小林 幹雄

国税不服審判所
部長審判官


要約

1 時効制度における停止条件説は課税処分取消訴訟等においても採用されているところである。本稿においては、停止条件説が租税法の適用においても合理性があるとしつつ、なお検討すべき点があることから、時効をめぐる課税処分取消訴訟等の事例(7例)に副って、主要な論点について概括的に検討を試みたものである。

2 時効制度の援用の効果については、昭和61年3月17日最高裁二小判決(民集40巻2号420頁)により明確に停止条件説が採用されたこともあり、課税処分取消訴訟等においても停止条件説に基づく判断が示されている状況にある。
そして、時効による権利の得喪が援用により確定的に生ずるとの停止条件説の下においては、例えば、所得税や法人税の所得課税では、「権利確定主義」の原則の下、時効による収益の計上は、時効完成時ではなく、また時効の遡及効にもかかわらず、援用時をもって行われるべきこととなる(損失においても同様)と解される。一方、相続税法では、その課税物件が「相続又は遺贈により取得した財産」であることから、1時効の完成、2援用、及び3時効の遡及効によって課税物件の存否及び課税価格の計算がどのような影響を受けるのかといった問題、また後発的事由による更正の請求の問題がある。

3 相続税の問題については、平成14年7月25日大阪高裁判決(判例タイムズ1106号97頁)及びその一審である神戸地裁判決がこれらの問題について広汎な判断を示している。この事件は、相続開始後に時効が完成したものであり、他人の時効取得による相続財産の喪失は相続人に生じた事由であるから、時効の遡及効にかかわらず相続税の課税物件である「相続又は遺贈により取得した財産」はなんら影響を受けないものとして捉えることができる。一方、相続開始前の時効完成は、権利の得喪を生じさせないものの、援用権の成立として捉えられることから、相続財産は援用権の付着した財産となり、課税価格の計算上援用権の付着という内在的瑕疵が時価の上で考慮されるべきものとなる(相続財産そのものの存否には影響しない。)。そして、相続後援用があった場合には、援用権の付着という内在的瑕疵が顕在化したものとして、それが裁判上でなされれば国税通則法23条2項1号に該当するものとして更正の請求が認められるということになる。更に、援用権の行使は解除権の行使と同視できるものとして、裁判外での援用権の行使の場合も後発的事由による更正の請求(国税通則法施行令6条1項2号)が可能であると捉えられる。
なお、本年の相続税法の改正により条件付遺贈に係る条件成就の場合の更正の請求の特則が明文化されたが、停止条件付遺贈に係る条件成就の場合と停止条件説の下での援用権の行使の場合との比較もされるべきである。

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