井上 一郎
前租税資料室研究調査員
藤井 保憲

衆議院大蔵委員会専門員
元税務大学校長


はしがき

 現在、わが国では、長期にわたり地価の低落・停滞が続くという、これまでに例のない事態が生じているが、こうした中で、土地の時価とは何だろうという問題が改めて提起されているように思われる。ところで、土地の評価のあり方という点では、相続税における相続財産としての土地の評価実務が、長年にわたり各方面の先導役を果たしてきており、現在においても公的土地評価制度の中核の1つを形成しているところである(1)
本稿は、今後予想される土地評価の本質に関する議論に資する趣旨からも、相続税の土地評価に関して、これまでの実務の沿革をたどり、それぞれの時点での議論を振り返ることを通じて、相続税における土地の時価評価の性格や意味の明確化を試みるとともに、関連する租税資料の整理を図ったものである。
なお、相続税における土地評価の問題に関しては既に多くの論文があり、特に沿革については、税務大学校論叢16(昭和59年8月刊)で高津吉忠氏が詳細に論述しているところである。本稿では、こうした論文や各種租税資料を参考としながら、まず、1相続税導入時において「収益還元法に基づく土地評価方法の法定」の考え方が否定され、税務官署が個別に相続財産である土地の評価を行うこととなったことに関する議論の整理を行うとともに、2そうした議論の前提として、わが国で初めて公的な土地評価の必要性が意識された明治初年から相続税導入までの間に、土地評価に関してどのような議論や経験が蓄積されてきたかの沿革をたどり、そうした蓄積の上に、3相続税導入後、土地の時価評価の事務を課された税務官署がどのようにして「標準率」を中心とする時価評価ノウハウを開発してきたか、又、そうして開発された評価方法はどのような性格を有し、かつ発展しているかという点に重点を置いて検討を加えることとしたい。

Adobe Readerのダウンロードページへ

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。Adobe Readerをお持ちでない方は、Adobeのダウンロードサイトからダウンロードしてください。

論叢本文(PDF)・・・・・・2.36MB