高倉 明

税務大学校
研究部教授


要約

1 研究の目的

 包括的所得概念の下では、各種所得の金額の計算上生じた損失は他の所得と広く損益通算されることが望ましいが、損益通算制度の変遷をみるとその範囲はむしろ縮小されてきたといえる。
近年においては、組合事業から生じる損失を利用して節税を図る動きが顕在化していることから、平成17年度税制改正において特定組合員の不動産所得に係る損益通算を制限する措置がなされている。このように、損益通算制度はその時々に発生した事案等に対応するための対症療法として改正が行われたことなどから、当該制度が復層化し、そこに理論的枠組みが見出し難い状況にある。
所得税法は、所得を10種類に分類した上それぞれ計算し、さらに損益通算の手続きを経て総所得金額等を算出することとしている。これは、納税者個々の担税力に基づく課税を実現しようとする趣旨に基づくものであるが、こういった趣旨あるいは現在の経済社会に現行損益通算制度が適しているのかを検討し、そのあり方を考察する。
特に、損益通算制度はタックス・シェルターのツールとなっていることが指摘されており、この点に関して整理・検討の上問題点を明らかにし、その下で立法論的な解決策を模索することとしたい。

2 研究の内容

(1) 損益通算制度の変遷
昭和22年の所得税法の改正においてはじめて損益通算制度が定められた。所得を9種類(利子、配当、臨時配当、給与、退職、山林、譲渡、一時及び事業所得)に分類し、事業所得及び配当所得の計算上生じた損失は、経常的な所得の範囲内で控除し、山林所得及び譲渡所得の計算上生じた損失は、その臨時的な所得の相互の間で控除が認められていた。一時所得は、その損失を他の所得から控除すること及び他の所得の損失を一時所得から控除することも認められていなかった。また、経常的な所得と臨時的な所得との間の通算については特に規定がなかったが、山林所得又は譲渡所得の損失の半額に限って経常的な所得からの控除が認められると解されていた。
シャウプ勧告に基づく昭和25年の改正において雑所得が所得区分に加えられ、一時所得の計算上生じた損失を除き、損失の金額は他の各種所得の金額から控除することができるとされ、損益通算の対象は広く認められていたといえる。
その後損益通算制度は、主として次のような改正がされている。

まる1 昭和36年の改正において、配当所得の金額の計算上株式等の取得のために要した負債の利子は、配当所得の総収入金額を限度として控除し、控除し切れない負債の利子は、他の所得から控除しないこととされた。

まる2 昭和36・37年の改正において、継続的な行為に基づく所得であっても、個人の趣味又は娯楽のための行為又は生活に通常必要でない資産に係る所得の計算上生じた損失が損益通算の範囲から除かれた。

まる3 昭和43年改正において、雑所得の金額の計算上生じた損失は損益通算の対象から除かれた。

まる4 昭和63年12月の改正において、株式等の譲渡所得等については原則非課税であったが、租税特別措置法の規定により原則課税(申告分離課税)とされ、その譲渡等の所得の金額の計算上生じた損失の金額はなかったものとみなすこととされた。

まる5 平成3年の改正において、不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額のうち、必要経費に算入した不動産所得を生ずべき業務の用に供する土地又は土地の上に存する権利を取得するために要した負債の利子の額に相当する部分の金額は生じなかったものとみなすこととされた。

まる6 平成13年の改正において、商品先物取引に係る事業所得及び雑所得の金額の計算上生じた損失の金額は生じなかったものとみなすこととされた。

まる7 平成16年度改正において、土地等又は建物等の譲渡による譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額は生じなかったものとみなすこととされた。

まる8 平成17年度改正において、不動産所得を生ずべき事業を行う民法組合等の特定組合員に該当する個人の不動産所得の金額の計算上その組合事業から生じる不動産所得の損失額はなかったものとみなすこととされた。

(2) 損益通算制度のあり方
わが国の所得税は、もともと所得源泉説に基づくヨーロッパの分類所得税の考え方が採用されていたが、戦後のシャウプ勧告によって包括的な所得税とされた。そして、課税対象とされているすべての所得を総合し、それに一本の累進税率を適用する総合所得税が採用された。
その後、租税特別措置によって課税ベースが狭められるなどシャウプ税制はある面では後退したが、現行所得税法は昭和25年法と同様に、所得を利子所得ないし雑所得の10種類に分類し、特に課税除外されていない限りすべての所得に対して課税することを建前としている。
包括的所得概念においては担税力を増加させるすべての経済価値が原則として所得を構成すると解されており、総合所得税の建前からマイナスの経済価値は担税力を減殺する要素として認識され、この点において損益通算制度が機能している。当初の制度においては損益通算の対象は広く認められていたが、上記のように範囲は狭められてきた。その経緯等については次のように整理できよう。

イ 配当所得
配当所得に係る損失を損益通算の対象から除外した理由は、「無配の株式を取得するために巨額の負債を負っている者が、たまたま他に少額の有配の株式を有することによりその配当の収入金額から負債利子を控除して多額の配当所得計算上の損失を生じせしめ、これを給与所得等から控除している事例が発生している。元本価値の値上がりを期待して投資される株式の性格を考えると、負債利子のうち相当部分は、現在一般的には非課税とされる株式の譲渡所得に対応すべきものと考えられ、また、家事費上の負債の利子が混入する危険性もある」とするものであった。
負債の利子のうち相当部分は株式の譲渡所得に対応すべきものとしているが、投資財産である株式については配当所得と譲渡所得双方の採算を考慮して保有するものとの指摘もあろうし、また、現行制度においては株式等の譲渡所得を原則課税とし、負債の利子は譲渡所得に対応する部分を当該譲渡所得から控除することとしている。次に、負債の利子に家事費が混入する危険性については、事業所得、不動産所得についても同様のことがいえるのであり、株式の譲渡等の所得を別途の扱いとする理由もないから、これらの理由によって配当所得の損失を損益通算の範囲から除外することには疑問がある。
そうすると、現行制度の下、前年以前から保有し又は本年購入した株式でその年中に譲渡しなかった株式を取得するために要した負債の利子が配当収入を超えた場合は担税力が減殺する要素として認識することもできる。
しかし、損益通算を認めた場合、株式の保有が譲渡益又は配当を得る目的ではなく、租税回避行為として他の所得から負債の利子を控除する手段ともなり得るものである。負債の利子が配当収入を超える場合または無配の株式に係るものである場合、その負債利子は担税力を減殺する要素となる反面損益通算を認めることが公平な課税を阻害する手段ともなるから、これらのバランスを考量をせざるを得ないのである。

ロ 生活に通常必要でない資産
次に、生活に通常必要でない資産に関する所得の計算上生じた損失については、趣味ないし娯楽から生じた損失であり、その消費という所得の処分的性格から損益通算を認めないとするものであり、担税力を測定する手続きにおいて家事費を除外する趣旨と同様である。

ハ 雑所得
雑所得を損益通算の対象から除外した理由は、まる1もともと雑所得は事業所得や給与所得のような典型的な所得分類に入らない所得を包括する分類であって種々の態様のものを含んではいるものの、全体としてみた場合必要経費がほとんどかからないか、またはかかっても収入を上回ることのないものが大部分であってこれらについては損益通算の実益がないこと、まる2またその他の種類の所得である程度支出を伴うものについても、その支出内容に家事関連費的な支出が多いのが実情であって、これについて損益通算の制度を存置する場合にはかえって本来の所得計算のあり方について混乱を招くおそれもあると考えられることによる。
現在においても雑所得の太宗は上記改正理由にあるような実態にあろう。一方、雑所得を損益通算の対象から除外することは、総合所得税の理念を不十分にしか実現していないとの指摘があるが、損益通算の適用を厳格化するためには、バスケット・カテゴリーとされる雑所得の細分化を要することにもなり現実的とはいえないであろう。

ニ 株式等に係る譲渡所得等、先物取引に係る所得、土地等の譲渡所得等
他方、株式等や土地等の譲渡又は先物取引に係る雑所得に係る損失はどう考えるべきか。雑所得に係る損失の損益通算を認めない理由は「その支出内容に家事関連費的な支出が多いのが実情」にあることなどだが、これらの損失は投資に伴うリスクであり家事費とはいえないからである。また、株式等や土地等の譲渡所得についても総合課税の下にあるならばその損失は他の所得から控除されることが望ましいであろう。しかし、これらは政策上の要請から比例税率による分離課税とされており、その損失を累進税率が適用される所得と通算することは適当ではないと考えられる。

ホ 土地等を取得するために要した負債の利子
この特例は、平成2年10月の税制調査会「土地税制のあり方についての基本答申」において、「近年、マンション等を借入金により購入してこれを貸付けることにより不動産所得に係る損失を生じさせ、…不公平感を高めているだけでなく、不要不急の土地需要を生み出す地価高騰の一因となっている…。」と指摘されたことに伴い措置された。
法人税においては、昭和63年の改正で「借入金による土地取得を通ずる企業の租税回避行為に対処し、あわせて土地の仮需要の抑制を図る観点から」「新規取得土地等に係る負債の利子の課税の特例」が創設されたが、平成10年の改正で法人の土地譲渡益に対する追加課税制度とともに廃止されている。その理由は「近年における土地を巡る状況や現下の経済状況にかんがみ、土地税制全体の見直しの一環」であり、特例措置が経済状況等の変化に伴ってその役目を終えた例といえよう。当特例については、政策目的の合理性又は法人税における措置との整合性が指摘されよう。

3 結論

 損益通算制度の変遷をみると、配当所得に係る損失は租税回避の手段となる危険性が高いこと、生活に通常必要でない資産に係る所得及び雑所得(土地等、株式等の譲渡及び先物取引に係る雑所得を除く。)の損失は所得の処分的性格又は家事上の費用であること、株式等、土地等の譲渡所得等と先物取引に係る所得については、特別措置による分離課税とされたことに伴うものであることから、これら損益通算の制限は、担税力を算出する過程において要請される計算技術上の措置又は政策上の要請に伴ってなされた措置と評価することができる。
以上のことから、現行法が一時所得の損失など一部のものを除き、すべての所得の損益を通算する考え方は、すべての所得を総合したところで担税力を測定し累進税率を適用する所得税の基本的建前からみれば原則的には維持されるべきであるところ、現在においてこの考え方が変更されたものではない。したがって、損益通算制度は今後ともその機能を維持すべきであり、租税特別措置による損益通算の特例も政策目的の合理性等の検証を前提とし、原則として維持されるべきものと考える。
なお、現行損益通算制度に関しては、さらに次の論点を指摘することができる。

(1) 譲渡所得
長期譲渡所得は、原則として損失の全額が損益通算の対象となるのに対し黒字の所得はその2分の1が課税対象とされ、不均衡であるとの指摘がある。すなわち、これら資産が業務用資産である場合の減価償却費の税額への影響(税額が減少)は、その費用計上した所得計算期間の所得金額に係る限界税率によることとなるが、当該資産を譲渡する場合に課税される所得は、譲渡収入から取得費を控除した後の金額の2分の1となるから、取得費から控除する累計減価償却費の税額への影響(税額が増加)が同様に2分の1にとどまることとなる。
航空機などのリースによるタックス・シェルターは、減価償却費等の計上により生じる損失と所得の繰延べによって生ずる譲渡所得が軽課される効果の双方を組み合わせたスキームということができる。また、譲渡所得は、上記2分の1課税の問題のほか、経常的な所得と異なり、その実現のタイミングを選択することが可能であることから、租税回避に用いられ易いとの指摘もある。
譲渡所得は、包括的所得概念の立場からは全額課税し、その損失も全額控除することが望ましい。そして、長期間の蓄積が一時に実現する所得という性質から、譲渡益については累進課税を緩和する平準化措置を講じ、譲渡損は一定額を限度に一定期間繰越して控除するなど、譲渡益と譲渡損の取扱いの均衡を図ることを要すると考えられる。

(2) 金融所得課税の一体化
少子・高齢化社会が急速に進展する中、金融資産を効率的に活用することがわが国経済の活力を維持するための鍵であり、そのために「貯蓄から投資へ」の構造改革が進められてきている。
「金融所得課税の一体化」は金融資産の中で損益通算の範囲を広げていくことにより各金融資産の課税の中立性を図り、個人投資家のリスク資産への投資を促進しようとするものである。
このため、金融資産から生ずる利子、配当、雑、譲渡及び一時の各所得の黒字と赤字の金額について政策的に損益通算を認めていこうとするものだが、損益通算制度のあり方と「貯蓄から投資へ」という政策目的のバランスをいかとるかが大きな問題となろう。
一定の期間をかけて生じた含み損益が任意の時期に実現する譲渡所得と利子や配当のように経常的に実現する所得との損益通算、又は比例税率で分離課税される所得と累進税率が課される所得との損益通算は一定の制約を受けざるを得ないが、できるだけ広い範囲で損失の控除を認め、簡素でわかり易い税制を構築しなければならない。また、申告者数が増加することやマッチングなどの執行上の課題をクリアすることが実効ある制度の要件であるから、簡易な課税制度の設計とともに環境の整備に必要かつ十分な措置を講ずる必要がある。

(3) 不動産所得の見直し
不動産所得は、不動産所得を生ずべき事業と事業以外の業務とに区分し、前者については事業所得と、後者については雑所得と同様の取扱いがなされている。これは平成元年に廃止された資産所得の合算課税制度における資産所得の範囲を確定するために設けられたものであり、かような実態からすれば、独立の所得区分としての不動産所得を廃止することを検討すべきとの議論がなされている。
不動産所得を廃止し、業務的規模の不動産賃貸に係る所得を雑所得に区分するとした場合、損益通算を利用するタックス・シェルターの防止に効果があると考えられる。しかし、一般的な不動産賃貸業務を行う納税者にとっては、その損失が損益通算の対象から除外されるほか、青色申告者に係る特典、資産損失、貸倒れ損失の取扱い及び記帳義務等への影響があり、さらに所得区分の変更に伴って、雑所得内における通算の仕組みや公的年金の課税など課題が広範に及ぶことから、慎重に整理・検討していく必要がある。

(4) タックス・シェルターへの対応
タックス・シェルターに係る損失はその所得区分が事業所得や不動産所得に該当した場合は損益通算制度の対象となるが、そのことは所得税法の趣旨・目的に適合するものであるかどうか、そうでなければ、具体的にどのような対応をすることができるのか検討する。

イ 損益通算を制限する根拠
タックス・シェルターによって創出された損失は経済的負担能力たる担税力を減殺するものではないことが明らかであろう。これは所得税法上の必要経費等に関わる規定に原因があるかもしれない。
他方、所得税法は、各種所得金額や総所得金額を算出する手続きを経て客観的に納税者の経済的な担税力を算出することとしており、損益通算はその手続きの一つである。そして、損益通算の規定において、趣味ないし娯楽から生じた損失であり、その消費という所得の処分的性格から「生活に通常必要でない資産に関する所得の計算上生じた損失」を排除していることは、担税力を算出する過程においてこれと無関係な要素を計算から除外する趣旨と解することができる。
タックス・シェルターに係る損失は「生活に通常必要でない資産に関する所得の計算上生じた損失」と同様、その所得区分に拘わらず、損益通算の適用を制限することがその趣旨に適合するのではなかろうか。

ロ 損益通算の範囲から除外する損失の具体的要件
しかし、タックス・シェルターに係る損失は担税力を減殺しないものとして損益通算を制限する場合、具体的に制限すべき損失の基準を担税力という概念に求めることは困難である。
そこで、政策によって一定の基準を設けることを要するものと考える。
具体的には、タックス・シェルターに係るプロモーターのキャッシュ・フローの予測に基づき、一定の金額(割合)基準を設け、これに該当するものについては損益通算を制限するものである。損益通算を制限する商品の基準を一定の数値により示すことから、納税者の予測可能性において明快な基準といえる。

ハ 具体的な基準
次の要件のすべてに該当するタックス・シェルターに係る所得金額の計算上生じた損失については一定の制限をする。
なお、基準として示した金額、割合等は仮置きの数値であるが、現行の所得税率等を考慮した場合、タックス・シェルターへの対応としてほぼ妥当な数値ではないかと考えている。

1 要件

(1)  プロモーター(※)によって販売・斡旋等される商品であり、その所得金額が損失となり「租税(所得税及び地方税の合計。以下同じ。)の減額効果」(下記【具体例1】参照)が伴うものであること。

※ プロモーター
コンサルタント、投資顧問等名称の如何を問わず、顧客にタックス・シェルターを販売又は仲介等することを業とする者。

(2)  当該商品に対する投資額が2,000万円を超えるものであること。

(3)  当該商品のキャッシュ・フロー(※)からみて、まる3「租税の減額効果」を主たる投資効果とし、かつ、当該商品に係る事業の利益に相当する金額(まる2まる1)の合計額が損失又はわずかな黒字のものにすぎないものとして、次のいずれかに該当するもの。

イ キャッシュ・フローの(まる2まる1)の金額が損失又零のもの。

ロ キャッシュ・フローのまる3に相当する金額に対する上記「イ」の金額の割合が10%に満たないもの。
ただし、「イ」の金額がまる1に対する年換算利率0.2%を超えるものは除く。

※ キャッシュ・フロー
プロモーターが投資家に対して説明する次の金額で、商品に係る事業の期間を通じた合計額。なお、事業の期間が5年を超える商品は5年間の合計額。

まる1 出資額

まる2 出資額に対する回収額(見積額)
事業から得られる賃貸料等、資産売却額等の収入額から借入金返済額、借入利息及び手数料等の諸経費を差し引いた額

まる3 租税の減額効果(見積額)

(注) 顧客は投資額に対する利益(率)((まる2まる1まる3)÷まる1)を吟味して購入するはずである。

2 その他の必要な措置

(1)  タックス・シェルターの届出義務
損益通算を制限する法令を根拠に、プロモーターに対し上記1の要件(1)、(2)に該当する商品の届出義務を課す。

(2)  事前の照会等
(1)のプロモーターに対し、当該商品について上記1の要件(3)についてその判定を求め、その上で要件に該当するものはその旨顧客に説明すること義務付け、要件に該当しないと判定したものはその根拠を添えてその旨国税当局に照会する(国税当局の回答を要する)。なお、結果として(予測外の事態の発生により)要件に該当することとなった場合は是正の対象としない。

(趣旨)
「税額の減額効果」や「キャッシュ・フロー」は投資の結果であり、事業が終了した後、要件に該当するか否かを判定することとなる。また、投資商品についてはそのリスクによりプロモーターの予測と結果が相違することはままあることであり、予測に反して要件に該当することとなった商品について遡って是正することは適当ではない。

(3)  損益通算を制限する金額
所得金額の計算上生じた損失のうち、損益通算から除外する金額は損失の全部又は一部、あるいはキャッシュ・フローの損失額などが考えられる。

【具体例1】
納税者甲(個人)はプロモーターのセールスにより、不動産リース業を内容とする商品Aを購入した。プロモーターの説明では、「甲は10億円出資し、別途10億円をノンリコースローンにより調達して20億円の不動産を購入する。外国の不動産賃貸会社に5年間これを賃貸し最後に当該不動産を売却して借入金を精算する。」という内容である。商品Aの(賃貸事業の)トータルのキャッシュ・フロー予測は黒字額400万円であった。商品Aを購入しなかった場合の甲の5年間の所得税・住民税の合計の予測額は15億円であるところ、この商品に係る所得金額の計算上2.2億円の損失が生じ、所得税・住民税の合計額が13.9億円に減少する予測となっている。この商品により、20億円の出資に対し、400万円の利益と1.1億円に相当する「租税の減額効果」が見込まれ、出資額に対する年換算利率は(1億1,400万円/10億円)÷5年=2.28%となる点がこの商品のセールスポイントである。
この結果、上記要件の(1)、(2)に該当し、(3)については、「イ」に該当しないが、「ロ」は400万円÷1.1億円=3.6%<10%、「ロ」ただし書き400万円÷5年=80万円/10億円=0.08%<0.2%となる。上記の要件に該当し、このタックス・シェルターに係る損失は損益通算の適用が制限される。

【具体例2】
納税者乙は、【具体例1】の条件の商品で、まる3「租税の減額効果」の金額が3,000万円であった(他の金額は同じ。)。
この結果、上記要件の(1)、(2)に該当し、(3)については、「イ」に該当せず、「ロ」は400万円÷3,000万円=13.3%>10%となり対象とならない。

【具体例3】
納税者丙は、【具体例1】の条件の商品で、「イ」の金額が1,050万円であった(他の金額は同じ)。
この結果、上記要件の(1)、(2)に該当し、(3)については、「イ」に該当せず、「ロ」は1,050万円÷1.1億円=9.5%<10%となり該当するが、「ロ」ただし書き1,050万円÷5年=210万円/10億円=0.21%>0.2%となり対象とならない。

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