(1) 

 
別所 徹弥

東京国税局調査第一部
国際情報第一部門調査官


はじめに

 経済活動の国際化の進展に伴い、多国籍企業の直接投資も活発に行われている(1)。その結果、国際貿易に占める関連者間取引も増加の一途をたどっている(2)。このような状況の下、関連者間取引を規制する移転価格税制の重要性が増し、OECD加盟諸国のほか韓国、中国等でもその制度が導入されてきている。
OECDは、1995年7月27日に、OECD新ガイドラインの一部を公表した(3)。これは、ますます進展する経済の国際化に対処するため、1979年OECDガイドライン(4)を全面改定したものの一部である。
どのような税制を立法するかは、もとよりその国の専権事項であるが、移転価格課税は必然的に経済的二重課税を引き起こすため、その税制は国際的なルールに基づいていることが望ましい。これまでこの国際的な課税ルールとして機能してきたのが1979年OECDガイドラインである。我が国の移転価格税制は、この1979年OECDガイドラインに則して1986年に制定されたものであり、今回の改定に伴い、OECD新ガイドラインとの整合性について、見直しが必要と思われる。
また、米国は、近年、移転価格税制の執行を強化しており、その一環として移転価格に関する財務省規則の改定が行われた。オーストラリア、カナダ等においても、移転価格に関する通達等の整備が行われている(5)。これに対し、移転価格税制の根幹をなすともいうべき独立企業間価格の算定に関する我が国の規定は、法令のほかは、わずかな通達があるのみで、解釈適用基準が不明確との批判がないわけではない。
そこで、本稿では、このような状況認識に立ち、米国最終規則(6)を参考にしつつ、我が国の税制とOECD新ガイドラインを比較・分析することにより、OECD新ガイドラインのコンセプトの我が国への導入の是非等を検討し、今後の対応策について提言を行うこととする。
なお、本稿では、今回公表されたOECD新ガイドラインのうちの実体的規定に係る部分、すなわち、第1章から第3章までの内容について、論述する。
この論文の構成は、まず、移転価格税制を巡る最近の動向等について概観し、次いで、OECD新ガイドラインの法的性格を明らかにし、また、米国最終規則との対比を行う。さらに、OECD新ガイドラインの第1章から第3章までの内容(独立企業間価格の算定)上の主要な論点について、米国最終規則、OECD新ガイドライン及び我が国の移転価格税制の対比・検討を行い、最後に、我が国の移転価格税制をより国際ルール化するための国内法制の手当てについての提言を行う。

〔注〕

(1) 我が国の対外直接投資残高は、昭和62年の77,022百万ドルから平成4年には248,058百万ドルに達している。また、国内投資残高は、昭和62年の9,018百万ドルから平成4年には15,511百万ドルに達している(青山慶二「国際課税の執行の現状と方針」国際税務VOL.14 NO.38 P.7-8)。本文に戻る

(2) 1991年の日本の米国への輸出の約75%が関連者向けである(Joseph H.Guttentag and Toshio Miyatake 「Transfer Pricing:U.S.and Japanese Views」 Tax Notes lnternational,Feb.7,1994 p.390)。
我が国企業の企業内貿易については、海外子会社への輸出比率は昭和58年度の23.7%から平成2年度には30.7%に増加している(皆川芳輝『多国籍企業の租税戦略』(名古屋大学出版会、1993)68頁)。本文に戻る

(3) 多国籍企業及び税務当局のための移転価格ガイドライン(Transfer Pricing Guidelines for Multinational Enterprises and Tax Administrations,Report of The OECD Committee on Fiscal Affairs,1995)をいう。以下同じ。 本文に戻る

(4) 多国籍企業のための移転価格ガイドライン (Transfer Pricing Guidelines for Multinational Enterprises,Report of the OECD Committee on Fiscal Affairs, 1979)をいう。以下同じ。 本文に戻る

(5) 国際税務VOL.14 NO.10 P.6及び租税研究94・4 134頁このほか、ニュージーランドの法案に関しては、租税研究 95・4 113頁 参照のこと。 本文に戻る

(6) 第482条に基づく関連会社間の移転価格に関する規則(Intercompany Transfer Pricing Regulations under Section 482)をいう。 以下同じ。本文に戻る

Adobe Readerのダウンロードページへ

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。Adobe Readerをお持ちでない方は、Adobeのダウンロードサイトからダウンロードしてください。

論叢本文(PDF)・・・・・・2.4MB