景山 智全

研究科第37期
研究員


要約

1 研究の目的

 平成10年以降、証券投資信託法、SPC法等の制定及び改正が行われ、さらに、平成12年には「資産の流動化に関する法律等の一部を改正する法律」が成立したことにより、全ての資産について様々な集団投資スキームを活用することが可能となった。現行税制においては、人格のない社団等を除き、原則として法人格の有無により法人税の課税関係が律されている。しかしながら、集団投資スキームに使われるビークル(投資媒体)は法人、組合、信託のほか、国外のビークルのいずれでもよいため、商品設計者がその目的や投資家等に最も都合がよいものを選ぶことができる。経済的実態が同じものには同じ課税をするべきであり、課税時期も同様な取扱いがなされるべきである。
本稿はこのような問題意識から、集団投資スキームに使われるビークルについて、現行税制の取扱い及び問題点を整理し、統一的な課税の方向を検討していくものである。

2 研究の内容

(1) SPVの現行税制の取扱い
 集団投資スキームに使われるSPVの中で、法人格を持つものとしては株式会社、有限会社、特定目的会社、投資法人があり、法人格を持たないものとしては特定信託、合同運用信託、証券投資信託、任意組合、匿名組合、投資事業有限責任組合がある。また、国外のSPVとしては外国法人、パートナーシップ、LLC、RIC、REITがある。
株式会社等は法人税の課税主体であり、支払配当が損金不算入とされ、投資家において、その受取配当は益金不算入の適用がある。そして、外国税額控除の規定も課税主体であるSPVの段階で適用される。
一方、任意組合等及び証券投資信託等は法人税の課税主体ではなく、投資家等の段階でのみ課税され、外国税額控除も投資家等の段階で適用される。
しかし、法人格のある特定目的会社等及び法人格のない特定信託は、従来の法人格の有無による課税の取扱いと異なり、その所得に法人税が課税されるが、支払配当は損金に算入され、投資家段階での受取配当等の益金不算入の適用はない。
また、SPV段階課税か、投資家段階課税かを問わず、稼得した所得の課税時期はSPVによって様々であり、株式会社、特定目的会社、任意組合、本文信託等は、その所得の発生ベースで課税されるのに対して、証券投資信託等は、キャッシュフローベースで課税される。換言すれば、証券投資信託等に係る所得は投資家へ分配されるまで、課税されない取扱いとなっている。

(2) SPVの投資家段階における問題点
 投資家はSPVから利子・配当等を受けるが、その所得分類は種種である。SPVが法人、投資信託(公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託を除く)、特定目的信託であればSPVが稼得した収益内容にかかわらず、配当所得となる。また、SPVが公社債投資信託、合同運用信託、公募公社債等運用投資信託であれば利子所得となる。しかしながら、SPVが任意組合であれば、原則としてSPVの収益内容がそのまま組合員の所得に分類される。この所得分類の違いによって、損益通算、累進税率に影響し、税負担額が異なるという問題が生じる。

(3) SPV段階における問題点

イ 投資家との二重課税
 株式会社、有限会社は、支払配当が損金不算入であるため、二重課税の排除措置として投資家段階で、受取配当等を益金不算入とする取扱い規定を置く。しかし、特定株式以外の株式からの配当等の80%が益金不算入とされているため完全な二重課税排除の調整ではない。
一方、同じ普通法人でも特定目的会社、投資法人については、一定の要件を満たせば支払配当が損金に算入されるため、実質的にSPVの段階で課税されず、二重課税は生じない。また、任意組合及び信託等については株式会社と同様の目的に使われても、法人格がないため課税主体とならず、二重課税の問題は生じない。

ロ 課税の繰延
 株式会社等は各事業年度の所得に対して法人税が課され、任意組合等は一年を超えない計算期間の末日に組合の収益及び費用が投資家に伝達されて、投資家段階で課税される。本文信託は、信託財産に係る収益及び費用が発生した段階で受益者又は委託者に帰属する。さらに、特定信託も法人格がないにもかかわらず、その受託者(信託銀行)に特定信託の各計算期間の所得に対して、法人税が課税される。しかしながら、証券投資信託については、その信託財産に帰属する所得は投資家に分配されるまで課税が繰り延べられる。退職年金等積立金については年金資産が信託会社等で運用されている間、従業員に対する課税が繰り延べられるため、その間の遅延利息として特別法人税が課せられる。そのことから、証券投資信託に係る「たまり利益」にも利子税としての特別法人税を課せばよいという意見もある。しかしながら現行税制では、所得の種類によっては政策的に1年を超える定期預金等について満期まで課税が繰り延べられるものもあることから、利子税を課すことにより課税の公平を図るには限界がある。

(4) SPVの国際課税上の問題点
 租税条約は二国間条約であるため様々であるが、租税条約上、我が国においてSPVが配当軽減税率の適用を受けるためには、1居住者、2者、3受益者の三つの要件が必要とされるものが多い。ここで問題になるのは、日本のSPV(投資ファンド)が海外投資をした場合、SPVの違いによって条約の適用が異なるという点である。投資ファンドが株式会社、有限会社である場合は、上記123の要件をすべて満たし軽減税率の適用があるが、証券投資信託の場合は、信託の受託者は納税主体となっておらず、受益者でもないため要件を満たさず、軽減税率の適用はない。一方、特定目的会社及び投資法人は、法人格を有する納税主体であるため12の要件は満たすものの、3の受益者である要件を満たすかどうかについては疑義が生ずる。また、特定信託においては、納税義務者は「特定信託の受託者である内国法人(信託会社)」であり、私法上の財産所有者も信託会社であるため、法形式上3の受益者である要件を満たすことはありえない。この問題を解決するものとして、日英租税条約及び日仏租税条約においては、一般的な配当軽減税率適用条項の他に特別規定を設けており、公認投資基金の運用者又は受託者が、その投資基金に参加する者(投資家)に代わって条約適用の請求ができるという規定になっている。

(5) SPVにおける課税の考え方

イ 投資家課税を基本とする考え方
 集団投資スキームに使われるSPVは統一的にパススルーとし、投資家段階で課税することを基本とした場合には、SPVと投資家との二重課税が排除されるとともに、予測可能性の観点から課税関係が明確になる。また、課税の公平の観点から、各SPVの組成法の違いによる課税上の取扱いの違いが完全に排除され、理論的な整合性が確保される。
しかしながら、米国のように納税者番号制度及びパートナーシップの情報申告提出義務がある上でのパススルー課税なら課税もれが生じないが、日本はこのような制度を持ち合わせていない。その結果、申告納税をすべき投資家を把握することは非常に困難で、課税の真空地帯をつくることになりかねない。仮に、制度上、情報申告の提出義務を課しても、国外のSPVの場合には実効性に乏しい。さらには、海外の投資家に対する配当に関しては源泉徴収により対処しないと、申告納税を期待することは難しく、申告されたとしても、滞納が発生した場合の対応は難しい。

ロ ビークル課税を基本とする考え方
 集団投資スキームに使われるSPVをビークル課税するとともに、そのSPVに投資家に関する情報提出義務を課せば、投資家の所得把握ができる。その結果、スキームの媒体としてのみ機能しているSPVに対しては実質的に法人税が課税されない規定を設けても、課税の真空地帯は生じない。また、課税主体とする以上、株式会社等と同様に、損失の分配は認めないことから、損失先行計上などの租税回避を排除できる。さらには、課税の公平の観点から、所得が発生した時点でその所得に対して課税を行うことが可能となる。
しかし、私法上法人格が与えられていないSPVを法人税の課税対象とするには、税制上の措置が必要である。

3 結論

 集団投資スキームに使われるSPVについて、経済的な同一性に着目し、統一的な課税を行うには、執行面での対処では限界があり、立法による措置が必要である。立法にあたって最も重要なことは課税の真空地帯をなくすことと、公平な課税を行うことである。よって、集団投資スキームに使われるSPVについては、私法上の法人格の有無にかかわらず、法人税の課税対象とし、適格なもの(課税上弊害がないと認められるもの)については実質的に法人税が課税されないようにすべきであり、租税条約についても、改正の際には統一的な取扱いを規定すべきであると考える。

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