高田 美徳

名古屋国税不服審判所長


はじめに

 現在の世界は政治・経済を中心に歴史的な大転換の時期に直面しており、正に人類の英知が試されている時期である。この時期を乗り越えるためには、これまである程度通用してきた国家単位、広くてもブロック単位での自己防衛策、従って他者との関係を敵対関係で捉え、経済的・政治的にこれを攻撃・侵略するところに活路を見いだす手法からの脱却を果たし、相互の補完・協調関係を命題とする新たな戦略が確立されなければならない。
その背景としては、如何なる大国の経済力と軍事力をもってしても小国といわれる国すらその支配下に置くことが不可能なまでに人の価値ないし人権が成熟してきていること、人間の求めるものが時代とともに量的・質的に急速に拡大しており、その資源を対立・攻撃の構図で獲得するには地球は余りにも狭小であること等の事情が挙げられる。
有限の資源を奪い合い、知的ノウハウや情報の独占によりこれを共同有効活用するチャンスから排除することに起因するロスは余りにも大きくなっている。
他方、現在は情報通信・交通手段の革命的発展は空間・時間の障害を無くし、世界のあらゆる情報を瞬時にして入手できる状態を可能にしている。因みに、情報の正確な把握・分析に遅れ、これを迅速に事業戦略に取り入れることができなかった企業は経済競争に勝利することは覚束ないとされている。
また、国連をはじめ、WTO、OECD、IMF、IRBD等国際機関の整備と充実が進み、国際的視点から協議・相互援助を行う枠組みは整ってきている。今や、このような絶好の場を相互に自己の立場を弁解し、他者を批判し、攻撃する舞台とするのではなく、将来の在るべき方向を探り、そのための具体的、現実的方策を講ずるための場所として機能させることが肝要である。
かかる観点から見るとき、全世界に占めるGDPが日米合計で40%という世界第2位の経済的実力を有する日本の財政は、従来とは質的に異なった役割を担っているものと考えられる。
現在の日本の財政に関する議論は活発を極めているが、その議論は上述の認識と発想を大前提において展開されているものでなければならない。
そのことが、日本の財政の日本国民に対する原点であり、世界に対する責任であるというべきである。
以下、歴史的に国際経済の流れとその各時代における財政の役割を鳥瞰し、現在のもはや後戻りができないグローバルでボーダレスの経済社会における財政の役割について考えてみたい。

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