小田 信秀

税務大学校
研究部主任教授


はじめに

 従前においては、同族会社の行為又は計算(本稿では「行為計算」という場合が多い。)の否認に係る裁判例が専ら法人税に関するものであったこともあり、同族会社の行為計算の否認を巡る議論も専ら法人税に関するものが中心となっていた。このため、所得税の観点から同族会社の行為計算の否認を巡る諸問題について論述したものは少なかったのであるが、近年においては、むしろ所得税に関する裁判例が多くなってきたことなどから、税務専門誌その他で所得税における同族会社の行為計算否認を巡る問題が議論されることが多くなってきた。
しかし、判例や学説の考え方が未だ固まっているとはいえない問題も少なからず見受けられるので、本稿は、これまでの裁判例や学説等を踏まえ、所得税における同族会社の行為計算否認を巡る諸問題について、考察しようとするものである。
本稿の構成は、この第1章において、同族会社等の行為又は計算の否認の規定(以下「行為計算否認規定」という。)の沿革、行為計算否認規定の趣旨・目的並びに行為計算否認規定に関する裁判例の動向などにつき概観した上、第2章において、現行所得税法157条の行為計算否認を巡る諸問題のうち幾つかの問題(論点)について、裁判例や学説の考え方等も参考にしながら、筆者なりの結論を導き出していきたいと考えている。そして、第3章では、本稿の結びとして、第2章において検討対象としなかった問題その他関連ある問題等につき若干のコメントをしたいと考えている。

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