齋藤 信雄

税務大学校
研究部教育官


はじめに

 所得税においては、事業主と生計を一にする親族が事業から対価の支払いを受ける場合には、その対価の額は、原則としてその事業主の事業所得の金額の計算上必要経費に算入しない(所得税法56条)こととしている。
この規定は、現行法の基礎となった昭和23年改正法により設けられた規定であり、所得税法の基本とする個人単位課税の特例であると理解されている。
ところで、申告納税制度は創設以来既に50年余を経過していることから、納税者の間に定着しているといわれている。そして納税者環境についても、戦後生まれの世代が壮年期を迎えた今日において、家族関係も大幅に変化し、納税者意識もまた大幅に変化している。そのような中で、個人事業者の所得計算において、「親族が事業から受ける対価」の必要経費算入を認めないという所得税法56条の規定の合理性について、疑問が投げかけられている。
また、昭和60年から白色申告者に対する記帳義務制度が施行され、一定の要件に該当する白色申告者には記帳義務が課されることとなったが、事業専従者の取扱いについては、従来どおり一定の事業専従者控除しか認められていないのは、青色申告者の事業専従者給与の取扱いと比較して不合理ではないかという見解から、青色申告者に認められている特典のうちのいくつかは、記帳義務の課される白色申告者にも認めるべきではないかという意見も出されている。そこで、本稿においては、現行法における「親族が事業から対価の支払いを受ける場合の取扱い」についての問題点等について考察し、今後の取扱いについての私見を述べたいと考えている。

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