していった。
1984年には、ワイン製造者間で情報交換を密にする体制づくりのため、全国で2番目の果実酒に係る酒造組合である「山形県ワイン酒造組合」を設立した。
1995年より、製造者間でワインの官能評価を行い、醸造方法の改善に関する情報交換を行うワイン研究会を開催するなど、ぶどう本来の味や香りを引き出すワイン造りを目指し、醸造技術の向上等に努めてきた。
2008年には、若手醸造技術者を中心とした山形県若手葡萄酒産地研究会(ヴィニョロンの会)が発足し、山形県農業総合研究センターや山形県工業技術センターと連携して、デラウェア等のラブラスカ種を主体としたワインの品質向上等にも取り組むことで、山形ワインの特性の維持・向上に努めている。
イ 果実に産地の範囲内で収穫されたぶどう(次に掲げる品種に限る。)のみを用いたものであること。
【ヴィニフェラ種】
ミュラー・トゥルガウ、ケルナー、リースリング、シャルドネ、コルテーゼ、ゲヴェルツトラミネール、アルバリーニョ、プティマンサン、ヴィオニエ、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ブラン、ピノ・グリ、シャスラ、ツヴァイゲルト・レーベ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエ、メルロー、シラー、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルド、マルベック、ガメイ、ネッビオーロ、タナ
【ラブラスカ種】
デラウェア、ナイアガラ、キャンベル・アーリー、コンコード、スチューベン
【その他の品種】
マスカット・ベーリーA、ブラッククィーン、ベーリー・アリカントA、ビジュ・ノワール、甲州、ピオーネ、ヤマ・ソービニオン、北醇、アルモノワール、リースリング・リオン、リースリング・フォルテ、セイベル9110、シャインマスカット、モンドブリエ、ヒマラヤ、小公子、ブラックペガール、ワイングランド、ヤマブドウ種(コワニティ、アムレンシス)、ネオマスカット
ロ 酒税法第3条第13号に規定する「果実酒」の原料を用いたものであること。
ただし、同法第3条第13号ニに規定する香味料は、ぶどうの果汁又はぶどうの濃縮果汁(いずれも産地の範囲内で収穫されたぶどうのみを原料としたものに限る。)に限り用いることができる。
ハ 果汁糖度が、ヴィニフェラ種は16.0%以上、ラブラスカ種は12.0%以上、その他の品種は14.0%以上であるぶどうを用いること。
ただし、ぶどう栽培期間の天候が不順であった場合には、当該ぶどう栽培期間を含む暦年内に収穫されたぶどうに限り、それぞれの必要果汁糖度を1.0%下げることができる。
ニ 原則として水、アルコール及びスピリッツを使用していないこと。
ブランデーについては、他の容器に移し替えることなく移出することを予定した容器内で発酵させたものに、発酵後、当該容器に加える場合に限り使用すること。
イ 酒税法第3条第13号に規定する「果実酒」の製造方法により、山形県内において製造されたものであり、「果実酒等の製法品質表示基準(平成27年10月国税庁告示第18号)」第1項第3号に規定する「日本ワイン」であること。
ロ 酒税法第3条第13号ロ、ハ又はニに規定する製造方法により、糖類を加える場合には、その加えた糖類の重量の合計が、果実に含まれる糖類の重量以下であること。
ハ 酒税法第3条第13号ニに規定する香味料(以下「香味料」という。)を加える場合は、当該加える香味料に含有される糖類の重量が当該香味料を加えた後の果実酒の重量の100分の10を超えないこと。
ニ ぶどうの収穫からワインの瓶詰を行うまでの補酸の総量が酒石酸換算値として6.0g/L以下であること。
ホ 除酸剤については、総酸値を酒石酸換算値として4.0g/L低減させるまで加えることができること。
ヘ 製造工程上、貯蔵する場合は山形県内で行うこと。
ト 山形県内で、消費者に引き渡すことを予定した容器に詰めること。
(1) 地理的表示「山形」を使用するためには、当該使用する酒類を酒類の製造場(酒税法(昭和28年法律第6号)第28条第6項又は第28条の3第4項の規定により酒類の製造免許を受けた製造場とみなされた場所を含む。)から移出(酒税法第28条第1項の規定の適用を受けるものを除く。)するまでに、当該使用する酒類が「酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項」及び「酒類の原料及び製法に関する事項」を満たしていることについて、次の団体(以下「管理機関」という。)により、当該管理機関が作成する業務実施要領に基づく確認を受ける必要がある。
(2) 管理機関は、業務実施要領に基づき、ぶどう栽培期間の天候が不順であったと認める場合には、直ちにその旨を公表する。
果実酒
山形の清酒は総じて、やわらかくて透明感のある酒質を有している。
その中でも、純米酒・本醸造酒は酸味や旨味が調和した、ふくよかで巾のあるやわらかな味わいを有している。また、純米吟醸酒・吟醸酒は、やわらかな口あたりと果実様の香りとの調和により、透明感が更に感じられる。
イ 自然的要因
山形県は、日本海式気候に属しており、冬期に多くの積雪があるが、これが酒造りに欠かせない連峰・山系特有の優良な地下水を恵む。その水質は酒造りに適した鉄分の少ない清冽な軟水であり、これを仕込み水として醸造することにより、「透明感のある」酒質が形成されてきた。
また、山形県の冬の厳寒は、酒造りにおける雑菌の繁殖抑制と低温長期発酵に適しており、いわゆる「吟醸造り」には最適な地である。これが、清冽な仕込み水とあいまって、「やわらかな」酒質が形成されてきた。
ロ 人的要因
山形県では、山形県工業技術センター及び山形県酒造組合(技術研究委員会)が中心となり、官民・地域一体となった人材育成と醸造技術の向上の取組を行ってきたことにより、清酒の搾りたての新鮮な品質を出来る限りそのまま残すようにろ過や火入れ、貯蔵を行う技術が県内全体に浸透してきた。
また、果実の特産地でもある山形県では、清酒の果実様の香りの嗜好において、バナナ様の香りの他、ふじリンゴ、メロンやラ・フランスといった特産果実の香りが調和した果実香が好まれる傾向にあり、吟醸酒を中心とした製造技術研究も行われてきた。
昭和53年から山形県工業技術センター及び山形県酒造組合が継続して実施している「清酒製造技術短期研修」により、酒造技術に関する講義と実習を通じて山形清酒製造にかかる人材育成を図っている。昭和62年には、県内清酒製造者と山形県工業技術センターの職員により構成する「山形県研醸会」を発足し、特に吟醸酒製造に力を入れた研修を実施し醸造技術の向上を図っている。
また、昭和56年より、山形県を代表する大吟醸酒を開発することを目的として、「山形讃香」の取組を開始し、昭和60年には、山形讃香審査会による平均合格率は3〜4割という厳格な審査に合格した清酒のみを、統一ブランド「山形讃香」として商品化した。この「山形讃香」の販売を通じた消費者の客観的評価が、研修会等を通じて製造者に還元されることにより、山形県全体として清酒の製造技術が底上げされている。
これらの取組により、山形らしい清酒の特性が形成されてきた。
地理的表示「山形」を使用するためには、次の事項を満たしている必要がある。
(1) 原料
(2) 製法
地理的表示「山形」を使用するためには、当該使用する酒類を酒類の製造場(酒税法(昭和28年法律第6号)第28条第6項又は第28条の3第4項の規定により酒類の製造免許を受けた製造場とみなされた場所を含む。)から移出(酒税法第28条第1項の規定の適用を受けるものを除く。)するまでに、当該使用する酒類が「酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項」及び「酒類の原料及び製法に関する事項」を満たしていることについて、次の団体(以下「管理機関」という。)により、当該管理機関が作成する業務実施要領に基づく確認を受ける必要がある。
管理機関の名称:山形県酒造協同組合
住所:山形県山形市緑町一丁目7番46号
電話番号:023−641−4050
ウェブサイトアドレス:http://www.yamagata-sake.or.jp/
清酒