糀 光彦

研究部教育官


第1章 序論

本稿は、近年、我が国よりもむしろ諸外国において問題提起されてきたフリンジ・ベネフィットに関する課税問題について研究したものである。
フリンジ・ベネフィットの概念は多義的であり、明確・簡明な定義を与えるのが難しい複雑な性格を有しているがゆえに、従来は、その量的分析及び重要性並びに課税上の取扱いについては、はとんど実感を持たれないで断片的に考慮されてきた。そこで、本稿においては、我々の経済生活における身近な部分に焦点をあて、主として、ヨーロッパ諸国の税制を参考にしつつ、我が国の実体を踏まえた上で、その課税概念、実定法上の具体的取扱い等の内容を比較研究し、今後の我が国における現行税制の運用上又は税制上の改革に資することを目的としている。

1 間題の提起

フリンジ・ベネフィットは、我が国においては、「経済的利益」、「現物給与」、「付加給付」等と訳されており、一般的には、給与所得者が本来の賃金、給与に加えて享受している経済的利益といえる。そのようなフリンジ・ベネフィットは、経済の発展に歩調を合わせるようにして、金額的にも増加していると考えられ、その概念の不明確さや多種多様な発生形態ゆえにその捕捉が困難であり、また、その評価の困難性とあいまって、我が国のみならず、諸外国においても、課税上、優遇的な取扱いがなされている。端的に言えば、フリンジ・ベネフィットを供与する側においては、損金算入が許容されるのに対し、これを享受する側においては、一般的に課税されていないところに問題があるといえる。従って、フリンジ・ベネフィットの利用の増大は、租税収入を浸食し、必然的に課税の不公平をもたらしているという指摘がなされている。

2 本稿の構成

 本稿においては、諸外国との税制の比較が中心となることから、まず、OECD加盟23ヶ国の課税の状況を通観し、その後、ドイツ、イギリス及びフランスの課税体系(課税概念及び実定法上の取扱い等)と我が国の課税体系との比較・考察を行い、フリンジ・ベネフィットについての基本的な考え方、その範囲及び技術的側面等についても併せて敷衍することとする。
そこで、以上の点を念頭に置きながら、フリンジ・ベネフィット税制について、主として、諸外国の税制の考察に重点を置き、次のとおり調査・研究することとした。
まず、第2章において、フリンジ・ベネフィットの概念的フレームワークを構築する。
フリンジ・ベネフィットは多義的概念であるので、その意義及び一般的な特徴を示すとともに、発生形態を明らかにする。
次いで、第3章においては、フリンジ・ベネフィットが増大する理由について従業員側、事業主側、課税当局側のそれぞれの側面から言及し、フリンジ・ベネフィットの給付規模の確認をマクロ的に行い、課税ベースの浸食による課税漏れ (イロージョン) の実態に迫る。それらの実態を踏まえたうえで、フリンジ・ベネフィットの増大により生じる問題について考察する。
第4章では、OECDから1988年に発行された報告書"The Taxation of Fringe Benefits"により加盟23ヶ国の課税状況について通観する。
第5章では、ヨーロッパ諸国のうち、ドイツ、イギリス及びフランスの課税体系(課税概念及び実定法上の取扱い等)並びに我が国の課税体系について考察する。なお、本章は、国税庁税務大学校研究部において、平成5年2月28日から平成5年3月13日の14日間にわたり、税務大学校校長 川 信雄、研究部長 福富 嘉彦、研究部教育官 糀 光彦の3名がヨーロッパ諸国のフリンジ・ベネフィット課税の実態調査として、ドイツ連邦大蔵省、イギリス内国歳入庁及びフランス租税総局等に赴き、調査・検討した結果を参考にして取りまとめたものである。
次いで、第6章では、典型的なフリンジ・ベネフィットについて、前章で比較した3ヶ国について検討を加える。
第7章では、第2章から第6章までの考察を踏まえ、我が国の課税体系に内在する問題について、法制度及び個別事情の観点から述べることとする。

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