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圖子 善信

福岡国税不服審判所長


はじめに

 国税徴収法(以下「徴収法」という。)に定める第2次納税義務については、昭和34年の徴収法の全文改正によって拡充・整備されて(注1)以来、主たる納税義務との関係、成立と確定、時効」除斥期間及び第2次納税義務者の権利救済等に関して多くの議論が行なわれてきた。その原因は、第2次納税義務の通則に関する法律の規定が徴収法32条他極めて限られており、徴収法の改正以後に制定された国税通則法(以下「通則法」という。)においても、第2次納税義務の通則については格別の規定が設けられなかったことから、解釈に依存する余地が多かったためと思われる。特に第2次納税義務者の権利救済の問題については、第2次納税義務者が通常の納税者に比べて不利な立場にあると考えられ、その権利救済の方法に関して活発な議論が行なわれてきた。
第2次納税義務制度の特色は、本来租税債権は納税者の責任財産から履行され又は責任財産に追及されるものであるのに対して、徴収法33条から41条に定める特定の場合に第3者の財産から履行され又は第3者の財産に追及されるところにある。そして第3者である第2次納税義務者が負担すべき第2次納税義務の範囲決定の前提となる主たる納税義務は第2次納税義務者と無関係に確定し、更正・決定・賦課決定の課税処分も制度としては第2次納税義務者に通知されることは無い。第2次納税義務者にとって重要な事項が、第2次納税義務者の関知しないところで、主たる納税義務者と国の間で確定されるところが通常の納税義務者の立場と異なる特異な点である。そして、主たる納税義務の課税処分が遵法であったとき、第2次納税義務者はどのようにその違法であることを主張し、権利の救済を求めることができるかについて、種々の議論が行なわれてきた。
この問題については、第2次納税義務者が第2次納税義務の告知処分の取消訴訟において主たる納税義務の課税処分の違法(無効を除く。)を主張できないことを判示した昭和50年8月27日の最高裁判決(注2)(以下「50年最高裁判決」という。)、第2次納税義務者が主たる納税義務の課税処分自体についての無効確認訴訟及び取消訴訟の原告適格を有することを判示した平成元年2月22日大阪高裁判決(注3)(以下「元年大阪高裁判決」という。)及びその上告審である平成3年1月17日の最高裁判決(注4)(以下「3年最高裁判決」という。)が多くの議論に対する現実的な結論を提供したものといえよう。
しかし、50年最高裁判決及び元年大阪高裁判決の結論をもってしては、第2次納税義務者の十分な権利救済は図れないとして、第2次納税義務の告知処分の取消訴訟において主たる納税義務の課税処分の瑕疵を主張できるとする有力な見解がある。
本稿では、第2次納税義務者の権利救済に関する諸学説を概観しつつ、50年最高裁判決及び元年大阪高裁判決を検討し、さらに第2次納税義務の告知に除斥期間は無いとする平成6年12月6日の最高裁判決(注5)も参考として、第2次納税義務者の権利救済についていかに解すべきか考察する。

〔注〕

(1) 昭和34年の徴収法全文改正の方向づけをした昭和33年12月8日「租税徴収制度調査会答申」の第3の1の1第2次納税義務制度のあり方では、次のとおり述べている。「この第2次納税義務の制度は、形式的に第3者に財産が帰属している場合であっても、実質的には納税者にその財産が帰属していると認めても、公平を失しないときにおいて、形式的な権利の帰属を否認して、私法秩序を乱すことを避けつつ、その形式的に権利が帰属している者に対して補充的に納税義務を負担させることにより、徴税手続の合理化を図るために認められている制度である。したがって、この趣旨にそうと認められるものについては、二以下に述べるとおり現行制度を維持し、又はこれを改善し、かつ、新たにその制度の拡充を図ることとすべきである。」本文に戻る

(2) 昭和50年8月27日最高裁第二小法廷判決・民集29巻7号1226頁本文に戻る

(3) 平成元年2月22日大阪高裁判決・税務訴訟資料169号333頁本文に戻る

(4) 平成3年1月17日最高裁第一小法廷判決・税務訴訟資料182号8頁 本文に戻る

(5) 平成6年12月6日最高裁第三小法廷判決・判例時報1518号13頁 本文に戻る

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