原 武彦
税務大学校
研究部教授
金融所得課税の一体化(本要約において、以下「一体化」という。)は、更に推進することとされていることから、今後、一体化を進めるに当たっての論点と在り方を検討するものである。
なお、この一体化は、基本的には、個人(主に居住者)の金融所得に対する所得税等の課税に関するものであると言える。
検討に当たっては、政府税制調査会金融小委員会における議論・報告、その後の税制調査会における答申、経済産業省及び金融庁の審議会・研究会での議論・報告、租税法学者の議論、各研究会や経済界からの提言、金融所得に対する課税の現状と最近の税制改正の状況、主要国における制度等を確認し、今後の一体化に向けての論点と在り方を示すとともに、税務執行上の問題点やその解決策についても検討する。
経済財政諮問会議で取りまとめられ、平成13年6月26日に閣議決定された「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」(いわゆる「骨太の方針」)には、「従来の預貯金中心の貯蓄優遇から株式投資などの投資優遇へという金融のあり方の切り替えや起業・創業の重要性を踏まえ、税制を含めた諸制度のあり方を検討する」と記載され、「貯蓄から投資」への方針が打ち出された。
そして、平成15年6月の政府税制調査会の中期答申「少子・高齢社会における税制のあり方」においては、「今後、金融所得課税をできる限り一本化すべきである」との方向性が示された。これを受けて税制調査会金融小委員会において平成15年10月から検討が進められ、平成16年6月には同委員会から一体化についての基本的考え方が報告さている。また、同時期に、経済産業省産業構造審議会産業金融部会小委員会、金融庁の金融税制に関する研究会でも同様の議論がなされ、報告書が公表されており、内容を整理し、紹介する。それぞれ、考え方について相違が見られるが、一体化を推進するとの方向では、おおむね一致している。
(注1) なぜ、税率を20%とするのかについては、利子所得を一律20%の税率による分離課税とする改正法案の国会の委員会での審議において、最低税率は国税10.5%、地方税5%である中、利子所得としては、平均的なケースを考えると、勤労性所得、給与所得の上積みとしてあるので、所得税の税率構造等を考えると、国税、地方税合わせて20%が適当である旨説明されている。
(注2) 例えば、平成17年6月の税制調査会基礎問題小委員会「個人所得課税に関する論点整理」では、給与所得(給与所得控除の見直し、特定支出控除の拡大)、退職所得(2分の1課税の見直し)、事業所得(適切な課税確保)、譲渡所得(2分の1課税の見直し)、一時所得と雑所得との統合、不動産所得(廃止)、年金所得の雑所得からの独立などが挙げられており、一体化の議論とは別に今後引き続き検討されるべきであると考える。
(注3) 銀行預金口座7億7,474口(平成20年9月末)、信用金庫預金口座1億4,644口(平成20年9月末)、郵便貯金4億1,477口座、枚(平成18年度)。
一方、公社債の利子や公社債投資信託の収益の分配等に係る利子は、源泉徴収は維持して、20%の税率による申告分離課税の選択制度を創設し、申告による一体化の対象に含めることが適当であると考える。これにより、平成21年から導入されている上場株式等の配当の申告分離課税制度ともバランスが取れるものと考える。
(注4) 配当所得の損失について、他の所得との損益通算が認められなくなったのは昭和36年の税制改正からであるが、当時の税制調査会の答申では、無配の株式取得のために巨額の負債を負い、多額の配当の損失を生じさせ、損益通算を行う事例の発生、
株式を取得するために要した負債の利子か他の家事上の負債利子かの税務上の認定が困難である点等が指摘されている。
申告分離課税を選択した公社債等の利子や配当所得について、制度論としては一定の必要経費を認める余地はあると考えられるが、上記のような経緯及び租税回避防止等の観点を踏まえると、いずれもその損失の他の所得との損益通算については制限することが適当であると考える。
また、雑所得についても、その損失を他の所得から控除することを認めない現在の制度を維持することが相当であると考える。
ただし、株式等の譲渡(公社債等の譲渡による所得を課税対象とする場合の公社債等の譲渡を含む。)に係る雑所得については、株式等の譲渡に係る譲渡所得に対する課税と同様とすることが適当であると考えられることから、その損失については、一体化の対象とする利子所得、配当所得及び他の雑所得等(いずれも申告分離課税を選択したものに限る。)からの控除を認容する。
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