瀬川 福美
税務大学校
研究部教授


はじめに

 リース(Lease)は、文字通り賃貸借のことである。米国では1950年(昭和25年)代初頭に、資産はほしいが金を持たない企業のために当該物件を購入して、その企業に利用させ保守・管理も行わせるというリース専業会社が出現した。その取引は金融に対して物融といわれ、これがいわゆるファイナンスリースである(貸主である資産の所有者が保守・管理を行うこととしている資産の賃貸借はオペレーティングリースという)。
リース会社が日本に誕生したのは、昭和38年であるが、以来リース取引は着実に成長を続け取引額は約8兆円(平成8年)に達している。リース取引の当事者は、一般的にはリース会社(貸主:レッサー)、ユーザー(借主:レッシー)及びサプライヤー(売主)の三者であるが、取引の実態は、賃貸借、消費貸借そして売買といった複合的な性格をもっており、経済的実質に即して税務上の賃貸借に当たるかどうかの判断を行うとしても難しい問題がある。また、レバレッジドリース取引の中には、出資者に割り当てられた損失額が出資額を大幅に上回るといった例も見受けられ、出資者がその割り当てられた損失額をもって他の事業上の所得と相殺するといった取引の組成のしかたについては課税上疑念が持たれるところである。
研究の途中、税制調査会は初めてリース資産についての減価償却の合理性等につき検討課題として取り上げたところであり、平成10年度の税制改正では、リース取引に関する定義、売買とすべきものの範囲等についての規定が設けられた。その内容は、長官通達(昭和53年及び63年)による取扱いをほぼ踏襲したものとなっているが、私法上適法・有効に成立した賃貸借取引を税法上明確な規定もなしに売買とすることに対して強い疑問が提起されていたことからすれば、これは画期的なことである。また、併せて外国法人及び非居住者の国外における業務の用に供するリース資産については、リース期間定額法により減価償却をすべきことが規定されたところである。
本稿では、ファイナンスリース取引のうち税務上なお賃貸借とされるものについて民事上の判例等を参考にその法的性格を明らかにした上で課税上の問題につき考察するが、特にリース制度が生成・発展した米国におけるファイナンスリース取引について判例、税務当局がどのような対応をしてきたのかを検証することにより検討の手掛かりとしたい。

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