秋山 雅子
研究科第44期
研究員


要約

1 研究の目的

近年、多数の指名債権群を将来生ずるものまで一括して債権譲渡という形式を用いて担保化する、いわゆる「集合債権譲渡担保」が資金調達目的で広く利用されるようになり、それに併せて債権譲渡の第三者対抗要件を簡易に具備することができる債権譲渡登記制度も整備された。また、一連の最高裁判決によってその法的効果や有効性、第三者対抗力が確立され、租税債権との関係でも効力が確認されるなど、手続面及び理論面の整備が大きく進んだところであり、その需要は高まり、社会的機能にも著しい変化をみせている。
一方、集合債権譲渡担保の利用者は不動産等の物的資産に乏しく債権以外にみるべき資産を有しないことが多いため、徴収実務上も当該債権の差押えが極めて重要な手段となるところ、最高裁平成19年2月15日判決が、集合債権譲渡担保と滞納処分による差押えとの優先関係について、国税の法定納期限等以前に集合債権譲渡担保契約が締結され対抗要件を具備している場合には、法定納期限等後に具体的に債権が発生したとしても国税徴収法24条を適用した譲渡担保財産からの納税者の国税の徴収ができないと判断を示したことから、今後の租税の徴収に支障が生じることが懸念される。
また、集合債権譲渡担保が判例の集積により非常に強い優先的地位を有するに至ったことから、その濫用を排除し無限定な優先的地位を制限する必要性も指摘されているところである。
そこで、本研究においては、滞納者の有する債権について集合債権譲渡担保が設定されている場合に、現行の法制と判例理論の下において、いかなる方法をとって集合債権譲渡担保財産から国税の徴収をなし得るか検討するとともに、今日における譲渡担保の社会的機能の変化に対応すべく、集合債権譲渡担保権と租税債権との今後の調整の在り方について検討する。

2 研究の概要

(1)現行の法制と判例理論の下における徴収方途の検討

  • イ 契約の効力又は第三者対抗力を否定・制限する方向からの徴収方途
    • (イ) 譲渡担保契約の無効事由に着目した徴収方途(1)
      ―目的債権の特定性の欠如―
      集合債権譲渡担保にあっては、契約締結後に具体的に発生した債権が担保の目的となっているか否かが契約の内容から明確に認識し識別できることが必要であり、それが欠如している場合には譲渡担保契約は無効となる。
      目的債権の特定の要素としては、丸1発生原因、丸2金額、丸3発生期間、丸4第三債務者などがあり得るが、すべての要素が必須ではなく、他の債権と識別できる程度に特定されていれば足りるとしてその要件は緩やかになっており、特定性の欠如によって契約が無効となるケースは極めて限られる。
      しかし、たとえ目的債権の特定性が肯定されて契約が有効な場合であっても、第三者対抗要件としての債権譲渡登記又は債権譲渡通知において特定された債権と具体的に発生した債権の性質が異なるものと判断される場合には、これら具体的に発生した債権には第三者対抗力が及ばないことから、譲渡担保設定者に帰属する債権として滞納処分による差押えが可能となる。
    • (ロ) 譲渡担保契約の無効事由に着目した徴収方途(2)
      ―公序良俗違反―
      判例は、集合債権譲渡担保契約の有効性を広く認める一方、当該契約が公序良俗違反として無効とされる場合があり得ることを認めている。
      公序良俗違反の有無については、丸1契約締結時の状況(窮迫性、抜駆性)と丸2契約内容(過度の拘束性、無限定性、独占性)が重要な判断要素となり得る。
      しかし、集合債権譲渡担保契約が通常は譲渡担保設定者の経営が健全である間に締結されること及び融資が行われるとともに債務不履行等の一定事由が生じるまでの間は設定者に目的債権の取立及び費消を認めていることから、譲渡人を過度に拘束し不当に害するものとはいえず、他の債権者との関係においてもその均衡を害しあるいは不当な不利益を与えるものといえないことから、公序良俗違反性を問うことができる局面は極めて限られる。
    • (ハ) 詐害行為取消権の行使
      詐害行為の成立要件の判断基準時は「債務者の行為の時」とされるが、未発生の将来債権を含む包括的な債権譲渡が行われた場合の客観的要件の判断基準時は、「責任財産からの離脱が確定した時」であることが判例から導かれる。
      滞納者の有する債権について集合債権譲渡担保が設定されている場合、滞納者は債務不履行等の一定事由が生じるまでの間は目的債権の取立及び費消を認められることから、実質的に「責任財産からの離脱が確定した時」とは譲渡担保権の実行時であり、租税債権者が詐害行為取消権を行使する場合には、その時点で被保全債権としての租税が存在していることを要する。
      一方、集合債権譲渡担保契約の締結行為は、譲渡担保設定者に融資が行われるとともに債務不履行等の一定事由が生じるまでの間は、目的債権の取立及び費消を認める点において、詐害性の弱い行為と解される。そのため、契約締結時の主観的要件である詐害の意思が極めて厳格に要求されることから、特定の債権者と通謀し優先的に債権の満足を得させる意図をもって契約を締結したものと推認できる場合に、詐害行為が成立するものと解する。
  • ロ 譲渡担保の効力の及ぶ範囲を制限する方向からの徴収方途
    滞納者が破産した場合、破産財団に属する資産を現金化して配当資金とする。集合債権譲渡担保の目的とされた将来債権は、譲渡担保設定者を債権者として具体的に発生した後に譲渡担保権者に移転すると解されるところ、破産管財人は破産手続きにおける包括執行機関であり破産者と別個の権利主体として第三者性が認められることから、破産手続開始後に破産管財人の取引行為に基づいて発生した債権は、担保目的物として把握された譲渡担保設定者を債権者とする債権とは異なるために譲渡担保の効力が及ばないと解される。また、将来債権の移転時期をどのように解するかにかかわらず、破産管財人による破産財団に属する商品の販売行為は、破産管財人が総債権者のために行った換価手続であり、これによって発生した債権は、譲渡担保の目的債権と異なる発生原因に基づくものであることからも、譲渡担保の効力が及ばないと解される。そのため、破産手続開始後に破産管財人の取引行為に基づいて発生した債権には譲渡担保の効力が及ばず、租税等の総債権のための配当資金となる。
    一方、滞納会社について会社更生手続が開始された場合、会社更生手続は会社の維持・更生をさせることを目的として旧来の経済的・法律的関係の下で行われる再生手続であるため、更生管財人は更正会社と別個の権利主体として第三者性を認めることまではできないことから、更生手続開始後に更生管財人の取引行為に基づいて発生した債権は、譲渡担保の目的債権と同視することができるため、譲渡担保の効力が及ぶと解すべきである。
  • ハ 契約の効力又は第三者対抗力を肯定した上での徴収方途
    集合債権譲渡担保契約の締結時点で、既に生じている債権も将来生ずべき債権もすべて譲渡担保権者に帰属するとされるが、債務不履行等の一定事由が生じるまでの間の譲渡担保設定者による目的債権の取立及び費消は、契約に付加された「取り立てた金銭の引渡しを要しないとの合意」に基づくものとされる。この合意は、担保権を実行すべき一定事由が生じていないことを条件とした、個々の債権についての「譲渡担保目的物からの一部解除の合意」と解するのが当事者の意思解釈に合致する。しかし、取立行為自体は委任に基づくものであるため、譲渡担保設定者が目的債権を取り立てた時点で一定事由が生じていないとして譲渡担保目的物から解放されたと捉えるべきであり、譲渡担保設定者が目的債権を取り立てる前に設定者である滞納者に帰属する債権として差押えをすることはできない。

(2)譲渡担保権と租税債権との調整のあり方

近年の集合債権譲渡は、専ら債権担保としての機能を期待して活用されており、国税徴収法24条制定当時とその社会的機能に著しい変化が見られる。
そのため、国税徴収法24条を適用して国税との調整を図った場合には、集合債権譲渡担保権に担保される債権の範囲以上の優先性を認めて国税の一般的優先性を制限することとなり、「譲渡担保財産の所有権が担保権者に移転していることを前提としつつも、その実質が担保であることを考慮して可能な限り質権や抵当権に準じた取扱いを図る」という本条制定の理念と大きく乖離し、譲渡担保権のみが過度に強力な担保権となり、他の担保権との均衡を欠く状態となっている。
また、昭和35年の本法制定以後の譲渡担保権の効力に関する判例や学説にも、譲渡担保権の強すぎる効果を指摘して、「譲渡担保権の効力を債権担保の目的を達するのに必要な範囲にとどめる」ように修正しようとする変化がみられる。
そこで、集合債権譲渡担保と租税債権との優劣関係については、質権や抵当権に準じた取扱いを図るため、丸1譲渡担保権の設定時期が法定納期限等の前後であることで区別することなく譲渡担保財産から国税を徴収できることとし、丸2ただし、譲渡担保権がその設定者の租税の法定納期限等以前に設定されたものであるときは、その財産の価格から譲渡担保の被担保債権額を控除した額を限度とすることとして租税債権と調整されることが望ましい。

3 結論

譲渡担保は非典型担保であり、経済社会の要求に応じて発展し判例や学説に認められて確立するに至ったものであるところ、近年、集合債権譲渡担保がその社会的機能に著しい変化をみせるとともに非常に強い優先的地位を有するに至っている。
このような集合債権譲渡担保の効力が次第に確立されてきた背景には、これまでの社会情勢が大きく影響しており、今日、改めてその優先的地位の妥当性が問われる時期にきているものといえる。
本稿では、現行の法制と判例理論の下における集合債権譲渡担保財産からの国税の徴収方途について研究を行ったところであるが、徴収が可能となるのは極めて限られた局面であり、租税との関係においても、集合債権譲渡担保が非常に強い優先的地位を有するものであった。
そこで、集合債権譲渡担保の近年の社会的機能及び譲渡担保権が実質的に担保であることにかんがみ、他の担保権と可能な限り同一的な取扱いを図るための租税債権との新たな調整方法の必要性とその方向性を示した。これらは私債権者にも大きな影響を及ぼすものであることから、更なる裁判例の積み重ねとともに学者や実務界を含めた幅広い議論の要するところであるが、長期的かつ広い視野で集合債権譲渡担保の新たな社会的機能と今後の利用拡大に対応すべく、調整方法が講じられることが望ましい。

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