(1) 大住達雄『役員報酬を巡る諸問題』商事法務486号7頁(1969)。 

 
山口 孝浩

税務大学校
研究部教授


要約

1 研究の目的

役員賞与の損金不算入及び過大役員報酬の損金不算入については、役員賞与は会社の利益獲得に対する功労として支出されるもので、本来、株主に帰属する利益を株主の承認により役員賞与として与えるものであることから損金とは認められず、過大役員報酬も不相当と認められる部分の金額は実質的に利益処分たる賞与に該当するとして損金とは認められないとされている。
役員賞与が利益処分であるとする考えは、従来から商法・企業会計も統一された考えであったところである。しかし、平成14年改正商法では、取締役の報酬規定に業績連動型報酬が導入され、新設された委員会等設置会社では役員賞与は利益処分から支出されないこととされている。更に、平成17年6月29日に制定された会社法制の現代化では、委員会等設置会社以外の会社における役員賞与は、損金処理でも利益金処理でも可能であり、会社の判断に委ねられるようになっている。また、企業会計では、改正商法を背景として平成16年3月9日の企業会計基準委員会報告で、役員賞与は発生時に費用処理することが適当であるとすることが明示されている。
これにより、従来、税法と商法・企業会計で統一がとれていた役員賞与の取扱いに乖離が生じ、税法において役員賞与や過大な役員報酬の損金不算入理由としていた役員賞与が利益処分であるとする考えに歪みが生じている。
このため本研究は、従来の役員賞与・報酬に関する税法、商法、企業会計の考えを整理し、改正商法・会社法制の現代化における取扱いを基に、役員賞与・役員報酬、主として業績連動型報酬の損金算入について考察することを目的としている。

2 研究の概要

(1) 従来の役員賞与・報酬に関する商法の考え
商法における取締役に対する報酬は、269条に規定されているが、取締役に対する賞与については直接定められた規定はなく、株主総会において、計算書類の中の利益処分の一部として承認を求め、総会決議として支給されるものとされている。
役員賞与と報酬の異同については、通説では、報酬の額が定款又は総会の決議により定められるのは、お手盛りの弊害を防ぐための政策的なものであるのに対し、賞与が総会の決議により決定されるのは、本来は株主に帰すべき利益を株主の意思によって与えるものであるとされている。これに対し、役員賞与も報酬の一つの形態であり、職務執行の対価として報酬と何ら変わるものではなく、役員から見れば追加的報酬であり、成功報酬的性格のものである(1)。また、商法上、役員賞与が報酬に含まれないとする解釈は、もっぱら税法の扱いを会社法にそのまま反映させるところから導かれたもの(2)という説もある。
これについては、わが国に初めて法人税法が成立した明治32年、商法が登場した明治23年以前の明治初期において、国立銀行財務諸表の下半期利益金割合報告の中に役員賞与金が計上されており、この下半期利益金割合報告は利益剰余金処分計算書の実態を備えていたことが片野一郎の「日本・銀行會計制度史(3)」で認められている。このことから、役員賞与が利益処分からという考えは、明治初期からわが国の慣行とされていたもので、この考えが商法・税法の役員賞与の取扱いに継承されていったことが認められるものである。

(2) 現行税法による取扱い及びそれに対する従来の論点について
役員の給与等に関する取扱いが法制度として初めて規定されたのは、昭和34年の法人税法施行規則の創設であり、その後、昭和40年の全文改正により法人税法第22条第3項の別段の定めとして本法に制定されている。以後、平成10年改正で、仮装隠ぺいによって支出した役員報酬は損金の額に算入しないこと、役員の親族等、特殊関係使用人に対する不相当に高額な給与の損金不算入の規定が制定されている。施行規則制定前は、役員賞与については通達により、過大役員報酬については大正12年に制定された同族会社の行為計算否認の規定により取り扱われていた。
税法における役員賞与と役員報酬は、その性格ではなく、支給方法という形式により区別されており、定期の給与であれば役員報酬に該当し、臨時的な給与であれば役員賞与に該当する。ただし、臨時的な給与であっても、他に定期の給与を受けていない者に対して、年俸の形(利益に連動して計算され支出するものを除く)で支払うもの及び退職の事実に対し支払われるものは臨時的給与には含まないとし、それ以外の臨時的な給与はすべて役員賞与とされている。また、過大な役員報酬額については法人税法施行令に実質基準及び形式基準により判断することが規定されている。
役員賞与の取扱いについては、従来、二重課税ではないか、損金算入にすべきではないか等について議論があるところである。二重課税については、法人は株主等たる個人の集合体であるという現行法の基本的構造からみるときは、配当はまさに法人の段階で課税された利益が同一体である個人に対して再び課税されるという意味において二重の負担であるといえるが、役員は、法人と一体性を有するものではなく、法律上受任者たる地位にあるものであって、法人が第三者に対して課税済みの利益から与える賞与については二重課税の問題は起こらない(4)と考えられている。
役員賞与の損金算入に対する意見については、平成8年11月政府税制調査会法人課税小委員会で検討され、役員賞与は功労報酬の対価であり大企業の経理を例とし利益の処分と認識されていること、中小法人の場合には、決算賞与の支払いによって法人の利益を比較的容易に調整することが可能となるといった問題もあることから、現行の取扱いは維持することが適当であるとされている。しかし、改正商法等における取扱いは、役員賞与は利益処分からとする考えから反するものになっており、損金算入を否定する理由に歪みが生じている。

(3) 改正商法等における役員賞与・業績連動型報酬等の取扱い
平成14年の改正商法で報酬規定が改正され、269条1項2号に業績連動型報酬、3号に社宅家賃等の現物給付となる報酬規定が創設されている。また、委員会等設置会社は利益金賞与が支出されず、それ以外の会社では、業績連動型報酬も利益金賞与(会社法制の現代化では損金処理でも可能)も支出できることになっている。この業績連動型報酬は、決算後に業績を勘案して確定金額を報酬として支給することも可能とされており、利益処分による賞与と性質上の差異が無く、従来の商法の通説から反する取扱いになっている。なお、ストックオプションについては、平成13年改正商法により新株予約権の有利発行として取り扱われることになっており、上記の報酬規定には含まれていない。

3 結論

(1) 役員賞与の損金算入についての考察
改正商法等の役員給与の取扱いを検討すると、委員会等設置会社以外の会社では、業績連動型報酬を支出し、更に利益金賞与として支出することも可能なことから、役員賞与、業績連動型報酬を損金算入とした場合、両者の性格に差異がないことから、恣意的な取扱いも生じ易く、同族会社では法人所得は生じないことも考えられる。法人の黒字申告割合が30.8%(5)という現状の中で、租税収入の確保の点からも無制限に損金算入とすることは適当ではない。また、役員賞与の損金算入は、個人類似法人の課税問題を含めて検討すべき問題であり現状では行なうべきではないと考える。
商法の取扱いが変更されたから税法もそれに併せ変更すべきという考えも生じるが、商法は企業の健全性の維持、債権者保護、資本充実を図り配当可能利益の算定を目的としているのに対し、税法は適正・公平な課税を基として租税収入の確保という目的がある。それぞれの対象が同じであってもその目的は異なるものである。しかし、税法も租税回避が認められなければ健全な企業育成に助力すること(6)も必要であり、適正と認められる業績連動型報酬については損金算入も考えられる。

(2) 業績連動型報酬の損金算入について
業績連動型報酬については、企業活動の国際競争力を高めるため役員の士気向上を図るという目的から支出されるものであり、過去に損金として計上された役員報酬を基準として求められるものは対価性がないとは言えないことから損金算入が考えられる。ただし、業績連動型報酬の損金算入は、法人税法第35条第4項の「‥臨時的な給与(債務の免除による利益その他の経済的利益を含む。)のうち」から除かれるものの対象として追加することとし、従来の「臨時的な給与」、「定期・定額」の取扱いは恣意性の抑制からも維持していくことが妥当と考える。なお、業績連動型報酬の損金算入については無条件に認めるのではなく、税務署長に対する事前届出制などの施策を講じることも必要と考える。

(3) 損金算入の対象とすべき業績連動型報酬について
損金算入の対象となる適正と認められる業績連動型報酬は、例えば、過去5年間の役員報酬の平均支給額を固定報酬と業績連動型報酬に区分し、業績連動型報酬とした額の過去5年間の平均基準利益(経常利益に申告調整事項の企業会計上の処理誤りを加減算した額)に対する割合を求め、この割合を前期末の基準利益に乗ずることで当期の業績連動型報酬を求めるものなどが考えられる。
このように、過去に役員報酬として損金とされていた額を基準として計算され、基準利益が無ければ業績連動型報酬が生じないものなどは、基本的に適正な報酬額として認識される。

(4) 役員報酬の損金経理要件について
業績連動型報酬の損金算入に併せ、役員報酬の損金経理要件について提言したい。
平成10年の税法改正により、仮装隠ぺいによって支出した役員報酬は損金の額に算入しないことが制定されたが、それ以外の経済的利益の供与については、納税者がいわゆる「ばれもと」として意識して計上しない場合であっても、直接証拠が把握されなければ重課対象にならない。また、否認を想定したところで株主総会等での報酬限度額を多めに設定すれば法人税は回避できることになる。
恣意性の抑制の観点からも、また、改正商法により、報酬中額が確定しないものは其の算定方法、金銭に非ざるものについては其の具体的な内容を定めることとされていることから判断しても役員報酬を損金経理要件とすることが必要であると考える。


(1) 大住達雄『役員報酬を巡る諸問題』商事法務486号7頁(1969)。 本文に戻る

(2) 浜田道代『新版注釈会社法(6)』269条注釈6389頁(有斐閣、1987)。 本文に戻る

(3) 片野一郎『日本・銀行會計制度史(増補版)』104頁(同文館、1977)。 本文に戻る

(4) 吉国二郎『法人税法(実務編)50年版』259頁(財経詳報社、1975)。 本文に戻る

(5) 国税庁平成16年10月発表資料『平成15事務年度における法人税の課税事績について』1頁 前年度に比べ0.5ポイント上昇したと記載されている。 本文に戻る

(6) 三木義一=山下眞弘編著『税法と会社法の連携(増補改訂版)』21頁(税務経理協会、2004)。 本文に戻る

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