村上 良治

税務大学校
研究部教授


はじめに

1 差押えと相殺に係る最高裁大法廷昭和45年6月24日判決民集24巻6号587頁(以下「最大判昭和45年6月24日」という。)の概要は、次のとおりである。

(1) 同判決は、甲(取引先)が乙(銀行)に対してA債権(預金債権)を有 し、乙が甲に対してB債権(貸付金債権)を有している場合において、甲 の国税債権者である丙がA債権を差し押さえた事案について、「第三債務 者は、その債権が差押後に取得されたものでないかぎり、自働債権および 受働債権の弁済期の前後を問わず、相殺適状に達しさえすれば、差押後に おいても、これを自働債権として相殺をなしうるものと解すべきであ (る)」と判示した。

(2) 同判決は、甲(取引先)が乙(銀行)に対してA債権(預金債権)を有 し、乙が甲に対してB債権(貸付金債権)を有している場合において、甲 に将来一定の事由(例えば、A債権が差し押さえられること)が生じたと きは、B債権の弁済期が到来したものとし、A債権の弁済期が到来してい ると否とにかかわらず、乙が任意相殺しても甲は何ら異議を述べない旨の 特約のある預金債権を甲の国税債権者丙が差し押さえた事案について、 「かかる合意が契約自由の原則上有効であることは論をまたないから、本 件各債権は、遅くとも、差押の時に全部相殺適状が生じたものといわなけ ればならない」と判示した。

2 最大判昭和45年6月24日は、差押えと法定相殺について無制限説を、差押 えと相殺予約について無制限有効説を、とったものとされる。
しかし、最近の学説をみると、差押えと法定相殺に係る無制限説、差押えと相殺予約に係る無制限有効説が通説とはいえず、種々論じられ、また、最大判昭和45年6月24日の射程距離についても見解が分かれており、さらに、 その後新たな裁判例もみられる。
そこで、本稿においては相殺制度を概観し、1差押えと法定相殺、2差押えと二者の合意による二者間の相殺予約、3差押えと二者の合意による三者間の相殺予約、4差押えと三者の合意による三者間の相殺予約、について裁判例、学説を検討し、私見を整理する。
なお、文中意見にわたる部分は、もとより私見であることをあらかじめお断りしておく。

Adobe Readerのダウンロードページへ

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。Adobe Readerをお持ちでない方は、Adobeのダウンロードサイトからダウンロードしてください。

論叢本文(PDF)・・・・・・3.45MB