(1)


鈴木 宏昌

東京国税局
調査第三部


序章

 租税逋脱行為と租税回避行為は、共に学問上の概念である。租税法の法文に直接用いられたことはないが、これを論じる文献は少なくない。そこでは、主に租税法の解釈の基本問題として取り上げられているが、抽象的な問題であるため論者によってとらえ方が異なっており、2つの概念の意義やそれに含まれる事実の範囲などについて必ずしも明らかではない。
ただし、租税回避行為は、租税逋脱行為とならないことでは、学説上ほぼ一致している。例えば、板倉宏教授は「租税回避は、脱税にはならない。事実を隠したり、仮装したりするものではなく、その行為じたいは真実であるからである。」とされ(1)、金子宏教授は「租税回避は、一方で、脱税と異なる。脱税が課税要件の充足の事実を全部または一部秘匿する行為であるのに対し、租税回避は、課税要件の充足そのものを回避する行為である」とされている(2)。しかし、この考えは、2つの概念の差異がどこにあるかが明らかでなければ、誤った適用がなされる可能性を持っている。例えば、これまで租税回避行為とされた行為が個別の立法によって否認されることになった場合、その行為は租税逋脱行為に当たることはないのか。あるいは、租税回避行為の範囲をどのように考えれば、この考えを適用することができるのか。
そこで、本稿は、主に成立要件を検討することによって、2つの概念の差異及び相互の関係を明らかにしようとするものである。

(1)  板倉宏著『租税刑法の基本問題・増補版』237頁(昭40・6)本文に戻る

(2)  金子宏著『租税法・第2版』 110頁(昭63・3)本文に戻る

Adobe Readerのダウンロードページへ

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。Adobe Readerをお持ちでない方は、Adobeのダウンロードサイトからダウンロードしてください。

論叢本文(PDF)・・・・・・2.51MB