舩冨 康次

研究科第33期
研究員


はじめに

 「第二の不良債権」。預託金制ゴルフクラブの預託金を称することばである。
わが国のゴルフ場の大部分は預託金制ゴルフクラブであり、その預託金の総額は、9兆 5, 000億円に達する。預託金制ゴルフクラブの会員は、10年程度の据置期間が経過すれば退会時に預託金を返還請求できるが、会員権相場が預託金の額を上回っている限り、会員権を市場で売却する方が有利であるため、退会時に預託金を返還請求することはほとんどなかった。ところが、バブル崩壊により、土地や株式とともにゴルフ会員権の相場も大幅に下落し、現在の相場は1990年のピーク時の5分の1となっている。その結果、全体の3割程度の会員権の相場が預託金の額面金額を下回っている。預託金制ゴルフクラブは、会員権相場が右肩上がりに上昇し、少なくとも、預託金の額を下回ることがないという前提で考え出されたシステムである。会員から集めた預託金は、土地の取得やコースの造成費に充てられているため、会員からの預託金返還請求に応じる資金的余裕があるゴルフクラブは稀であり、預託金制ゴルフクラブの多くは、会員からの預託金返還請求による経営の危機に瀕している。現に、昨年暮れ、約73,000人の会員を有する大手ゴルフ場経営会社の日東興業が、会員からの預託金返還請求をきっかけに経営破綻し、和議を申請するに至っている。
多くのゴルフ場は、会員からの預託金返還請求による経営破綻を回避するため、預託金の据置期間の延長や会員権の分割など、さまざまな方策を講じている。また、和議や会社更生手続によって経営破綻したゴルフ場の再建を図る場合があり、その手続の中で預託金の一部がカットされることもある。
このような状況の下で、法人が保有する預託金制ゴルフクラブの会員権について、次のような疑問点が生じている。

(1) バブル期に高額で取得したゴルフ会員権の相場が預託金の額面以下に下落しているような場合に、ゴルフ会員権について評価損の計上ができないか。

(2) ゴルフクラブが経営破綻状態に陥った場合、その会員権を保有する法人は、ゴルフ会員権について貸倒損失の計上や個別に評価する債権に対する貸倒引当金の設定ができないか。
特に、和議や会社更生手続など、倒産処理手続によって預託金の一部がカットされた場合、貸倒損失は計上できるのではないか。

(3) ゴルフクラブが預託金の据置期間を延長するための条件として、例えば下記のような方法により据置期間経過前に会員権の分割を行った場合、ゴルフクラブ及びそのゴルフクラブの会員権を有する法人における税務上の処理方法はどうなるのか。

イ 預託金1,000万円の会員権を預託金500万円の会員権2口に分割した場合

…… 預託金の額は変わらないが、権利が増えたことについて税務上何らかの損益を認識する必要はないか。

ロ イを条件に預託金の据置期間の延長に応じた会員の側において、その会員権がバブル期に3,000万円で第三者から取得したものであった場合

…… 3,000万円で取得したゴルフ会員権が、その会員権分割の時点で1,000万円で償還されたとみて、2,000万円の含み損が実現したと考えられないか。

 これらの問題点については、そもそもゴルフ会員権の相場が今日のように下落することが想定されていないこともあり、十分な検討が行われていない現状にある。
そこで、本稿では、民事上の判例等を参考にしつつ、ゴルフ会員権の法的性格を明らかにした上で、これらの問題点について、法人課税上の取扱いを検討することとしたい。

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