明治前期福島県作成の更正地図

はじめに

　地籍図は「土地の一筆ごとの区画、地種、地目、面積、所在地の字名と地番、あるいは所有者などを図の上に示した大縮尺の地図」と、定義される(１)。

　昭和26年（1951）に制定された国土調査法の第２条第５項では、「地籍調査」を「毎筆の土地について、その所有者、地番及び地目の調査並びに境界及び地籍に関する調査を行ない、その結果を地図及び簿冊に作成すること」と定義し、地籍調査により作成された地図を「法定地籍図」としている。

　地籍調査は翌昭和27年から着手されたが、平成11年度における進行状況は全国調査対象地の43パーセントが調査済である。したがって、法定地籍図も全国で43パーセントが作成されたことになる(２)。

　さて昭和35年に不動産登記法が改正され、その17条で登記所に地図を備え置くと定めた。これが「公図」であり、「十七条地図」とも呼ばれている。十七条地図には法定地籍図を充てることにしたため、現在、全国登記所で備え置く十七条地図は43パーセントが法定地籍図で占められる計算になる。

　明治22年（1889）に土地台帳法が公布され、郡役所・戸長役場に地租賦課のため「土地台帳」「土地台帳附属地図」など帳簿地図の備え置きが義務付けられた。この土地台帳附属地図も地籍図である。ついで同年、郡役所の帳簿地図は収税部出張所に管理替えされて正本と位置付けられ、戸長役場の帳簿地図は副本と位置付けられた。その後、収税部出張所の帳簿地図は、同23年府県直税署分署、同26年府県収税署、同29年税務管理局官制で税務署が創設されると、税務署の管理とされたのである。

　昭和25年に土地台帳法が改正され、それまで全国の税務署が備え置いていた土地台帳附属地図は、土地台帳などとともに、同年７月以降、法務府（現、法務局）登記所に移管替えされ、一元管理されることになった。この時点から土地台帳附属地図は「旧土地台帳附属地図」と呼ばれ、昭和36年の不動産登記法改正により、法定地籍図が整備されるまでの間十七条地図に準ずる地図と認められたのである。

　したがって、地籍調査による法定地籍図が未整備の場合、十七条地図には旧土地台帳附属地図が充てられることになり、平成11年度末において十七条地図に占める旧土地台帳附属地図の割合は、57パーセントとなる計算なのである。

　ところで旧土地台帳附属地図は、一般的には明治18年（1885）から同22年にかけて大蔵省所管地押調査事業で作成された「更正地図」を根幹としている。更正地図は大蔵省所管「地租改正地引地図」を更正した地図である。明治前期にはこのほかに、やはり大蔵省所管の「壬申地券地租改正地引絵図」、内務省所管の地籍編成による「地籍地図」と、合わせて四つの地籍図が作成された。しかしこれら四つのうちどの地籍図が土地台帳附属地図に充てられたかは、全国一様ではなく府県によっても町村によっても異なるところがあるといわれている。

　本稿が論題とする福島県は、土地台帳附属地図は更正地図を根幹としたが、 更正地図作成の基礎であった地押調査あるいはそれ以前に行なわれた地租改正などは、明治政府が府県庁に委託した土地調査事業であった。したがってこのような事業の内容を明らかにしょうとする際には、事業を直接担当した府県当局の当該期の行政文書を詳細に分析する必要がある。

　租税史料館には、現在、福島・宮城・岩手三県の明治前期を中核とする税務関係の行政文書が1500点ほど所蔵されている。この理由は、明治35年に設置された仙台税務監督局が福島・宮城・岩手の三県を管轄区域とし、かつこれら三県の明治前期税務行政文書を受継ぎ、その後、昭和16年仙台財務局、昭和24年仙台国税局と引継がれ、昭和54年に租税史料館の前身の租税資料室に大半が管理替えされたからである。

　本稿の目的は、租税史料館が所蔵する福島・宮城・岩手三県の明治前期税務行政文書の中から福島県の地押調査関係文書、とりわけ更正地図に関する行政文書をできるだけ検討し、福島県下の更正地図作成過程とその特色を明らかにすることにある(３)。

(１)　佐藤甚次郎『明治期作成の地籍図』古今書院　1986年刊。明治前期作成の地籍図やその変遷に関する知見も総て同書による。

(２)　国土庁平成11年度調査資料（『朝日新聞』1999年8月19日号）。

(３)　原史料を引用する場合、明らかな誤字は訂正し、できるだけ常用漢字を用い、句点は筆者が適宜付すことにした。

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