長谷部 啓

税務大学校
研究部教授


要約

1 研究の目的

 経済活動のグローバル化等に伴い、外国の法律に基づいて設立された様々な事業体(外国事業体)が我が国で事業を展開し又は対内投資を行い、国内源泉所得を稼得しており(インバウンド)、また、一方において、我が国の法人及び個人(以下「投資家」という。)が海外での事業展開や対外投資に当たって、様々な外国事業体を活用する例(アウトバウンド)が増加してきている。
ところで、我が国の法人税法では、法人(法人格を有する事業体)と人格のない社団等を法人課税の対象とし、組合については、組合員に直接課税(構成員課税)することとされている。そのため、インバウンドの場面においては、その外国事業体が我が国の租税法上、法人、人格のない社団等又は組合のいずれに分類(性質決定)されるかにより課税関係が異なってくるが、法人税法等には「法人」そのものの定義がなく、私法上の概念に依拠しているため、その判断等を巡り争訟事案も生じている。
また、米国をはじめとして諸外国の租税法では、事業体の法人格の有無と事業体としての納税義務の範囲がリンクしていない場合が少なくないため、アウトバウンドの場面においては、我が国の租税法では法人と判定される外国事業体であっても、現地では構成員課税される場面等が生じ得る。その場合には、当該外国事業体の構成員である投資家において、外国事業体から配賦される損益(所得)の帰属時期及び所得区分の判定や、外国で課された租税に係る国際的二重課税の調整の在り方などが問題となるが、その方向性が必ずしも明確にされていない。
そこで、これらの諸問題の解決の方向性を考察する。

2 研究の概要

(1) 我が国の租税法における外国事業体の性質決定の在り方

イ 租税法上の外国法人の意義と法人該当性の判断基準
我が国の租税法には「法人」の定義規定が置かれていないため、一般的な国際私法の考え方に従い、外国事業体が我が国の私法上どのように評価されるかによって租税法の適用関係を決するのが相当であると考えられるが、これにより租税法上の外国法人の意義を検討すると、次の点を指摘することができる。

1 民法上、一般に法人とは「自然人以外のもので権利義務の主体たる地位を有するもの」を言い、この権利義務の主体となることのできる法律上の資格を「法人格」と称されている。

2 いかなる国の法律が社団又は財団の法人格を決定するかについては、今日では、設立準拠法とするのが通説である。したがって、外国事業体が法人格を有するかどうかはその設立準拠法により判定するのが相当である。

3 民法第36条は、外国法人について、国、国の行政区画及び商事会社に限り認許する旨を規定しているが、この規定は外国の法律により有効に成立した法人が我が国において法人(権利義務の主体)として活動することを承認する事業体の範囲を定めたものであり、外国事業体がこの規定により認許されない場合であっても、当該外国事業体が外国の法律によって有効に成立し、設立準拠法において法人格が付与されていれば、その法人格そのものが否定されるものではないと解するのが通説である。したがって、同条では内外法人の区別の基準に関して設立準拠法を採用しており、また、民法において単に「外国法人」という場合には、認許の対象となる事業体かどうかにかかわらず、外国の設立準拠法において法人格が付与された外国事業体を指すと解することができる。

4 以上の民法上の法人概念を前提として租税法上の外国法人の意義を明らかにすれば、「外国の法律によって設立され、その設立準拠法において法人格が付与された事業体」ということができる。したがって、外国事業体が我が国の租税法上、外国法人に該当するかどうかは、外国事業体が設立準拠法において法人格が付与されているかどうかで判定することとなり、設立国の租税法上、法人課税又は構成員課税のいずれの適用を受けているかによって左右されない。この点については訴訟事案においても同様に判示されている。
なお、会社法上の外国会社には、外国の法令に準拠して設立した法人以外の団体も含まれるため、租税法上の外国法人の範囲とは一致しない。

5 ところで、外国事業体の設立準拠法によっては、外国事業体が法人であることや法的主体性を有する旨の直接的な規定が置かれていない場合が少なくない。そのため、その場合に事業体のどのような属性により法的主体性の有無を判定するかが問題となる。
我が国の会社法では合名会社から株式会社まで多種多様な属性を有する会社をすべて法人としているため、外国事業体を法人と判定するための属性を何に求めるかは必ずしも容易ではない。ただ、すべての法人が共通して有している属性として、(イ)自己の名において権利を取得し義務を負うこと、(ロ)訴訟当事者能力を有すること、(ハ)自己名義の債務にしか強制執行を受けないことの3点が挙げられるので、これらの属性を中心に判定するのが妥当であると考える。なお、法人税法が原則としてすべての法人を法人課税の対象としている理由が法人形態での事業活動から生じた所得(財産)は法人そのものに帰属するという点にあるという考えに立てば、「財産の帰属面における構成員からの独立性」も重要な判断要素とすべきであると考える。

ロ 法人格を有しない外国事業体の租税法上の性質決定と課税方法
設立準拠法において法人格を有しないと判定された外国事業体については、社団(財団)性の有無、財産の構成員からの独立性の程度、事業の法的主体者、業務執行権を有する構成員の範囲、事業体の債務に対する構成員の責任の態様等に関する法律関係から、我が国における人格のない社団等、民法・民法特例法上の各種組合又は商法上の匿名組合のいずれの事業体に最も類似するかを個別に判定し、その類似する事業体に係る課税と同様に課税するのが相当であると考える。

ハ 現行租税法上の法人概念の性質決定における問題点
現行法の下で、外国事業体の性質決定を私法上の法人等の概念に依拠して個別に判定する場合には、納税者において相当の労力と課税リスクを伴う。また、社団(財団)が法人格を取得し得る要件は、各国の立法政策の問題であり、諸国の法律上一様ではないため、そのような多種多様な外国の法律(外国事業体の設立準拠法)における法人格の有無を唯一の基準として我が国の租税法上の法人該当性を判断する場合には、経済実態が類似する事業体に対して異なる課税を行うという事態も十分に起こり得る。そのため、法的安定性、課税の中立性を高める観点から、私法上の概念を基本としつつ、外国事業体の性質決定に係る税法固有の判断基準を法制化することも検討していく必要があると思われる。
なお、外国事業体の性質決定の技術的な困難性等を理由に、米国の税制に倣いチェック・ザ・ボックス方式を導入すべきであるという意見もあるが、これを認めると、納税者の選択によって税負担が左右されることや、選択制を利用した課税上の取扱いの食い違いを作り出し、それにより課税を免れるという国際的租税裁定(tax arbitrage)の機会が増大するとの指摘があり、また、小規模な内国法人との整合性の問題もあるため、慎重な検討が必要である。当面は、我が国の組合事業に係る組合員課税(構成員課税)の基本ルールを整備し、法令においてこれを明確にすることの方が重要な課題であると考える。

(2) 各国租税法上の法人概念の相違に起因する国際課税等の諸問題

イ 投資家が、我が国で法人と判定されるが現地では構成員課税される外国事業体に出資した場合の課税問題

1 投資家に配賦される損益に係る所得の帰属時期及び所得区分
現地においては、利益の分配の有無にかかわらず、損益分配割合に応じて各構成員に損益が配賦されるが、外国事業体が我が国で法人と判定される以上、我が国の法人課税の基本的なメカニズムである、イ)利益が法人に留保されている間は投資家には所得は生じない、ロ)法人から受ける分配はプラスの利益に限られ、マイナスの損失は認識されない、ハ)法人から受けた利益の分配は、投資家では「配当」として性質決定されるという原則は、外国事業体が現地において構成員課税を受ける場合であっても同様に取り扱うのが相当である。したがって、外国事業体から損益が配賦されても、その時点では所得(損失)を認識せず、実際に利益が分配されたとき(具体的には、利益の分配の効力を生ずる日又は分配の決議の日)に、それを「配当」として課税するのが相当である。

2 タックスヘイブン税制の適用関係
外国事業体が稼得した所得は構成員にパス・スルーされるため、外国事業体が自己の名で法人税を納付することはない。そのため、外国事業体がタックスヘイブン税制における投資家の特定外国子会社等と判定され、外国事業体に留保された利益について合算課税されるかという問題がある。
これについては、同税制が国際的な租税回避に対処するための制度として創設されたものであり、本件のような場合にまですべからく合算課税することを予定していたとは考えられないことから、外国事業体が法人課税を受けたと仮定した場合に同税制が適用されないようなものについては、同税制の適用はないとするのが相当である。

ロ 我が国において投資家に構成員課税する場合の課税上の諸問題
外国事業体が我が国で組合類似の事業体と判定される場合には、外国事業体が現地でいかなる課税を受けるかにかかわらず、我が国では、損益分配割合に応じて投資家に対して構成員課税することとなる。この場合において、その外国事業体が我が国のどの組合に最も類似すると判定するかによって、投資家の所得計算や所得区分に差が生ずる。その判定は投資家がまず行うこととなるが、適正な課税を行うためには、当局が外国事業体の性質決定や所得計算の適否を判断し得る手段を確保する必要がある。そのため、我が国の有限責任事業組合等における「組合員所得に関する計算書」の提出義務に相当する措置として、投資家に対して、外国事業体の組成に関する規約や損益配分に関する通知書等の写しの提出を義務づける必要があると考える。
また、外国事業体からの損益の配賦は現地の法令等に従って行われるのが一般的であることから、投資家に配賦された損益の額がそのまま我が国での所得の額とはならず、我が国の法令等に従ってこれを修正する必要がある。しかしながら、例えば、現物出資資産について課税の繰延べを認めている米国のパートナーシップから配賦された損益について、これを繰延べがなかったものとして所得の再計算を求めることは技術的に到底困難であると思料され、また、所得金額の修正に必要な情報が外国事業体から必ず提供されるとは限らないといった問題もある。そのため、外国事業体から配賦された損益に係る所得計算については、国内の組合に出資した場合と区分し、ある程度弾力的・簡便的な計算を容認することも必要であると考える。

ハ 外国税額控除の適用を巡る問題
投資家が、1我が国で法人と判定されるが現地では構成員課税を受ける外国事業体に、又は2我が国で組合類似の事業体と判定されるが現地では法人課税を受ける外国事業体に、それぞれ出資した場合には、我が国の租税法上の所得の帰属者(1は外国事業体、2は構成員)と外国事業体が稼得した所得に対して租税を課される者(1は構成員、2は外国事業体)とが異なってくる。そのため、当該租税について、投資家が我が国で外国税額控除を受けられるかどうかが問題となる。
これについては、我が国の租税法では、外国税額控除は名義人主義を採用しており、所得の帰属者が自己の名において租税を負担していないとして消極的に解する考え方もあろうが、国際的二重課税が現実に生ずること、所得税法には間接税額控除制度がないことにも配意し、出資形態の区分に応じ、次の方向で二重課税の調整を認める法令上の措置を講ずるのが相当であると考える。

1 「日本=法人・外国=構成員課税」の外国事業体に直接出資した場合
現地では構成員に所得が直接帰属するとして構成員に租税が課されるものであり、また、外国事業体から実際に利益の分配を受けた時点で我が国でも投資家に課税する(それによって、国際的二重課税は投資家に生ずる)のであるから、直接税額控除の適用を認める。ただし、利益が外国事業体に留保された場合には、その留保利益は分配を受けるまでの間、我が国で課税が繰り延べられるため、外国税額控除だけが先行して適用されることを排除するための措置が必要である。

2 「日本=組合類似事業体・外国=法人課税」の外国事業体に直接出資した場合
我が国で投資家に構成員課税するということは、外国事業体が稼得した収益、費用のいずれも損益分配割合に応じて投資家に直接帰属するものとして取り扱うことを意味する。したがって、外国事業体の名で納付した租税についても、その割合に応じて投資家が租税を直接負担しているとみて、直接税額控除の適用を認める。

3 現地の外国子会社を通じて上記1又は2の外国事業体に出資した場合
投資家と外国事業体は直接的にはクロスボーダーの関係にないので、外国子会社又は外国事業体の所得として課税する現地の租税法に従う。その結果、投資家が法人の場合には、外国子会社から配当の支払いを受けた段階で間接税額控除の適用が認められ得る。

ニ 租税条約の適用を巡る問題
国家間で事業体の課税上の取扱いが異なる場合の租税条約上の特典(租税の軽減又は免除)の適用については、近年、米国等3カ国との間の租税条約において明確化が図られてきている。しかしながら、例えば、第三国で組成された外国事業体が介在した場合に、日本・米国等3カ国間租税条約と日本・第三国間租税条約とのいずれが優先適用されるか(又は有利な方を選択できるのか)などの諸問題について明確な指針を示す必要があるなど、国内法(又は取扱い)において整備すべきものが残されていると思われる。

3 結論

 現行税制の下では、外国の設立準拠法に基づいて外国事業体の法人該当性を判定せざるを得ないが、当該設立準拠法を唯一の基準とした場合には、課税の中立性の面で問題がある。そのため、この問題を解決する観点から、私法上の概念を基本としつつ、法人として課税されるのに必要な税法固有の判断基準を法令で措置することを検討すべきである。そして、当面の執行上の対応として、主要な外国事業体について、その法人該当性及び類似の内国事業体に関する情報を積極的に公表し、納税者の判定の簡便性、予測可能性を高める必要があると考える。
また、外国事業体から配賦された損益について、我が国で投資家に構成員課税する場合の課税ルールが不明確な状態にあることから、まず、国内の組合事業から生じた損益に係る「組合員課税の基本ルール」を早急に法令等で定めることとし、その中で、外国事業体の場合に生ずる固有の問題についてもその取扱いを明らかにしていく必要がある。
さらに、国際課税に関する諸問題については、国際的な二重課税の調整に主眼を置きながら、上記2に記載した事項について、所要の法令上の整備ないし取扱いの明確化を図り、税制等が外国事業体の活用を阻害している等の批判を受けることのないよう配意していく必要がある。

Adobe Readerのダウンロードページへ

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。Adobe Readerをお持ちでない方は、Adobeのダウンロードサイトからダウンロードしてください。

論叢本文(PDF)・・・・・・626KB