百瀬 智浩

税務大学校
研究部教育官


はじめに

 我が国では、一連の課税漏れや訴訟提起(1)、いわゆる高額納税者の公示(2)等の報道を受けて、ストックオプションに対する課税が大きな注目を集めているが、ストックオプションは、広く業績連動型報酬のうち会社の業績指標として自社株(3)の時価を用いる株式関連報酬(stock compensation)(4)の一形態にすぎない。
本稿は、株式関連報酬を巡る課税上の諸問題のうち、次の2点について、被用者(5)の所得税を中心に検討するものである。

1 各種株式関連報酬が、等しく、雇用者(6)が被用者に対して、価格変動リスクを負わせることなく、自社株の値上り益を獲得する機会を与えるという特徴を有しながら(7)、それらが実現する経済的成果に対する租税負担に差異が生じる(8)

2 株式関連報酬の繰延報酬(differed compensation)としての性質、すなわち、当該被用者がそれに基づいて経済的成果を手にするのが、その基因となる役務提供の時点から見た場合、将来の一定時点となるという性質に基因して、当該被用者が国の内外にわたって居住地を移動する場合に、国際的な二重課税又は課税の空白を生じる(9)

なお、本稿で株式関連報酬の実務に言及する際は、本稿の問題意識の大半が外資系法人(10)、そのうちでも特に米国系法人の被用者に向けられていることから、主として、アメリカにおけるものである。

( 1) 後掲注(33)

( 2) 平成12年分所得税の、所得税法233条に基づく公示対象者の上位100人中に、ストックオプション行使による者が過去最多の10人含まれていることが報じられた(日本経済新聞 平成13年5月16日付夕刊)。

( 3) 関係会社(親会社又は子会社をいう。以下同じ。なお、これらの具体的な範囲は、通常、プラン(後掲注(48))において規定される。)の株式を含む。以下同じ。

( 4) 第1章参照

( 5) 従業員及び役員をいい、関係会社のこれらの者を含む。以下同じ。

( 6) 関係会社を含む。以下同じ。

( 7) 後掲注(11)

( 8) 第2章

( 9) 第3章

(10) 外国法人の株式を対象とするストックオプションその他の株式関連報酬制度を実施する法人をいう。以下同じ。

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