増井 弘一

国税庁法人税課
監理第二係長


はじめに

 コンピュータ・プログラムについては、当初、ハードウェアから独立した取引対象として個別の契約が締結されることはなく、ハードウェアに付随した形で取引されていた。この取引においては、コンピュータ・プログラムを含むソフトウェアの価格は、ハードウェアの価格の一部に組み入れられていたのである。
しかし、その後、FORTRAN、COBOL、ALGOLなどの高級言語が出現し、これによりプログラミングの生産性が向上し、他機種との互換性が実現するようになってきた。さらに、処理の高速化、記憶の大容量化などのハードウェアの機能が向上するにつれて、複雑な機能を持つコンピュータ・プログラムが必要不可欠のものとなり、ソフトウェアの経済的価値が上昇してきた。そして、1969年にIBMがハードウェアとソフトウェアの価格分離政策(アンバンドリング)を行って以来、ソフトウェアは独自の商品として重要視されるようになった。現在では、コンピュータ全体に対する投資額の大部分がコンピュータ・プログラムを中心としたソフトウェアに対するものとなるまでに拡大しているだけでなく、場合によってはハードウェアをも上回る財産的価値が認められるようになってきている。
また、コンピュータ・プログラムは、ハードウェアの利用技術の中心となるものであり、ハードウェアとの対応関係があれば、新たな資本と知的創作を投入して自己開発する必要はなく、外国のものであっても利用することが可能であるため、取引対象は単に国内にとどまらず、国際取引の対象となっている。
このコンピュータ・プログラムに係る対価については、外国法人又は非居住者に支払われる場合に課税上の問題が顕在化する。すなわち、納税義務が所得税法及び法人税法に規定する国内源泉所得に限られる外国法人又は非居住者においては、コンピュータ・プログラムに係る対価がどの国内源泉所得に該当するかによって課税・非課税が異なるのである。
コンピュータ・プログラムに係る対価については、コンピュータ・ソフトウェア関連発明としてコンピュータ・プログラムに特許が付与されている場合には、専用実施権設定契約又は通常実施権設定契約に基づき対価が支払われるため、「特許権の使用料」として取り扱われている。これに対して、特許が付与されていない場合には、著作権法上コンピュータ・プログラムが著作物とされていることから、原則として 「著作権の使用料」 に該当するものとして取り扱われる。
「特許権の使用料」と「著作権の使用料」は、いずれも所得税法第161条第7号イ若しくはロ又は法人税法第138条第7号イ若しくはロに規定する国内源泉所得たる使用料(以下「ロイヤリティ」 という。) である。しかし、「著作権の使用料」は、「特許権の使用料」に比べてその範囲が明確ではないことから、コンピュータ・プログラムに係る対価については、「著作権の使用料」ではなく、「物の売買の対価」又は「人的役務の対価」であり、恒久的施設を有しない外国法人等が支払を受ける場合には、わが国で課税されないとの主張が行われることがある。
そこで、本稿においては、特許が付与されていない場合を前提として、コンピュータ・プログラムに係る対価を中心に、ロイヤリティとして課税対象とすべき国内源泉所得の範囲を明らかにするとともに、「著作権の使用料」という概念に基づく現行課税制度に対する考察を行うこととする。

(参考) ソフトウェア技術動向の推移
  年代 ソフトウェア技術
ハードウェア主導 1950年代 《プログラミング原始時代》
・プログラムはそのハードウェアを動かすためのやむを得ぬ手段
・機械語によるプログラミングからアセンブラ言語によるプログラミングへ
・入出力用のプログラムの出現
ハードウェアとソフトウェアの共存
1960年代 《ソフトウェア創成期》
・コンパイラ言語によるプログラミング
・「ソフトウェア」という言葉が生まれ、定着
・オペレーティング・システムの出現と肥大化
・「ソフトウェア危機」の提唱⇒ソフトウェア問題の認識
1970年代 前期 《プログラミング技法出現期》
・ハードウェアの従属物ではなく、その重要性を認識
・構造化技法など新しい発想に基づくプログラミングの出現
・ソフトウェア・プロダクトの作成・販売
後期 《ソフトウェア工学待望期》
・手工芸に近かったソフトウェア作りから工学的手法による工業製品化
・保守のしやすさを考慮に入れたソフトウェア作成技術の提唱
・支援ツールやプロジェクト管理手法の出現
ソフトウェア主導 1980年代 前期 《ソフトウェア工学実践期》
・先進的企業でのソフトウェアの部品化や再利用
・ソフトウェアの品質管理活動の活性化
後期 《ソフトウェア開発環境改善期》
・ソフトウェア開発装備の充実
・タイムシェアリング・システムの普及によるプログラム・テスト
・エンドユーザ用ツールの普及
1990年代 前期 《CASE普及期》
・コンピュータを使用したソフトウェア作り
・ソフトウェアのオープン化による異機種間の互換性の実現

〔注〕

 山本欣子「ソフトウェアの知識」(日本経済新聞社、3版、1994)を基に作成した。

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