石黒 秀明

税務大学校
研究部教育官


要約

1 研究の目的、問題点等

 国税庁の業績評価制度の下で測定される「来署納税者の好感度」指標は、わが国の申告納税制度を支える税務行政の柱のひとつである「納税者サービス」の向上を図るための中心的指標と位置付けられるが、更なる課題として、まる1年間を通じて最も来署者が多い確定申告期の来署者に特化したデータの分析が必要であり(測定方法上の課題)、まる2「来署納税者の好感度」という総合的目的変数を向上させるための資源配分に関する戦略フレームワークの提示が必要である(活用方法上の課題)。今後「小さな政府」が志向される中で、国税庁においても更に効率的な組織資源の活用とその説明責任が求められるようになる。本研究ではこのような問題意識の下で、「来署納税者の好感度」の決定要因を仮説・実証プロセスにより探求し、好感度向上のための科学的・実践的戦略フレームワークを提言することを目的とする。

2 研究の概要等

 来署納税者の好感度は「顧客満足度」に近似する概念と位置付けられることから、本研究では、マーケティング学術領域において、顧客満足を規定する諸要因の因果関係を確認する実証研究ツールのひとつとして「顧客満足度」研究に用いられる「共分散構造分析」という統計的手法を用いることとし、まず確定申告期における来署納税者の好感度決定要因として以下の2つの仮説を立て、検証モデルを設定し、東京都内の6税務署を対象にアンケートの設計・実施・分析を行った。

 仮説1:確定申告期の来署納税者の好感度は、主に「申告書の作成しやすさ・提出しやすさ」、「職員の応接態度」、「設備備品の利用しやすさ」の3つの要因で決定される。

 仮説2:好感度を決定するコア要因は「申告書の作成しやすさ・提出しやすさ」である。その他の2要因(「職員の応接態度」、「設備備品の利用しやすさ」)はコア要因を通じて間接的に好感度に影響を及ぼすサポート要因であり、好感度への直接的影響は小さい。

 検証の結果、仮説1は支持されたが、仮説2については、まる1「職員の応接態度」、まる2「設備備品の利用しやすさ」、まる3「申告書の作成しやすさ・提出しやすさ」の順で好感度への影響度が大きいことが判明し、支持されなかった。ただし、「職員の応接態度」については既に高い評価水準にあり、その「のびしろ」が小さいことも判明した。

3 結論

 納税者の確定申告を支援するという税務署の機能において、「来署納税者の好感度」の向上に大きく貢献するのは、「申告書の作成しやすさ・提出しやすさ」というコア機能ではなく、人的・物的なサポート機能である。しかし今後更に行政資源の制約の強化が見込まれる中で、これらサポート機能の強化はほぼ限界に近いと考えられる。よって好感度の向上のためには、コア機能の評価を上げる努力を地道に続けていくしかない。
現在国税庁が推進する電子申告は、あくまでも納税者の自書申告能力の存在が前提である。来署納税者の税務知識の向上は電子申告の推進に寄与し、来署者の減少を通じて確申期における駐車場の狭隘やタッチパネル等の署内備品の不足を緩和し、最終的に「来署納税者の好感度」の向上につながるであろう。
国税庁としては、限られた資源の下で、科学的根拠に基づいた真に効果的な施策を効率的に実施していくとの観点から、今後とも定期的に、あるいは施策変更後等の適切なタイミングを選んで納税者行動を科学的に観察・分析し、政策に反映させていくことが必要であろう。

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