小山 真輝
税務大学校
研究部教授


要約

1 研究の目的(問題の所在)

  1. 現行の配当に関する税制については、例えば、個人の配当控除制度や法人の受取配当等益金不算入制度においては、法人税と所得税との間に二重課税排除の調整をするという時代は古きに過ぎ去る状況にある。このような税制の下、会社法の施行に対応する税制改正により、従前の「利益の配当」は「剰余金の配当」という概念に整理された上、所要の税制改正が行なわれた。
     その際、「本来の配当」規定のほかにも「みなし配当」規定があり、株式発行法人が一定の自己株式の取得等を行う場合には配当所得・受取配当等とみなされているが、新たな概念である「剰余金の配当」のうち「資本剰余金の額の減少を伴うもの」は、「本来の配当」規定の区分ではなく「みなし配当」規定の区分に属するものとされている。すなわち「剰余金の配当」自体がその原資に着目した区分によって分断され、それぞれの規定を適用する改正が行なわれたのである。
     ところで、会社法に対応する配当税制が施行された後、課税実務上、剰余金の配当に関する支払事務について源泉徴収手続の相違が生じた。「資本剰余金を原資とする配当」について、本来、新税制上の「みなし配当」規定を適用し、資本金等に対応する部分の金額とみなし配当に当たる部分の金額とを区分した上で、後者の部分に源泉徴収を行い、株主に対する交付金額を決定しなければならない案件に対して、従前の課税実務を踏襲し、その配当金の全額を「本来の配当」に該当するものと認識して過大に源泉徴収を行ってしまったものである。
     さらには、新たな配当概念に即して適用すべき規定が区分された後、例えば、「資本剰余金を原資とする配当」の支払形態等によっては、新たな規定を適用する上での戸惑いも見受けられるところである。
     そのような戸惑い等が生じている中、果たして会社法上の「剰余金の配当」という一つの固まりに対して、新たな切分けにより適用すべき規定が分断されてしかるべきものなのか、資本の払戻しと利益の配当とを区分するという重要な場面における切分け手法が適切なものであるのか、疑問が生じたところである。
     そこで、問題発掘的立場に立ち、既往の研究における自己株式のみなし配当に関する問題解決の糸口の一つとして、みなし配当と本来の配当概念とがどのように区分又は統合されるべきかの観点から、資本剰余金による「配当」の切分けに問題がないかを課税実務面も含めて研究するものである。

2 研究の内容

(1)資本剰余金を原資とする配当の取扱い

  •  平成13年の商法改正(議員立法)において認められた「資本準備金を原資とする配当」については、商法上、利益の配当の手続に基づき支払われるものであることから、税制上の手当てはなく、課税実務上、その全額が利益の配当として取り扱われてきた。上記の源泉徴収手続の相違は、この従前の取扱いが浸透しつつある中、会社法施行下における「資本剰余金を原資とする配当」が税制上の「みなし配当」規定で律せられ、按分計算(プロラタ計算)の対象となることとの間にギャップが生じたことによるものであった。

(2)新たな配当概念に関する戸惑いと法令適用に当たっての考え方

  1. イ 株式発行法人の行う「剰余金の配当」に関する法令適用に当たっての解釈については、一般的に私法上の借用概念が適用され、通常、会計処理上の「その他利益剰余金」が原資である場合には「本来の配当」たる配当所得・受取配当等とされ、これに対して、会計処理上の「その他資本剰余金」が原資である場合には「みなし配当」とされる。
     この点については、例えば、これらの剰余金の双方が混合して同時に分配された場合の適用関係について、配当額の算定過程等を用いて明確に示された文献が見当たらないことから、一部に戸惑いも見受けられる。すなわち、混合同時配当の適用に関して2つの考え方があり、そのうちの部分的に区分する考え方を前提とした表記が示され、その適用関係に疑問が呈されているのである。しかしながら、その両者の考え方には根本的な差異があり、みなし配当の額自体に変動が生ずることとなるため、改めて適用関係を明確にする必要がある。
  2. ロ 具体的には、一つ目の考えである「丸1全額にみなし配当規定を適用する考え」に則した場合は、会社計算に基づく「その他資本剰余金」の額を分子として税法基準である資本金等の額等を当てはめると、資本金等に対応する部分の金額が算定され、その額を超える部分の金額がみなし配当と認識されるものである。
     これに対して、二つ目の考えである「丸2部分的に本来の配当規定とみなし配当規定の両方を適用する考え」に則した場合は、(@)「その他資本剰余金」が先行して交付されたとみるのであれば、上記丸1の考えの計算結果と同様となるが、(A)「その他利益剰余金」が先行して交付されたとみるのであれば、分断して先に本来の配当規定が適用された後に、残額に対してみなし配当規定が適用される。少なくなった残額を基礎として、資本金等に対応する部分の金額が算定され、その額を超える部分の金額がみなし配当と認識されることから、先行して交付されたとみる本来の配当の額との合計額が配当となり、結果として、丸1の配当金額より少なく配当金額が計算されることとなる。
     これは、分母の簿価純資産価額(税法基準)の変化によって起こるものである。
  3. ハ 上記のような剰余金の双方が混合して同時に分配された場合の「剰余金の配当」に対する法令適用を考察すれば、丸1の考えとされる立法当局の見解があるとともに、そもそも一の決議に基づく配当を部分的に切り分けて双方の規定を適用する規定振りにはなっていないと考えられる。したがって、会計処理上の「その他利益剰余金」のみが原資である場合に限り、通常の配当所得・受取配当等の規定が適用され、会計処理上の「その他資本剰余金」がわずかでも含まれている場合には、「みなし配当」規定が適用されることとなる。事例は少ないと考えられるが、明確化の必要性は存在するものと考えられる。
     なお、このような法令解釈となりつつも、配当原資を切り分けた上で、それぞれ正当な配当決議を前後して行い、実質的に上記ロの丸2(A)の考えに基づく課税関係を創出することは、原則として可能である。

(3)私法基準と税法基準の変遷からの考察

  •  近年の商法改正に伴った税制等の対応について、借用概念的な私法基準と固有概念的な税法基準という観点から考察してみると、平成13年改正の直前まではおおむね「私法基準」的な対応をしてきたことがうかがえる。
     その後、平成13年4月の改正において、金銭等の交付がない場合のみなし配当規定が廃止され、従前税制上2つの取引があったものと擬制していたものを税制上資本積立金額から資本の金額へのシフトと認識したことから、いわば「実質的な税法基準」への転換があったものと考えられる。また、減資等による払戻金の原資構成については、具体的な計算方法が解釈に委ねられていたとされる取扱通達から脱却し、法令上計算方法が整備された「私法基準&税法基準」にシフトしたものと考えられる。具体的には、減資等に伴うみなし配当に対してプロラタ方式が導入されたものである。なお、平成13年6月の商法改正(議員立法)によって認められた「資本準備金を原資とする配当」については、税制上特段の措置は採られず、商法上(私法上)の利益の配当手続を経て株主に対して交付されるものであったことから、利益の配当としての取扱いがなされることとなった。
     直近の会社法の施行に対応する配当税制は、会社法の委任を受けた新たな会社計算規則が企業会計に沿い、資本性の金額と利益性の金額との混同を制限・禁止する方向に変わっても、従前のプロラタ方式を基本とする取扱いを踏襲する型で構築されていた。ただし、計算過程における算式の分子の金額については、資本性の金額と利益性の金額とが入り混じった剰余金の配当概念が「資本剰余金」の有無によって区分されたことが影響され、従前の「交付金銭等の合計額」から「減少した資本剰余金の額」に改められた。これは、上記(2)イで述べた戸惑いの一要因になったとも考えられる。
     この結果、従前の減資等の場合のみなし配当額の計算は、丸1全額を減資等の対価とする場合や丸2複数に分けて減資等の対価とする場合であっても、その減資等の対価のすべてがプロラタ方式に服するため、みなし配当額となる総額は一致するのに対して、新たな配当税制においては、資本剰余金を含む剰余金の配当が一度に交付された場合は政令規定でみなし配当額が統一的に計算されるが、配当決議を複数に分けた場合(上記(2)ハなお書)は異なる課税関係が創出されることとなった。課税実務上、疑問なしとはしない。

(4)配当税制の適用範囲の拡大と私法基準の変容可能性からの考察

  1. イ 配当税制の適用範囲の拡大と執行上の問題
     本研究における配当概念は、国内法人からの配当を前提とした配当控除制度や受取配当益金不算入制度だけにとどまらず、国際課税の分野である外国税額控除制度や外国子会社合算税制(CFC税制)にも存在するものである。この分野については、直近の平成21年度の税制改正において法人税本法改正が行なわれ、国際的な二重課税の調整方式として、既存の外国税額控除制度の中の間接外国税額控除制度に代えて、外国子会社配当益金不算入制度が導入されている。これは、適切な二重課税の排除を維持しつつ、制度を簡素化する観点に加え、我が国経済の活性化の観点から、我が国企業が海外市場で獲得する利益の国内還流に向けた環境整備が求められる中、企業が必要な時期に必要な金額だけを戻すことが重要であるとされたものであり、今後、外国子会社からの利益還流の増加が想定される。
     このような、外国子会社からの利益還流に関しては、本来の配当以外に、法人税法上のみなし配当に該当する金銭等の授受についても「みなし配当」規定が適用されることとなるが、その適用に当たっては、当然のことながら我が国法令に準拠した計算が求められることとなる。近年、外国事業体が格段の成長を遂げていると考えられる中で、外国事業体からの配当類似の利益還流に対して我が国のみなし配当規定を適用することは、借用概念を原則としつつ、今後、その執行上の適正・公平性の確保について、より困難性を増す場面が多くなると想定される。
  2. ロ 私法基準の変容可能性と執行上の問題
     会社法施行時においては、会社計算規則上、利益準備金やその他利益剰余金の資本組入れが制限されていたが(一部に批判はあった。)、今般の改正において、その資本組入れが許容され、利益から資本への流れが生ずる可能性が出てきた。なお、もう一方の資本から利益への流れが許容される可能性は低いものと考えられるが、会社法における欠損の額の填補や企業会計における負の残高になった利益剰余金の填補については可能であることから、その填補後、会計処理にもよるが、将来の利益により回復したその他利益剰余金に資本性のものが事実上含まれてくる可能性があると考えられる。また、会社法施行前において利益準備金には資本性の金額が組み入れられていたことは紛れもない事実である。
     さらには、上記イの配当税制の適用範囲の拡大を念頭に置けば、外国の法令に目を転じる際に、「資本剰余金」というメルクマールに関すれば、外国法令上の資本性の金額と利益性の金額との峻別状況の確認は極めて不透明とならざるを得ず、今後の執行可能性に大きく影響するものと想定される。
  3. ハ 私法基準によることへの疑問
     これらを前提に、丸1私法上の利益剰余金から資本剰余金へのシフトが可能な中、混合同時配当の原資の全額が資本剰余金となれば、資本金等に対応する部分の金額が算定され、その差額の額がみなし配当となる。逆に、丸2私法上の資本剰余金からの利益剰余金への事実上のシフトが可能な中、混合同時配当の原資の全額が利益剰余金となれば、そのすべてが本来の配当となる。
     このことは、現行の配当税制が、プロラタ方式において会社法上の「剰余金の配当の額」ではなく「減少した資本剰余金の額」(細目化された私法基準)を用いる限りにおいては、株式発行会社が選択可能性を有するものである。個人株主及び法人株主に対する税制上の取扱いに差異がある中、その差異に着目して恣意的に用いられることが危惧されるものである。これは、税の取扱いにおけるイニシアティブが納税者サイドにあることを意味するものである。課税実務上、疑問なしとはしない。

(5)考察から見出される見直しの視点

     
  • 上記で考察した疑問を払拭するためには、何らかの見直しが必要になると考えられ、その際には、新たな見直しの視点として、みなし配当について固有に認められているプロラタ方式の本来の適用場面や、配当課税における恣意性排除のための私法基準と税法基準との関係などについても検討すべきものと考える。
     そのような視点に立てば、プロラタ方式の本来の適用場面は、株式発行法人の株主から「離脱・脱退」するような一部清算型が適合するものであること、従前の株式の消却や自己株式の取得に一律にプロラタ方式を適用することはそぐわないこと、恣意性の排除のためには基準を統一する必要があること、株主たる地位に変動がない場合には先に留保利益の存在を認識すべきことなどが考えられた。

(6)新たな視点に立った配当税制の構築可能性

  1.  このような見直しの視点を踏まえれば、例えば、次のような順序立てた対応策も検討すべきものと考えられる。
    1. イ 私法基準へ転換する対応策
       全世界に点在する外国子法人からの利益還流に関してその配当税制として適用範囲の拡大をみせていることは、その執行上、より困難性を増すことが多くなる。そこで、執行の簡便性をより一層重視する観点から、私法基準に依拠することも考えられる。しかしながら、より一層納税者の恣意性や選択可能性を増大化するものとなり、課税の公平・適正化の観点からは逆行することになりかねず、現実的な対応としては難しさが残る。
    2. ロ 税法基準へ転換する対応策
       私法基準に依拠するという要素を排除するためには、本来の配当規定とみなし配当規定とに区分されている「剰余金の配当」を統合して、剰余金の配当に対してすべからくプロラタ方式(一定期間のプロラタ方式の構成割合を統一する方法)を適用することも理想的とも考えられるが、現行の「本来の配当規定」に適用対象とする配当は膨大なものであり、事務負担等の観点から、極めて現実的でない。
       課税上、「剰余金の配当」の中に資本性の金額と利益性の金額とが混在するものであることを前提として、清算型でない「剰余金の配当」に対しては、「株主たる地位」を有する限りにおいて、先に株式発行会社からの資本の払戻しとしての課税の繰延べを認めることは実現主義の観点から問題があり、株式投資に係る果実たる「配当」が優先的に実現したものと認識する必要がある。さらに、配当は二重課税の調整措置を講ずる必要のある税法基準の「課税済の利益積立金額」である必要がある。
       そこで、具体的に、株主平等原則下において、株主構成比が維持される「剰余金の配当」に対しては、まず、丸1株式発行法人の利益積立金額(税法基準)を限度にしてすべて配当として取り扱い、次に、丸2利益積立金額(税法基準)が零になった場合は資本金等の額(税法基準)を限度にして資本金等に対応する部分の払戻しとして取り扱い、さらには、丸3資本等の額(税法基準)が零となった場合は将来の利益の配当の支払とする。
       なお、従来の株主構成比が変更される場合は、現行のプロラタ方式による清算型のみなし配当規定は維持する。自己株式の取得に関しては、上記の株主構成比の維持・変更される場合の概念を導入し、特に、株主構成比が変わらない親会社の株式譲渡損の計上を先送りするとともに、法人株主側に受取配当等の益金不算入規定の適用による恣意的な欠損金額の発生を防止することが肝要である。受け手側の株主が法人株主であり、かつ、株式発行法人に対して一定の支配権等を有するものである場合には、一定の取引に対して、取得価額基準を復活させるなどの対応策も必要である。

3 結びに代えて

     
  • 現行の配当税制の対象とする「配当」等の枠組みは、商法改正や会社法施行が大きくゆらぎを見せる中、的確な対応を採ってきた成果を残すものであり、併せて合理的な考え方の下で考察されたものであると考えられるが、本研究で考察したとおり、すべての事象には必ずしも対応しきれるものではないと考える。配当課税の適正化の観点から、変容する制度の下での会社の行動の実態を見つつ、必要に応じて見直しの検討は行わなければならないと考える。今後、会社法及び企業会計とのかかわりあいを念頭に置きつつ、本研究で検討した見直しの視点も参考として、税制上の整合性を保つことを目指した税制の再構築を図っていくことが必要と考える。

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