第1章 モデル事業の研究・サポート報告
(1) 中小酒類小売業者を取り巻く環境変化
中小酒類小売業者は、長く地域密着型経営を続け、小売業界の中でも安定した業種といわれ、いわば社会のインフラ(生活に欠かすことができない基盤設備)として国民生活に重要な位置を占めてきた。
しかし、規制緩和の流れの中で、競合の出現や低価格競争にさらされ、さらには消費者の購買行動の変化に対応できず、業績悪化に苦しむ店舗が多くなったのである。このような環境変化は、10年以上も前から始まっており、対応策を考え、実行する期間は十分にあったはずである。また、流通業界全体から考えると、競合店が存在し、店舗により価格の違いがあることは普通のことである。しかし、競合店がないことや同一商品・同一価格を当然と考えていた中小酒類小売業者の多くは、対応策が分からず右往左往し、既に事業活性化をあきらめている者も見られる。
競合の出現・低価格競争・消費者の購買行動の変化等を見据えて、以前より対応策をとってきた店舗は、厳しい環境変化にも関わらず、清々として好成績を維持している。しかし、中小酒類小売業者のほとんどが、個人経営の小規模組織であるため、人・物・金・情報等の経営資源が少なく、単独では環境変化に対する対応策を考え、実行する能力が十分ではない。そこで、意欲ある中小酒類小売業者が結集し、共同事業を行うことが、環境変化に対応して、生き残りのための効果的な方策の一つであると考えられる。
(2) 共同化の内容
構成員が出資して共同店舗を作ったり、企業合同を行ったりすることも共同化である。しかし、中小酒類小売業者の共同化としては、非現実的と言えよう。
本報告書では「経営の独立性を維持しつつ、各構成員が経営する店舗の業績を向上させるために、中小酒類小売業者が結集して共同で行う事業」を共同化と定義する。したがって、共同仕入、共同商品開発、共同販売促進等が中心事業となる。仕入、商品開発、販売促進等の機能は、本来は個別企業や店舗で行うものである。しかし、小規模事業者の場合、非効率であったり、経費がかかりすぎたり、プライベートブランド商品(以下、「PB商品」と略す)開発では、製造ロット(単位)が多すぎて個店では負担が大きすぎる、等の障害が発生する場合が多い。
そこで、個店で実行することが非効率で、経費や時間的負担が大きい部分に限定して、共同化を行おうとするものである。
(3) 共同化の3つのタイプ
イ 非法人組織による共同化(任意共同化)
意欲のある者が数人〜数十人集まり、共同仕入や共同販売促進などの、共同事業を行うものである。
ゆるやかな組織であり、自由に活動できるというメリットがある。しかし、責任の所在が曖昧になりやすく、金融機関や仕入先からみて、組織としての信用が薄い場合が多い。また、官公庁の許認可事業ができない、等のデメリットがある。
実質的に、リーダーの信用や責任の上に成り立っている共同事業であり、リーダーが事故にあい、意欲が減退した場合、事業は衰退する可能性がある。
ロ 法人組織による共同化(事業協同組合)
いわゆる酒販協同組合である。活動内容は「非法人組織による共同化(任意共同化)」とほぼ同様であるが、法人格を持つことで、より活発な活動を期待するための形態である。
根拠法である中小企業等協同組合法の第1条(目的)は、「この法律は、中小規模の商業、工業、鉱業、運送業、サービス業その他の事業を行う者、勤労者その他の者が相互扶助の精神に基づき協同1して事業を行うために必要な組織について定め、これらの者の公正な経済活動の機会を確保し、もつてその自主的な経済活動を促進し、且つ、その経済的地位の向上を図ることを目的とする。」と述べている。
つまり、中小事業者が“相互扶助の精神”で“共同事業”を行うことにより、参加者の“自主的な経済活動”を促進すると共に、“参加者の経済的地位”すなわち収益性を高める活動を目的とするものである。
第9条の2に具体的な事業活動を規定しており、さらに、第9条の7では、「事業協同組合は、法令の定めるところにより、組合員の取扱商品について商品券を発行することができる。」としている。
しかし、第1条の目的にある“相互扶助の精神”を認識していない組合員がおり、事業活動内容も商品券発行に頼りすぎている協同組合が多いのが現状である。その結果、協同組合活動の最大の目的である“参加者の経済的地位(収益性)を高める活動”を行うことにより、昨今の厳しい酒類小売業界を取り巻く環境変化に対応するための共同仕入活動が活発でない組織が多いのが現実である。
1事業協同組合、酒販協同組合及び根拠法である中小企業等協同組合法の法律名並びに条文では“協同”の用語が使われているので“協同”を使用するが、それら以外の本文では一般的な用語である“共同”を使用する。↑戻る
ハ 連鎖化
(イ) 連鎖化の必要性
中小酒類小売業者を取り巻く環境は非常に厳しい。この厳しい難局を乗り切るためには、個々の中小酒類小売業者だけの力では限界がある。「非法人組織による共同化(任意共同化)」「
法人組織による共同化(事業協同組合)」の両形態共に、力の弱い中小酒類小売業者が結集して共同活動を行い、参加者の業績向上を支援することにより、一定の効果が期待できる。
しかし、参加者の相互扶助精神が欠け、参加店の規模や営業方法、あるいはノウハウに差があり、共同事業が円滑に進まないという弱点がある。
そこで、両組織の欠点を補い、共同事業を活用して、参加店が業績を向上させるためには、“連鎖化”という考え方を導入することが望ましい。
(ロ) 連鎖化の2つのタイプ
A ボランタリーチェーン
中小小売商業振興法を根拠法として、同法第5条において連鎖化事業を「主として中小小売商業者に対し、定型的な約款による契約に基づき継続的に、商品を販売し、又は販売を斡旋し、かつ、経営に関する指導を行う事業をいう。」と規定している。
いわゆるボランタリーチェーンのことであり、商品の共同購入を行うことは、前述の2つの形態と同じである。しかし、次の2点に違いがある。
第一は、主宰者と加盟者の間で“定型的な約款による契約”が行われることである。つまり、両者の責任と義務を明確にしていることである。「非法人組織による共同化(任意共同化)」「
法人組織による共同化(事業協同組合)」の両形態は、緩やかな結合体であり、一定の要件さえあれば参加や脱退も自由である。また、定款等の規定はあるが、個別契約はなされていない。したがって、主宰者と加盟者間の責任と義務があいまいになる傾向がある。そこで、定型的な約款(統一内容の契約書)を主宰者と加盟者間で交わすことにより、両者の責任と義務を明確にして、共同事業をより活発にしようとするものである。
第二は、加盟者に対して主宰者が経営指導を行うことである。中小酒類小売業者が業績を向上させるためには、“良い商品を仕入れる”ことや“同じ商品なら安く仕入れる”ことは重要である。しかし、それだけでは顧客の支持を得て、客数が増加し、客単価が向上し、売上高がアップすることにはつながらない。また、経営においては、売上高とともに、適切な粗利益を確保することや、経費を効果的に使用することも重要である。
店舗施設、販売方法、人事面、財務関係等の総合的な経営力が発揮できなければ、折角の共同事業の効果が半減する。そこで、主宰者が加盟者に各種の指導・支援活動を行うものである。中小酒類小売業者の共同化・連鎖化の最終ゴールであると考えられる。
B フランチャイズチェーン
ボランタリーチェーンは、主宰者と加盟者の間で契約が結ばれているとはいえ、加盟者の自主性を尊重する傾向が強いことから、主宰者の加盟者に対する指導力が弱く、主宰者の財務面が脆弱で、経営指導が十分でないことが多い。
そこで、主宰者の経営力を強くし、加盟者に対する指導力を強化し、加盟者の業績向上を図ろうとする共同化がフランチャイズチェーンである。
中小小売商業振興法第11条では、フランチャイズチェーンを“特定連鎖化事業”として、「連鎖化事業であって、当該連鎖化事業に係る約款に、加盟者に特定の商標、商号その他の表示を使用させる旨及び加盟者から加盟に際し加盟金、保証金その他の金銭を徴収する旨の定めがあるもの」と規定している。
つまり、“定型的な約款による契約”と“経営に関する指導を行う”ことは、ボランタリーチェーンと同じである。一方、“加盟者に特定の商標、商号等を使用させる”ことと、“加盟に際し加盟金、保証金等を徴収する”点が違いである。商品については、主宰者から加盟者に直接販売することは少なく、斡旋をするチェーンが多い。したがって、フランチャイズチェーンは、店舗運営システムやノウハウの共有組織であると言える。
(ハ) ボランタリーチェーンとフランチャイズチェーンのどちらを選択するか
各業種・業態のボランタリーチェーンとフランチャイズチェーンの現状を比較すると、ボランタリーチェーン加盟者よりフランチャイズチェーン加盟者のほうが好成績を上げているのが現実である。しかし、フランチャイズチェーン加盟に際しては、統一の店名に変えなければならず、店舗運営システムやノウハウの統一を図るために、加盟者の独立性が損なわれることになる。
酒類小売業界においては、加盟者の独立性を尊重しつつ、商品構成や販売方法を一定程度共通化し、主宰者が加盟者に経営指導を行うボランタリーチェーンが現実的である。酒販協同組合においても、単なる商品や商品券の共同仕入機構ではなく、組合員に対して経営全般や販売方法の指導も行う連鎖化へ変身することが、望ましいと言える。その変身が、厳しい時代において、中小酒類小売業者が勝ち残り、結果として酒販協同組合の組織も強固になることにつながる。
(1) 共同化の必要性
平成16年度・17年度におけるモデル事業は、A酒販協同組合、B酒販協同組合連合会、C小売酒販組合、D酒販協同組合、E酒販協同組合の5団体を対象に実施し、いずれも共同事業の活性化が最終目標である。
酒類小売業界が、なぜ共同化を必要としているのか整理する。
酒類小売業界の共同化が必要な理由は、以下のことが考えられる。
イ 中小酒類小売業者単体では限界
中小酒類小売業者単体では、厳しい社会環境の変化に対応するには限界があり、共同化により対応方法の研究と構築を行い、参加企業・個店の経営力強化が望まれるようになってきた。
ロ 業態開発の必要性
従来の商売のやり方では、中小酒類小売業者が生き残ることは難しくなり、新しい方法、つまり業態開発が必要になった。しかし、経営資源の少ない個人の中小酒類小売業者が個別に業態開発に取組むには無理がある。そこで、共同化を行い、中小酒類小売業者の実態にマッチした業態開発が必要になった。
ハ チェーン加盟も選択肢の一つ
中小酒類小売業者が生き残りや活性化を図るためには、チェーン加盟も選択肢の一つである。しかし、既存フランチャイズチェーンやボランタリーチェーンに対する不信感があり、中小酒類小売業者の実情に配慮した連鎖化システム構築が望まれるようになった。
ニ 差別化商品の導入
競争力のある中小酒類小売業者になるためには、競合店で取り扱っていない商品、つまり、差別化商品の導入が重要である。そのためには、既存の仕入先に頼らず、独自にメーカーや問屋を探し、仕入れることが必要になる。その場合、一定量以上のボリュームがなければ、メーカーや問屋と取引できない場合が多い。そこで、グループ化を図り、共同仕入により1ロット当たりのボリュームを確保することが必要になった。
ホ 価格競争への対応
価格競争に対抗するためには、中小酒類小売業者が共同化を行い、その中で受発注や支払い業務の合理化を行い、仕入価格削減の必要性が出てきた。
へ 経営基盤の強化
受発注システム合理化のため、情報基盤の整備が重要なテーマとなってきた。
ト 生き残りの道を模索
製造業・卸売業・小売業の全体最適の考えに基づく商品流通システム構築や情報システムの整備を通じて、フランチャイズチェーンに参入できない、参入したくない中小酒類小売業者の生き残る道を模索する必要性が出てきた。
チ 新しい共同事業の提案
協同組合が存続していくためには、組合員からの求心力を高め、組合利用率の向上を図る必要がある。しかし、従来の共同事業では、今以上の組合員の参加を求めることは難しく、新しい共同事業の提案が必要になってきた。
リ 商品供給の必要性
酒類卸売業が合理化を進めるため、小規模零細店舗への納品をストップすることが多くなってきた。その結果、売るべき商品を仕入れることができない中小酒類小売業者が増加した。そこで、共同事業により、商品供給の必要性が出てきた。
(2) 共同化の狙い並びにモデル事業の事業目標
共同化の狙い
共同化の最終的な狙いは、各個別企業・個店でできないことを共同で行い、結果として参加企業の経営力を強化し、それぞれが発展し、勝ち残ることである。
具体策として、次のようなことが主要なテーマとなる。
モデル事業の事業目標
1) モデル事業における事業目標
各組合別の事業目標は、次の通りである。
a A酒販協同組合
組合の社会的地位向上のために、組合活動を積極的にアピールする。
組合の経済的地位向上のために、規模の経済追求のための組合脱退者防止策として、魅力ある商品提供を行い、かつ、組合事業への参加意識の確立を目的としている。なお、最終的には本事業を活性化させ、組合事業の累積欠損の解消を目指し、事業分量に応じた利益配当を行うことを目標とする。
b B酒販協同組合連合会
PB商品の共同開発及び共同購入を行い、競争優位性を確保するとともに、情報化を基盤に据えた中小酒類小売業者の経営の効率化を推進し、個店の利益率の向上を目指す。これにより、経営者の意欲向上に貢献する。
c C小売酒販組合
差別化商品を取り扱うことにより、顧客支持率と来店頻度の向上を目指す。数値目標は、関連購買の増加等による売上拡大及び利益率の向上である。
d D酒販協同組合
酒類及び酒類以外の商品の品揃えの幅を広げ、客単価の増加を通じて組合員の売上高向上を目指す。また、組合員の売上高向上により、組合員の意欲向上と組合利用率の向上を期待する。
e E酒販協同組合
PB商品の販売等により、参加組合員が競争優位性を確保し、売上高の向上を目指す。組合員の意欲が向上すれば、組合が活性化する。
以上の事業目標は、数値面の向上を目指す定量的目標と、数値面以外の向上を目指す定性的目標に分類できる。また、組合員の経営力向上面と、組合組織の経営力向上面とに分けると、図表1−1−1「モデル事業の最終的な事業目標」となる。
対象者 | 定量的目標 | 定性的目標 |
---|---|---|
組合員店舗の活性化 | ・売上高の向上 ・利益率の向上 ・来店客数の向上 ・来店頻度の向上 |
・顧客からの支持率の向上 ・競合に対する競争優位性の確保 ・経営者の意欲の向上 |
組合の活性化 | ・組合利用率の向上 ・売上高の向上 ・組合員数減少の阻止 |
・組合の活性化 ・組合の社会的地位の向上 ・組合の経済的地位の向上 |
これらの事業目標を達成するために、具体的なテーマを持ってモデル事業を推進した。個別組合の状況は、第2節で説明するが、整理すると次のようになる。
No | 組合名 | 事業目標 | 実行体制 | |
---|---|---|---|---|
平成16年度 | 平成17年度 | |||
1 | A酒販協同組合 | ・組合の社会的地位の向上と経済的地位の向上 ・組合の累積損失の解消 |
・PB商品の開発 ・定番商品の共同購買事業の活性化 ・共同販売促進強化 |
・共同販売促進強化 ・定番商品の共同購買事業の活性化 |
2 | B酒販協同組合連合会 | ・中小酒類小売業者の業績の向上 ・利益率の向上 ・競争優位性の確保 ・経営者の意欲向上 |
・PB商品の開発による共同購買事業の推進 | ・共同販売促進強化 ・定番商品の共同購買事業の活性化 |
3 | C小売酒販組合 | ・顧客の来店頻度の向上 ・売上高の向上 ・顧客支持率の向上 |
・PB商品の開発による組合員の活性化 | ・共同販売促進強化 |
4 | D酒販協同組合 | ・組合員売上高の向上 ・組合利用率の向上 ・経営者の意欲向上 |
・定番商品の共同購買事業の活性化 ・共同販売促進強化 |
・経営ビジョンの策定 ・定番商品の共同購買事業の活性化 |
5 | E酒販協同組合 | ・組合の活性化 ・競争優位性の確保 ・経営者の意欲向上 |
・PB商品の開発による活性化 ・共同販売促進強化 |
・共同販売促進強化 ・第二次PB商品開発の準備 |
両年度の主要テーマ及び取組み組合数は、図表1-1-3 「モデル事業のテーマ及び選択組合数」のようになる。
テーマ | 平成16年度 | 平成17年度 |
---|---|---|
PB商品の開発 | 4組合 | 1組合 |
定番商品の共同購買 | 2組合 | 3組合 |
共同販売促進 | 3組合 | 4組合 |
経営ビジョンの策定 | − | 1組合 |
テーマを概観すると、PB商品開発、共同購買、共同販売促進を通じて組合員店舗の活性化に寄与する、が最も多く上がっている。つまり、共同商品開発によりPB商品・差別化商品を持つことにより、競合に負けない強い店になること、定番商品の共同購買により仕入コストの削減を図ること、共同販売促進により顧客認知度・支持率を上げることが、組合として取組み易いテーマであり、組合員も望んでいる。
PB商品の開発は、平成16年度は4組合が取組んでいたが、平成17年度は1組合のみであり、それも来年度に向けた準備である。これは、「むやみにPB商品を開発するのではなく、開発したPB商品の育成が重要である」との中小企業診断士のアドバイスによるところが大きい。
また、経営ビジョン策定が1組合あるが、これも、「目先のことばかり追うのではなく、将来の進むべき方向性を組合員が共有化しなければ、長期的な成功や発展は難しい」との中小企業診断士のアドバイスの結果である。
(1) 共同事業の効果
5組合は、規模や立地は異なっているが、厳しい環境変化の影響を受けて、組合員の減少、利用率の低下、売上高の低下等、共通した悩みを持っている。いわば、疲弊しきった状況なので、一気に業績回復を図ることは無理である。
しかし、モデル事業により、何をしなければならないかが見えてきて、組合役員等の意欲は向上している。また、意欲のある一般組合員にとっては、差別化商品の取扱いや販売促進策の活用は、協同組合または小売酒販組合に加盟したからこそ受けられる恩典であり、厳しい時代を勝ち抜くための励みになっている。
(2) 共同事業の問題点
協同組合活動の理論的指導者である百瀬恵夫氏(明治大学教授)は、「中小企業組合の理念と活性化」(白桃書房)の中で、組合運営上の問題点として、「共同事業の低い利用度」、「組合員の連帯意識の欠如」、「組合の財政基盤が弱体」、「組合事務局が弱体」、「組合リーダーの欠如」の5点を挙げている。今回の調査先でも、同様のことが見られる。上記5点を具体的に示すと、次のようになる。
経営者の意識不足による参加者数の不足
環境変化により、各企業・各店舗の経営が苦しくなり、単独では生き残れない時代になっている。対応策として、共同化の効果は分かっていても、「今さらやっても仕方がない」とか、「効果が出れば参加する」等の消極的な、あるいはリスク(危険性)を負担したくない経営者が多い。したがって、共同化の効果を、頭では理解していても、積極的な行動が伴わない場合が多い。
共同化は、全参加者の総合的メリットを追求するものである。しかし、部分的にみれば、デメリット(マイナス面)も発生する。たとえば、ビールの350ml缶は従来の卸売業から購入したほうが安いが、500ml缶は高いという状況が発生したと仮定する。安い商品だけ共同購入し、高い商品は従来ルートで購入する組合員が出た場合、組合の総合的な数量効果が出ず、仕入先に対する交渉力が弱くなる。つまり、共同仕入をする場合、一つひとつの商品価格が高いか安いかということではなく、総合的にみて原価率が下がったか、発注や物流システムが合理化できたか、という判断が重要である。
いわゆる、部分最適ではなく、全体最適を目指さなければならないのである。しかし、部分最適にこだわる者が多いのが現状であり、共同事業が長続きしない原因の一つになっている。
組合員周辺の理解不足
共同化を進める場合、ある程度のリスクやデメリットが発生する。たとえば、どのような事業を行うにせよ、設備投資や運転資金が必要になり、参加者が出資をしなければならない。つまりリスクが発生する。しかし、リスクやデメリット以上の効果を目指そうというのが共同化である。
事業の先行き不透明な段階において、必要資金の出資を求めるのが困難な場合が多いが、背景として、家族等の反対や不安感の存在がある。
組合員の連帯意識の欠如
自分に都合の良いことは吸収したいが、自らがその共同事業に貢献し、グループ全体の発展に貢献しようという意識が低い。つまり、利己主義体質の者が多い。さらには、リスクを負いたくないという保守的意識が強い経営者が多く、時代にマッチした共同事業ができにくい体質にある。このようなことが、共同化の実現や、効果向上の阻害要因になっている。
経営資源不足
共同化の実現、個別企業・個別店舗の経営力を強化するための経営資源が不足している。人、物、金、情報、ノウハウ等が大手企業と比較して少なく、結果として経営力低下につながっている。
中でも、共同事業実行のための基本原資である資金が不足し、財政基盤が弱いことが決定的な弱みになっている。つまり、人、物、情報、ノウハウ等は自社あるいは自協同組合や自グループで持たなくても、資金さえあれば外部から導入できる。しかし、資金がないため、小手先の対応策しかできていない。
背景として、「経営者の意識不足」があり、リスクを負いたくないという意識から、共同事業への出資金が非常に小額で、財政的な面から、協同組合の効果的活動ができないという状況になっている。
事務局の弱体化
多くの組合は、役員は非常勤で、共同事業の日常業務は事務局員が担当することになる。しかし、財務基盤の脆弱性もあり、能力のある人材を十分に確保できる組合は少ない。
したがって、日々の業務に追われ、戦略的業務ができていない。
カリスマ的リーダーの不足
共同化を実現するためには、グループ全体を積極的に指導し、引っ張っていくリーダーの存在が必要不可欠になる。しかし、長年の仲良しクラブ的組合の体質に慣れてきた結果、カリスマ的リーダーが少なく、また強いリーダーの存在を良しとしない周囲の意識もあり、効果的な共同事業が実現できにくくなっている。
(3) モデル事業の効果測定手法
今回の5事例のモデル事業は、酒販協同組合が中心になって運営している場合もあれば、小売酒販組合が中心の場合もある。また、以前から組合員の販売用商品を共同購入している場合もあれば、酒券中心の協同組合もある。あるいは、PB商品の歴史も開発・販売してから数年を経過している場合もあれば、第一弾のPB商品開発後、数ヶ月という協同組合もある。さらには、非常にうまくいっている場合もあれば、困難な課題を抱え、解決に向かっている場合もある。
つまり、5組合共通の状況は少ない。したがって、5組合だけで、共同事業推進について効果測定手法を判断することは難しいが、ある程度の共通項は推察できる。事業推進の効果測定手法を、図表1-1-4「モデル事業の効果測定手法」にまとめた。
効果測定項目 | 内容 | 方法 | |
---|---|---|---|
組合員店舗の活性化 | 売上高の向上 | 前年及び3年前と比較する。 | 半年に1回、組合より組合員にアンケートを出す。 |
利益率の向上 | |||
来店客数の向上 | |||
来店頻度の向上 | 顧客アンケートを集計する。 | アンケート | |
顧客からの支持率の向上 | 顧客アンケート及び売上高、来店客数の推移で判断する。 | アンケート | |
競合に対する競争優位性の確保 | |||
経営者の意欲の向上 | 面談にて確認する。 | 面談 | |
組合の活性化 | 組合利用率の向上 | 個別組合員の動向を把握する。 | 売上台帳 |
売上高の向上 | 前年及び3年前と比較する。 | 損益計算書 | |
組合員数減少の阻止 | 前年及び3年前と比較する。 | 組合員カード | |
組合の活性化 | 組合利用率、各種イベント参加率、アンケートに対する回答率等で判断する。 | 売上台帳、イベント参加者リスト等 | |
組合の社会的地位の向上 | マスコミ、消費者団体等の評価 | 面談 | |
組合の経済的地位の向上 | 前年及び3年前と比較する。 | 貸借対照表 |
(4) 共同事業推進のチェックポイント
最後に、今回のモデル事業から導き出された共同事業推進上のチェックポイントを、3点解説する。
対象者の明確化
酒販協同組合、小売酒販組合のいずれであっても、組合員は組合の行う事業には、基本的には全て参加する権利を持っている。
しかし、共同購買事業やPB商品開発などの経済事業の場合、参加対象者を明確にすることが望まれる。なぜなら、現在のように、消費者の購買動機や要求する商品や価格帯は様々であり、組合員店舗の業態、立地、対象顧客数、売上高などが異なり、全組合員の満足を得るような商品を提供することは不可能だからである。
したがって、優先対象組合員をどこにおくかの割りきりが重要である。その上で、商品開発や物流システムの検討に入るべきである。
意思決定のスピードを速める体制
組合という性格上、理事会や総会の決議を経て決定する場合が多い。しかし、現在のように変化が激しい時代は、チャンスを逃すと競争に負けてしまう。
そこで、一般民間企業のように、能力のある者に権限を委譲し、検討から決断に至るスピードを速めなければならない。権限を委譲する対象者は、グループ全体を積極的に指導し、引っ張っていくリーダーである。
ただし、リーダー一人では負担も大きいし、能力に限界がある。リーダーをカバーするために、若手組合員でプロジェクト・チームを編成して、商品開発や運営方針を検討することが望ましい。
中長期的な計画
一般的に、共同事業のスタート時点は、参加者数も多く、参加者やリーダーの意欲も高く、順調な事業展開ができている場合が多い。しかし、時間の経過と共に、熱意が薄れ、他の仕入先から魅力ある商品が提案され、共同事業が縮小していく場合が多い。今回のモデル組合でも同様の問題が発生し、リーダーが苦慮している。
したがって、既存事業内容に満足せず、常に「次の手」を打ち出すことが共同事業を継続的に発展させるためのポイントと言える。そのためには、第一段階として組合のビジョン(数年後のあるべき姿、ありたい姿)を策定することからスタートすると良い。遠回りのようでも、結局は早道になる。
むやみに新商品を発売し、新規事業を開始するのではなく、3年〜5年程度の計画の中で、事業運営をすることが望ましい。なお、計画の前提になるのが、「理念」である。理念に合っているかどうかが、商品選択や事業運営の基本になる。プロジェクトチームメンバーや参加者の意見が異なった場合、理念に合っているかどうかが判断基準になる。
したがって、「何のために共同事業を行うのか」、「我々が大事にしたいことは何か」を短い文章に表した「理念」の設定及び共有化が、共同事業のスタートである。